姉妹の絆は殺人鬼でも断ち切れない!タイムリープで姉を救って、ついでに未来をイメチェンだ!「タイムカット」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(700日目)
「タイムカット」(2024)
ハナー•マクファーソン監督
◆あらすじ
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2003年、牧歌的な田舎町スイートリーで若者ばかりを狙う連続殺人事件が起きていた。その事件はサマーという学生の死をもって犯人は行方をくらまし、事件は未解決のまま20年が経過していた。サマーの死後に生まれた妹のルーシーは姉の命日に両親と事故現場へと訪れたのだが、そこで彼女は怪しい機械の光を浴び、気づくと2003年にタイムスリップしていた。ルーシーはサマーや科学オタクのクインと協力し、誰も死なない世界線を目指して奮闘する。
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『正体不明の殺人鬼に殺された姉を救うため、タイムマシーンで過去に遡った主人公が未来を変えていく』という、王道のクライムホラーです。
個人的にはこのフォーマットの作品ってよっぽどのことが無い限り大体面白いので、あとはそれプラスで各作品の色や特徴なんかが良い感じに出てくればなぁなんて思っています。
そんな中、今作は『自分らしく生きよう、ありのままでいい、今この一瞬を大切に』といった感じに“何を描きたいのか”が非常に明確かつ、こういうテーマ自体が今の流行りというかどの層にも刺さりやすいテーマなので誰が見ても楽しめる作品に仕上がっていると思います。
正直なところ、このテーマ自体は私もすごく良いと思うんですけど少々押し付けがましいというか、“今を無駄にするな”とか“自分のために”とかあまりにもそういった会話ややり取りが多いので、後半ぐらいから「めっちゃ言うじゃん!」と思ってしまいました。直接的過ぎて説教臭く感じてしまったようにも思います。
作り手側から『この作品のテーマはこれです。なのでこういう風に見てくださいね』とガチガチに決められてしまうと見る方も楽は楽なんですけど、個人的にはもう少し想像したり考えたりする余白を残して欲しかったなぁとも思わないでもないです。
少々ネガティブな言い方になってしまいましたが、普通に面白いです!十分に楽しめる良作になっていますのでどうかご安心ください。昨日に引き続きのNetflixオリジナル作品なんですけどもやっぱりNetflixオリジナル凄いですね。お金掛かってます。
監督を務めたハナー•マクファーソン氏に関しては今作以外に情報が無いんですけども、初の長編映画でこれだけレベルの高い作品が撮れるわけですから要チェックなクリエイターです。
そして脚本には『内向的な女子高生と凶悪な殺人鬼の中身が入れ替わっちゃう』というスプラッターコメディ映画「ザ・スイッチ」(’20)でお馴染みのマイケル•ケネディ氏が携わっています。
「ザ・スイッチ」も今作もティーンズが事件解決のために奮闘するお話なんですけども、程よくコメディ要素も入っていて非常に見やすく、また本人もこういった路線の話が得意なのかもしれません。
今作はNetflixでのみ配信中です。ちなみに「ザ・スイッチ」はU-NEXTで配信中の他、アマゾンプライム等でレンタル(407円〜)が可能です。こちらもオススメです!
という始まり方は王道ながら、流れが自然ですごく良かったです。サマーが大鎌で切られると同時にタイトルバックになるのも非常にかっこいいですし、その20年後、主人公のルーシーが今現在どんな状況に置かれているのかを見せていく序盤のシーンも相当好きでした。
あの凄惨な事件が完全に風化されているわけではないけど、ほとんどの人にとってはただの他人事でしかない。だけど身内を失った者(ルーシーとサマーの両親など)にとってはいつまでも忘れられない、受け入れたくない事実なんです。この温度差みたいなものが短いながらも簡潔に表現されているのが良かったです。
ルーシーは非常に優秀で、NASAのインターンに合格するレベルの子なんですけども、姉が亡くなっていることもあってか両親はルーシーを姉の代わりとして見ている節があります。なもんでルーシーがNASAのインターンに受かったことを報告しても、全然喜んでくれません。彼女は彼女で『姉が亡くなったからその穴埋めとして生まれてきた。じゃあ、姉が生きていたら自分は生まれて来なかったのでは?』という業を背負っており、我々視聴者としてはすごく励ましたいし、応援したくなる主人公になっています。なんですけとも、それ以外にあまりルーシーに関する情報が無く、いまいちどんな子なのかが最後まで分からなかったのはちょっと残念でした。
姉の命日に両親と事故現場を訪れたルーシーは偶然発見した謎の機械の光を浴び、なんと20年前の2003年にタイムスリップしてしまいます。最初は戸惑うルーシーでしたが、自分の手で未来を変えて姉を救おうと決意し、サマーの同級生の科学オタクのクインや最初は半信半疑だったサマーの協力も得て、事件解決のために尽力します。
このタイムスリップした2003年の懐かしい雰囲気みたいなのを表現するのもすごく上手かったです。びっくりするぐらいにみんなカラフルなファッションだし、ウォークマンとかアブリル・ラヴィーンとかその当時の流行とかをさりげなく見せる感じが良かったです。逆にルーシーが“自分が未来から来たこと”を証明するためにクインにスマホや顔認証を見せたりするシーンも面白かったです。
ルーシーが未来から来たことを信じたクインが「シュワルツェネッガーは大統領になったの?」と尋ね、それに対してルーシーが「そうなったらやばい」と返すコメディシーンも光ってました。
サマーが死ぬ前の2003年にルーシーがタイムスリップして色々やるのがメインのお話なので、そこまでをコンパクトにまとめてすぐ本題に入るのも好みでしたし、全体通してテンポがすこぶる良いので尺は85分ぐらいなんですけど、すごく濃密で無駄がないです。
物語中盤の『事件を食い止めるため、犯行現場に駆けつけて殺されるはずの子を救おうとする』というパートはタイムリープもののお決まりみたいな展開なので目新しいところは特にないんですけども、さりげなく伏線やミスリードを散りばめておいて、『果たして犯人は誰なのか』というところを視聴者に考えさせて楽しませてくれます。
ネタバレすると面白さが半減してしまうので犯人については言及しませんが、これはたぶん当たらないんじゃないですかね。「そんなのあり?」ってなりました。大分斬新だと思いますし、脚本の妙が感じられます。
今作では『犯人が誰なのか』というよりも、冒頭でも申し上げたように『自分らしく生きよう、ありのままでいい、今この一瞬を大切に』がメインのお話なので、そういったやり取りがこれでもかとあります。
『サマーが殺されたことで、自分がその穴埋めとして生まれてきた。じゃあ、サマーを救ってしまったら自分は生まれてこないのでは?』と葛藤するルーシー。それでも心の底からサマーを救いたいと全力を尽くしますし、その一方でサマーも『自分が生きていたらルーシーが生まれてこない』ということに気が付き、犯人に追い詰められた時に自らの死を受け入れようともします。
このあたりの姉妹の絆もすごくキレイで印象的でした。テーマに即したセリフややり取りを見せるよりも、こういった『映像で見せる、想像させる』シーンがもう少しあったほうが作品としては厚みが増すようにも思いますが、これはもう私の個人的な感想なので好き好きだと思います。
犯人の正体も解決方法もオチもかなり新しく、そういう終わり方もありなんだと結構衝撃を受けました。でもコメディっぽさは大分控えめな割には少々パワープレイというか強引な所もあり、タイムマシーンの設定、犯人の犯行動機や執念深さ、そしてルーシーたちの両親は本当にそれでいいのか?とか、色々とツッコみたくなる部分も多々ありました。
普段映画見ないライトユーザーの方やグロいのが苦手な方々も楽しめると思います。面白かったです。
☆この度ホームページを開設しました!
もしよかったら覗いてやってください。
渋谷裕輝 公式HP↓