ここはどこ?いつ?一体あんたは誰なのさ?ネタバレ厳禁の不条理SFサスペンススリラー「トランス•ワールド」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(782日目)
「トランス•ワールド」(2011)
ジャック・ヘラー監督
◆あらすじ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とある森の奥深く。夫とドライブ中にガス欠に陥り、ガソリンを買いに行ったまま戻ってこない夫を探していたサマンサは、1軒のキャビンにたどり着く。するとそこに、同じように車のトラブルに見舞われた青年トムが出現。さらに、今度はジョディという女がやって来る。ジョディは恋人と強盗をしてきたばかりで、なぜキャビンにたどり着いたのかわからないという。3人は助けを求めに森を出ようとするが、いつの間にか同じキャビンに戻ってきてしまう…(映画.comより引用)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『出口のない不思議な森に迷い込んだ主人公3人。彼らはいつ、どこからやって来たのか?そしてこの森は何なのか?すべての因果関係が解き明かされた時、彼らがここに存在する意味が明らかになる…』
という、SFチックかつ哲学めいた不条理サスペンススリラーなんですけども、これはハチャメチャに面白かったです!
※記事の後半ではまた例によって野暮なネタバレを書きますが、是非ともこれはオチを知らない状態で見ていただきたいので気になる方は視聴後に読んでいただけると幸いです。また後程ネタバレに触れる際はアナウンスしますのでご安心ください。
こんなワクワクさせられる設定ありますか?
意味分かんないし、不条理だし、結局最後までこの謎の根幹部分は明らかにならないので絶妙にモヤッとさせるくせに、なんか気持ちのいい終わり方するのがまた憎らしいんですよね。
感覚的には少し前に視聴した「パラドクス」(’14)からエグみを取っ払って、希望を残した感じでしょうか。
「パラドクス」は作中でこの“無限ループ”に関してある程度説明をしてくれるため、いっぺんに全てを理解するのは中々にムズいんですけど、なんとなく「あぁ、そういうことなのね」と納得は出来ます。意味は分かりませんが笑
一方で今作は、森に迷い込んだ男女の一見何ら関係の無さそうだった関係がストーリーが進むにつれて明らかになり、“そこから何をすべきなのか”みたいな物語の指針や行動理由みたいなものは明確になります。なんですけども、“この謎すぎる森は何なのか”とか、“どのようにして集められたのか”みたいな重要な部分は描かれていません。
この辺りでもしかしたら好き嫌いが別れるかもですが、おそらく作り手側の中では明確な答えがあるけど、あえてそれを描いていないだけだと思います。
個人的には我々視聴者に想像する余白を残している作品がかなり好みなので私はハマりました。これを書いている今も結局どういうことだったのかいまいち分かっていませんが面白かったです。
今作の監督を務めたジャック・ヘラー氏はこんな名作を生み出しているにも関わらず、それ以外の作品に関してはほぼ情報がありません。 一応、今作の発表から3年後の2014年に名優ミック•ダミチ氏も出演しているモンスターパニック映画「オブジェクト」を手掛けておりますが以降は情報無しです。何があったのでしょうか。
余談ですが、とあるインタビューにて監督は今作の製作費について「非常に非常に低いです。素敵な6桁の数字でした」と証言していることから数十万ドル程だったことが明らかになっています。
また共同脚本の一人としてクレジットされているショーン•クリステンセン氏は2012年に自ら監督•脚本•主演を務めた短編映画「リッチーとの一日」がアカデミー短編映画賞を受賞しています。
そして実は今作の主人公は3人とも超有名俳優と血縁関係にあります。
トム役のスコット•イーストウッド氏は“説明不要の大スター”クリント•イーストウッド氏の息子で、今作で初めて主演を務めました。
またサマンサ役のキャサリン•ウォーターストン氏は「華麗なるギャツビー」(’74)や「キリング•フィールド」(’84)等でお馴染みのサム・ウォーターストン氏の娘です。
そしてジョディ役のサラ•パクストン氏は“ハリウッドの名バイプレーヤー”ビル・パクストン氏の遠い親戚にあたるそうです。
ちなみに、今作で柄の悪いひねくれ者を演じたサラ氏は先日視聴したB級サメ映画「シャーク•ナイト」(’11)では王道のヒロイン(たぶん性格悪いですが)を務めていました。演技の幅が広く、個人的にはかなり好きな俳優さんです。
今作は現在Amazonプライム、U-NEXT、ABEMATV、Leminoにて配信中です。
エグい描写もないですし、オバケとか殺人鬼も登場しませんので、ホラー映画が苦手な方でも楽しめると思います。もっと有名になっていてもおかしくない隠れた名作ではないでしょうか。オススメです!
◇ジョディは恋人のケビンと商店に強盗に押し入る。不思議な店主は要求通り金を渡すも、ジョディは足下にある金庫を開けろと執拗に迫る。店主は「これはあなたのお気には召さんよ」と説教めいた発言をし、それに腹を立てた彼女は店員を射殺してしまう。
所変わってどこかの森。妊娠中のサマンサは車がガス欠になり、行方の分からなくなった夫を探して森の中の小屋にたどり着く。そこで四日前に車が事故で故障し、この小屋に滞在しているという青年•トムと出会う。さらに翌日には小屋の前にジョディが倒れており、その後3人は森を散策して脱出の方法を模索する。しかしこの森はあったはずの小川が翌日には消えていたり、小屋から真っ直ぐ歩いたはずなのに気づけば小屋に戻ってきてしまう。さらに彼らはこの森に迷い込む前、それぞれ国内の異なる州で車の運転中だったということに気づき、また恐ろしいことに異なる年代で生きていたことが明らかとなる。
彼らの因果関係とは…そしてこの森に迷い込んだ理由とは一体…
というのが今作の細かめのあらすじです。
※以降がっつりネタバレします!お気をつけくださいませ!
ということで謎の森に閉じ込められてしまった3人なんですけども、一見なんら関係の無さそうだった彼らは各々が別々の年代で生きていたことが明らかになります。
サマンサは現在は1962年という認識で、ジョディは1984年、トムは2011年でした。トムの持っていた新聞は2011年発行のものですし、ジョディが奪った現金の印刷日は1984年、服の製造年も1984年。そして森の中の防空壕で見つけたワインは1932年ものだし、小屋には時代遅れの無線機がある…
一体今はいつで、ここはどこなんだとなってきます。
妊娠が発覚したサマンサは夫のアダムと共にアダムの両親に報告するための道すがらで森に迷い込みます。信仰する宗教の違いからサマンサはアダムの両親からは嫌われています。
父親は戦死しており、母親は自身を生んだ際に死んだというジョディは冒頭の通り、商店で強盗を働き、店主を射殺した後にこの森にやってきました。
そしてトムは母親が殺人強盗の罪で死刑を求刑され、死刑になる数カ月前に獄中出産でこの世に生を受けました。そして天涯孤独となった彼は教会に引き取られます。
これを逆から考えていくと分かるんですけども、トムの母親がジョディで、ジョディの母親がサマンサなわけなんです。
彼らは皆、毎晩夢で自身が死ぬ瞬間、つまりは未来を見ます。サマンサは急な陣痛に襲われるも夫は出征中で一人きり。助けが来る前に死んでしまいます。
ジョディは刑務所内で死刑執行。
そしてトムは引き取られた教会で日常的に神父から虐待を受けており、ついには耐えかねて射殺。そして自身もその拳銃で自殺しました。
つまり彼らは気づけばこの森に来ていたわけですが、互いの人生や生い立ちを共有したことで自分たちが血縁関係にあることが分かり、さらには夢でそれぞれの未来を見ていたんです。
またサマンサの持っているロケットには母親の写真が入っていますが、ジョディも同じロケットを持っており、写真の人物は自身の祖母だと言います。形見として受け継がれているわけですね。
また物語後半に登場する謎のドイツ人•ナチス党員のハンスはなんとなんとサマンサの父親だったのです。彼もまたサマンサたちと同じロケットを持っており、写真の人物は自身の妻と証言します。
しかしサマンサ曰く、父親は戦争で帰らぬ人となったとのこと。ここらでようやっと彼らがこの森に集まった理由がなんとなく分かってきます。
それは“未来を変える”ということだったのです。
ハンスが戦争で死んでいなければサマンサの母親は再婚して別の土地で暮らすこともなく、自身のお産に付き添ってくれてサマンサの死が回避できた。
そうすればジョディもサマンサと幸せに暮らすことが出来たし、犯罪に手を染めることもなかった。
つまりはトムも教会に預けられることもありません。
すべては『ハンスの死を回避してグッドエンディングを迎えるために子孫たちが一堂に会した』というのが今作の根幹だと思われます。
なんですけどもハンスはそんなこと言われたって意味分からないので当然抵抗しますし、偶然とはいえ揉み合いの最中でジョディを撃ってしまいます。ジョディがここで死ぬということはつまりはトムも消えてしまうのでトムは必死にハンスを防空壕に連れていこうとするも抵抗に次ぐ抵抗で、ついにはジョディが命を落とし、トムが消滅してしまいます。
嘆くサマンサに懇願され、理由は分からずともようやく防空壕に向かうハンスでしたが、上空から落とされた爆弾でサマンサは頭部を負傷。爆撃は激しさを増し、ハンスが無事防空壕に辿り着けたのかも、その後の生死も不明です。
所変わって、あの不思議な店主のいる廃れた商店。小綺麗な格好をし、ずいぶんと雰囲気が違うジョディは何かを感じ取ったのか「ここに来たことがある気がして…」と言うと、店主は「そう思わせる場所です」と返す。そして普通に買い物を済ませた彼女は店を後にする。
そこへまた別の強盗カップルが押し入り、彼女の方は執拗に金庫を開けるように迫るが、店主はまた「そんな人生でいいのか?あなたのお気には召さんよ」と一言。そして発砲音が鳴り響く。
海辺の小さな家ではジョディが母のサマンサと散骨に向かう。新聞には慈善家ハンス•ノイマン(1916〜1985)と書かれている。そしてジョディとサマンサは寄り添うように海へと向かう。
というところで物語は幕を閉じます。
非常に気持ちの良い終わり方ですね。
おそらくはハンスが生き残ったことで未来が変わり、サマンサは存命、そしてジョディもサマンサから一身に愛を注がれ、犯罪に手を染めることなく成長。この時点で1986年ということはおそらくトムは産まれたばかりかこれから産まれるということなのでしょう。
あの店主は一体何者なのか、金庫の中身は何だったのか。もしかしたらこの世を司る神様的な存在なのかもしれませんし、金庫の中にあの世界が広がっているのかもしれません。ちなみに店主が作中で読んでいた小説はSF作家グレゴリー•ベンフォード氏のタイムトラベルを題材としたSF小説「タイムスケープ」です。
これはもう文句無しの傑作ですね。低予算でこれだけやれるって本当にすごいと思います。是非ともご覧になった皆様の御意見などもお伺いしたいです!超絶オススメです!
☆ホームページ開設しております!
もしよかったら覗いてやってください。
渋谷裕輝 公式HP↓