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怖くないのにずっと怖い!悪夢の90分間にあなたは耐えられるか!?元祖激ヤバ!土着信仰カルトホラー「ウィッカーマン」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(804日目)
「ウィッカーマン」(1973)
ロビン・ハーディ監督
◆あらすじ
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スコットランド警察に勤めるニールは、行方不明になった少女を捜すため、とある島を訪れる。そこで彼は島民がキリスト教普及以前のケルト的宗教生活を送っていることを知る。キリスト教徒のニールは島民の特異な風習に嫌悪感を抱きながらも捜査を続けるが…。(Filmarksより引用)
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『独自の土着信仰を持つ島に行方不明の少女を探しにやって来た警察官。彼は島民たちに迫害されながらもこの島に隠された恐るべき真実を暴き出す』
という、外界からほぼ断絶された小さな島を舞台に、そこに古くから伝わる原始的な宗教を信仰する人々の狂気を描いた伝説的なカルトホラーです。
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一説によるとアリ・アスター監督の「ミッドサマー」(’19)の元ネタ(本人は否定も肯定もしていません)とも言われており、いわゆるお化けや殺人鬼が出ることもなく、ミュージカル調のポップなシーン等もあるため、終始雰囲気は明るいけど、常に不安が押し寄せてきて、嫌な夢を見ているような感覚に陥ります。
また、主人公が融通の利かない真面目人間なので、その島の宗教を真っ向から完全否定するので見ているこっちがヒヤヒヤしっぱなしです。
そんな彼の正義感故の立ち居振る舞いも全ては領主たちの掌の上で踊らされているに過ぎないのが明らかで恐怖と共に虚しさや侘しさも湧いてきます。
なんでしょうか。そんな激ヤバな宗教を信仰している島民たちにはもちろん恐怖を抱くんですけども、それ以上に、言い表せないとてつもなく強大な何かが常に渦巻いている気がして、個人的にはそれが何なのかが分からないからこそずっと怖かったです。
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おそらく今作が今上映されたら局所的にですが相当話題になると思います。しかし1970年代にこのテイストは早すぎたのか、あるいは後述するゴタゴタのせいなのか、興行収入的にはあまり芳しく無く、製作費の1割程しか回収出来ていません。
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今作は元々、ヒッチコック監督作品や「アガサ・クリスティ」シリーズ等で知られるイギリスの売れっ子脚本家であるアンソニー•シェーファー氏が大好きなホラー映画の脚本を書きたいというところから企画が立ち上がりました。
そこで旧知の仲のブリティッシュ•ライオン(制作会社)のピーター・スネル社長に相談を持ちかけたところ、当時人気に陰りが見え始めた古典的な怪奇映画(ドラキュラやフランケンシュタイン)ではなく、もっと洗練されたモダンホラーを目指そうと相成りました。
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そこで思いついたのがいわゆる古代宗教をテーマにすることで、当初はシェーファー氏が『警察官が田舎で巻き起こる儀式殺人の調査に乗り出す』というデイビッド・ピナー氏が1967年に発表した人気小説「Ritual」を原作にしようと同氏から映画化の権利を買い取ったはいいものの、うまいこと映画の脚本に落とし込めず、原作とは言っていますがほとんどオリジナルです。
その後、“ウィッカーマン”という儀式の存在を知ったシェーファー氏はそれを軸に話を組み立てて行きました。
そんなタイトルにもなっている“ウィッカーマン”とは、古代ガリア(フランス、ベルギー、スイス、そしてオランダとドイツの一部)で信仰されていたドルイド教における供犠や人身御供の一種です。
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ざっくりまとめると、柳の枝で編まれた巨大な人型の檻の中にドルイド教徒が生贄となる人間や家畜を閉じ込めて、生きたまま焼き殺す祭儀だそうで、ガリアがローマ化するまで存在したそうです。今作のラストシーンでもしっかりと登場します。
それと同時期に、当時「吸血鬼ドラキュラ」(’58)等で人気を博し、怪奇映画の大スターと呼ばれていたクリストファー•リー氏が活躍の幅を広げたいとスネル氏に相談していたこともあり、同氏をメインキャストに据えることが決まりました。
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(https://m.imdb.com/title/tt0070917/mediaindex/?ref_=tt_mv_smより引用)
クリストファー•リー氏につきましては下記の記事で詳しくまとめさせてもらっていますので、もしよかったら併せてどうぞ↓
低予算かつ短期間での撮影を命じられたハーディ監督らはどうにか120分のフィルムを完成させ、ブリティッシュ•ライオンの指示の下、幾つかのシーンをカットして99分のいわゆるディレクターズカット版を作り上げました。
アメリカでのヒットを目指して、B級映画の帝王と呼ばれた名プロデューサーであるロジャー・コーマン氏へフィルムを送るも、「ヒットさせたいならもう少しカットしたほうがいいんじゃない?」と微妙な反応をされてしまい、その後仕方なく87分にまで詰めたものの、コーマン氏は上映権を求めず、結果的にはドライブインシアターのみでの公開に終わってしまいました。
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その後イギリス等で公開をするも、ハーディ監督はオリジナルの120分版の上映を願っていました。しかし当時らしいっちゃらしいんですけどその頃には編集前のネガを紛失しており、慌ててコーマン氏にフィルムの返却を求めるなどの一幕もありました。
しかしこのフィルムの権利があらゆるところに移ってしまった結果、ハーディ監督が携わってたりなかったりする数パターンの再編集版が存在するようで、2001年になぜかフィルムの世界配給権を持っていたフランスのテレビ局がハーディ氏のオリジナルに最も近い99分版(ディレクターズカット)をリリースしました。
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この経緯自体が映画になりそうなものですが、おそらくはこのドタバタの中でまともに上映が行われなかった国などもあったかもしれません。少々不遇な扱いを受けてしまった今作ですが、それゆえに未だに伝説のカルト映画として語り継がれているのがすごいですよね。
また、今作は2006年にニコラス・ケイジ主演でリメイクされております。
こちらもあまり評判はよろしくありませんが、せっかくなので比較検証として近いうちに視聴したいと思います。
現在U-NEXTにて配信中のほか、Amazonプライムにて330円からレンタルが可能です。
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◇ある日、行方不明になった12歳の少女ローワンを探して欲しいと、ハウイー巡査部長宛てに匿名の捜索願いが届いた。さっそく現地のサマーアイル島を訪れたハウイーだったが、そこは領主であるサマーアイル卿が統治する私有地であり、そこで暮らす人々はキリスト教普及以前のペイガニズムを信仰していた。島の人々はハウイーの捜査に非協力的で、ローワンに関しても知らぬ存ぜぬで通す。
酔っぱらった人々は卑猥な歌を大声で歌い、子どもたちは授業で男根崇拝について学び、大人たちは夜になると島のあちこちで性行為に耽る。この状況に敬虔なキリスト教徒で禁欲主義者のハウイーは憤慨。島民の顔色など伺いもせずに強引に捜査を進めていく。
やがて彼は、毎年行われる島の豊作を願う儀式•メイデー祭でローワンが神への生贄として捧げられるのではと推測する。儀式当日、扮装して潜入するローワン。彼は無事にローワンを救い出すことが出来るのか!?
というのが今作の細かめのあらすじです。
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行方不明になった12歳の少女ローワン•モリソンを探して欲しいと、匿名の捜索願いが届いたハウイー巡査部長はさっそくセスナで現地のサマーアイル島へと足を踏み入れる。
しかし、そこはサマーアイル卿が統治する私有地であり、島民は彼の入島を拒む。警察の捜査権を主張して強引に島に上陸したハウイーだったが、ローワンの写真を誰に見せても知らぬ存ぜぬで、「ローワンっていう子はいるけど写真の子はローワンじゃない」と言われる始末。
この島の住民は全員もれなく何だか怪しいです。
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強引に情報を聞き出したハウイーはローワンの母親が郵便局を営んでいることを聞きつけ、さっそく押し掛ける。人型や動物型の絶妙に不快な配色のキモいお菓子が売られている郵便局では母親のメイが応対するも、彼女もまた写真の子に関しては知らないらしく、なんならマーテルという9歳の一人娘がいると言う。
ハウイーが黙々と不気味な絵を描いているマーテルにローワンのことを知らないかと問いただすと、彼女曰くローワンは遊ぶのが大好きな野ウサギとのこと。
一体どういうことなんでしょうか。
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その晩、看板がキモいパブ兼宿屋のグリーン•マンを訪れるハウイーだったが、そんなことなどお構い無しに下品な歌を大声で歌っている客たちは彼がローワンについて問いただすと一斉に沈黙するなど超絶アウェイな状況です。
店主のマクレガーに宿泊を頼み、何だか妙に艶めかしい娘のウィローが色々と案内してくれます。ここで提供される食事は全て缶詰で食えたものではなく、楽しみなんてありゃあしないと愚痴をこぼすハウイーでしたが、ウィローが「食事以外にも楽しみはあるわ」と意味深なことを言い、彼を店の外に連れ出すと至る所で男女が性行為に耽っています。
また、墓に水をぶっかけたり、全裸で墓に抱き着いたりと常軌を逸した行動を取る者までいます。
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めちゃくちゃ敬虔なキリスト教徒かつ禁欲主義者で、婚前交渉は絶対にしない、つまりは性交渉未経験者のハウイーは今まさに目の前で起こっている出来事に驚きを隠せません。さらには夜中に隣の部屋のウィローが壁ドンしながら全裸で歌ったり、なんか木彫りの像を撫で回したり、壁や身体をぺちぺち叩いてハウイーをこれでもかと誘惑してきます。
こんな激ヤバな状況でも、ハウイーはパブに飾られた収穫祭の写真が1971年で途絶えていることが頭の片隅で引っかかっていました。
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翌朝、寝起き最悪のハウイーはウィローからもうすぐこの島でメイデー(五月)祭があることを教えてもらいますが、同時に「あれだけ私が誘惑したのに部屋に来ないなんて…そんな信念じゃ帰るべきね」とヘタレ扱いされてしまいます。
気を取り直して捜査を続けるハウイーは装飾を施した変な棒の周りをグルグル周る人たちを発見。近くの学校のローズ先生にあれは何かと尋ねたところ、「あれは男根の象徴であるメイポールです」と教えられます。
彼女の授業では女子生徒に男根崇拝や生殖についてのあれやこれやを教えており、当然ながら真面目人間のハウイーは激おこです。
ここでも手掛かり無しかと思われましたが、出席簿にはローワンの名前があり、さらに住所はやはりあの郵便局でした。
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ローズ先生曰く、
ローワンはもう生きていないようで、それは死んだとも言えるけどこの島ではそのワードは使わない。この島の人々の信仰では命が尽きた時、魂は自然界の植物やら火や水やら動物に戻る。だからローワンも自然に帰った。教会の庭の土の中で蛇どもの射精に守られて永眠している。
とのこと。もし彼女の話が本当ならばどうやらローワンは半年前に死亡しているようです。
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郵便局では喉の炎症を治すために生きたカエルを口に入れるという謎の治療をやってるし、外では全裸の女性たちが踊ってるしでイライラがピークに達するハウイー。そして、ここでようやくこの島の領主であるサマーアイル卿とご対面です。
「司祭も神父もいないし、島民はヤバいやつばっかりだ!」と最初から喧嘩腰のハウイーはこの島の宗教を完全否定。強引にローワンの墓から棺桶を掘り出すも、中にはまだ死んで間もない野ウサギが入っているだけ。いよいよ領主に殴りかかる勢いでキレまくるハウイーはローワンの居場所を問いただします。
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そんなカッカしなさんなと言わんばかりに冷静を保つサマーアイル卿は、形式にばかりこだわり続けるハウイーに「メイデー祭見たらあんたヤバイよ」と挑発めいたことを言い、まったく取り合いません。
ですが、どうやら昨年この島はべらぼうに不作だったらしく、それ故に昨年の収穫祭(1972年)の写真が無かったわけです。
過去にサマーアイル卿の御先祖が不作の年に生贄を捧げたら次の年は豊作だったという言い伝えが残っていることから、「これはもしかしたらローワンはメイデー祭で生贄として捧げられてしまうのでは?」という答えに行き着いたハウイー。
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“島ぐるみの殺人と隠蔽”
これは流石に自分1人の手には負えないと、祭の前日である今日中に一旦本土に帰って応援を呼ぼうとするも、セスナには何か細工をされたのか、まったく動きません。
腹を括ったハウイーは不気味なお面を被った島民が至る場所から自分のことを見てようがお構い無しに、建物を一軒一軒虱潰しに探していきますがローワンは見つからず。
もうこうなったら明日一人で強引にでも彼女を救い出すしかないと覚悟を決めて眠りにつきます。
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彼が寝静まった頃、マクレガーとウィローが部屋に侵入してきて、火のついた手首(蝋でできてる?)を置いて、おそらくは原因不明の焼死に見せかけて彼を殺害しようとします。
ばっちり起きていたハウイーはすぐに火を消し止め、マクレガーを背後から襲撃。彼が着用するはずだった衣装とお面で扮装して祭に潜入します。
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どうにかこうにか誤魔化して助け出すタイミングを見計るハウイー。そこへいよいよクライマックスとばかりにローワンが生贄として登場します。
すぐさま衣装を脱ぎ捨て彼女を救い出すローワン。追手から逃れるためにローワンが言うままに道なき道を進んで行きます。
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しかし、逃げた先の岸壁ではサマーアイル卿たち島民が待ち受けていました。
全ては彼の計画通り。生贄は別に島民である必要はない…
そうなんです。生贄として選ばれたのは何を隠そうハウイーだったのです。
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成人、自由意志で来たし法を司る王の代表者(警察)、愚か者、性交渉未経験者etc…
ハウイーはこれ以上ないくらいに生贄の条件にピッタリだったのです。
「あなたは作物として蘇るのよ」と島民に取り押さえられながら白装束を着せられ、木で作られた巨大人形•ウィッカーマンの内部に入れらて拘束されてしまうハウイー。ウィッカーマンの足や腕には豚や鶏などの家畜も入れられています。
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何の躊躇いもなくウィッカーマンに火が放たれ、ハウイーは死の恐怖から逃れるかのように旧約聖書の詩篇23篇を叫び続ける。
その一方で島民たちは燃え盛るウィッカーマンを囲み、来年の豊作を願って歌い続け、メイデー祭は最高の盛り上がりを見せるのだった。
というところで物語は幕を閉じます。
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凄まじい作品でしたね。終始圧倒されてしまいましたが、映画好きの端くれとしてこの作品は見ておいて良かったなと思いました。
別にお化けや殺人鬼が出るわけではないですし、暗がりのシーンもあまりないので怖くはないはずなんですけど90分間ずっと怖かったです。
何が起こるか分からないという未知のものに対する不安や恐怖を具現化したかのような映像のオンパレードで、ハマらない人には絶対ハマらないと思いますが、「ミッドサマー」(’19)とかが好きな人は絶対に好きになると思います。オススメです!
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あと全然今作とは関係ないんですけど、冴えないニコラス・ケイジが皆の夢に現れちゃう謎の現象を描いたホラー映画「ドリームシナリオ」がAmazonプライムにて配信スタートしました。
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