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親父がハエと融合したばっかりに…不幸体質すぎる青年が送る壮絶な人生「ザ・フライ2/二世誕生」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(647日目)

「ザ・フライ2/二世誕生」(1988)
クリス・ウェイラス監督

◆あらすじ
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物質転送装置による遺伝子結合でハエ男と化した科学者セスとの子供を妊娠した恋人ベロニカ。しかし彼女が産んだのはハエの卵だった。科学研究所が監視する卵の中から人間と同じ外見の赤ん坊が生まれ、マーティン・ブランドルと名づけられる。マーティンは研究所で育てられ、わずか5年で大人の体に成長。自分の父が物質転送装置を研究していたことを知った彼は、自らも研究に携わる。そんな彼の肉体に変身の予兆が現れていく。(thecinema.jpより引用)
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『父親同様にハエの遺伝子を引き継いでしまった青年の壮絶な人生。そして自分をこんな目に合わせた研究所の人間たちに対する復讐劇」を描いたSFスリラー映画で、先日視聴した「ザ・フライ」(’86)の正式な続編です。

前作では『意図せずハエと遺伝子結合してしまった天才科学者セスの葛藤と苦悩、愛する者への思い、そして死に対する怯え』を描いており、日に日に自分の身体が変化していくことに不安を抱く主人公を見事なまでに演じきったセス役のジェフ・ゴールドブラム氏と、ハイクオリティな特殊メイクによって作り上げられた思わず目を背けたくなるようなハエ男の醜悪さと憐れさは目を見張るものがありました。

監督は巨匠デヴィッド•クローネンバーグ氏が務めており、同氏の作品の中ではどちらかというと商業映画を意識しているようで誰が見ても楽しめる作りになっていると同時に、随所に光るクローネンバーグ節によって奥深い作品に仕上がっております。

そして今作は監督がクローネンバーグ氏から前作で特殊メイクを担当したクリス・ウェイラス氏へとバトンタッチされており、ウェイラス氏は今作が初監督作品となっております。

VHS版のデザイン
定価で¥15,700です。思い返せば当時のビデオって高かったですよね。(Amazon.co.jpより引用)

そんな今作は前作のSFテイストの世界観はそのままに、『父親同様ハエ男になってしまう主人公が辿る運命、そして復讐』という続編らしい続編となっており、個人的にはかなり楽しめました。

ただ前作と比べるとどうしても内容が軽くなっているように感じ、見応えや満足感みたいなところでいうと劣ってしまっているように感じました。

特に物語後半は「ハエ男になった主人公マーティンが研究所のスタッフたちを次から次へと襲う」というモンスターパニック映画のようになってしまい、もちろんそれはそれでとても面白いですし、クオリティも高いんですけど、前作のような濃密なストーリーや緻密な心理描写を期待してしまっていた分、少し肩透かしを食らってしまいました。

現在配信などは無いようで、私は例によってまた浜田山のTSUTAYAを利用させていただきました。

「Like father. Like son.」(あの父にしてこの子あり)というキャッチコピーがありました。(Amazon.co.jpより引用)
natalie.muより引用
natalie.muより引用

この物語の何が可哀想かって、主人公のマーティンは何も悪くないんですよね。

父親がハエと遺伝子結合したせいで、ハエのDNAが結合した状態の新種として誕生してしまったがために、マーティンはずっと研究対象として周囲から扱われてしまいます。母親は自分を産んだ瞬間にショック死、それからは企業に引き取られて監視される毎日。見た目は普通の人間ではあるものの、成長スピードが異常に早く、また知能も非常に高く、5年ほどで成人男性と同じような見た目となります。

ようやっと研究所内にある一軒家をあてがわれ、物質転移装置の研究に勤しむ中でベスと惹かれ合い、結ばれて、幸せな人生を歩めるかと思った矢先、マーティンの身体は日に日にボロボロになっていき、さらには家の中や寝室も全て監視されていたため、ベスとの行為までもが全職員に見られていました。これによってベスは配置変えを強いられ、離れ離れになってしまいます。

主人公マーティンとベス(cinemanavi.comより引用)

そんな中、父親代わりのように親身に接してくれていた研究所のバートック社長も、「人間とハエの遺伝子を持つ個体」という研究対象としてしか自分のことを見ていなかった事が分かり、いよいよマーティンは逃走してしまいます。

その後、繭の状態になり回収されるも、ハエ男完全体として生まれ変わり、研究所内で大暴れ。職員たちを血祭りに上げ、最後はバートックをとっ捕まえて転移装置に入り、遺伝子交換をしたことでマーティンは人間の姿に戻り、代わりに異形のモノと化したバートックは実験対象として狭い檻の中で飼われる日々を送ります。

365日24時間監視され、周囲に自分の理解者はほとんどおらず、初体験を録画されるわ、父親のように思っていたバートックにも無下に扱われるわ、親父のせいでハエ人間になってしまうわでもう散々です。

『主人公がずっと可哀想』、『唯一の理解者がヒロイン』、『周囲に味方が全然いない』という割と王道のパターンが多く、その辺りが物語の厚みの無さに繋がったのかもしれません。

マーティンの幸せな時間はほんの一瞬でした。
(thecinema.jpより引用)

「社長のペットとナニしたのがまずかったのかねぇ」や「あの女相当好きもんだな」等とマーティンやベスを侮蔑するような発言を連発する警備主任のスコービー、一見良い人そうだけど「やつ(マーティン)を殺すな。お前らより価値のある存在だ」等と平然と言いのけるクズ社長のバートック、前作から引き続き登場のステイシスなど、脇を固めるキャラも個性があってとても良かったです。

そして!

特殊メイクが本職であるクリス・ウェイラス監督自らが手掛けたハエ男のビジュアルやスプラッター描写は出色の出来です。

冒頭のヴェロニカの出産シーンで産み出された気色悪い繭とその中から出てくる赤ん坊ですでに心を掴まれました。以降も、物質転送実験の失敗によって異形のモノと化したゴールデンレトリバーや、父親同様身体がボロボロになり、おぞましい繭の状態からハエ男へと変貌を遂げるマーティン。

この造形は堪らないですね。テンション上がります。
(star-ch.jpより引用)

更にはハエ男となったマーティンが吐き出した消化液で職員の顔面がドロドロに溶ける描写や、落下してきたエレベーターに挟まれた職員の首が吹き飛ぶシーン、クライマックスでマーティンと遺伝子を組み換えられたことで異形のモノと化すバートック社長等など

何度でも見返したくなるほどに素晴らしいシーンのオンパレードでした

全体的にストーリーとしての重厚感はあまりなかったものの、映像作品としては普通に良作の部類に入っていてもおかしくないように感じました。どうしても大ヒットした前作と比べられてしまい、B級感が出てしまっていますが個人的には結構好きでした。

ちなみに今作の脚本や監督の選定はかなり難航したそうで、完成までに紆余曲折あったそうです。

元々は1981年頃からクローネンバーグ監督の製作現場のレポートを務めていたティム•ルーカス氏が「ザ・フライ」の続編の案を出させて欲しいとクローネンバーグ監督に直訴。その内容は今作とはまったく異なったものでしたが、クローネンバーグ氏は他者が提出した案よりもルーカス氏の脚本が面白いと評価しました。

しかし、製作総指揮を務めたスチュアート•コーンフェルド氏はその脚本を映画向きではないと評し、最終的には後に多くのスティーヴン・キング原作作品の監督を務めることになるミック・ギャリス氏の案を採用しました。

ミック・ギャリス氏(ミック・ギャリスWikipediaより引用)

そして今度はそのギャリス氏の草稿をジム&ケンのウィート兄弟が書き直す段階に入ったものの、20世紀フォックスがスケジュールを急かしたことで完成には至りませんでした。

こんなドタバタのタイミングで監督オファーを貰ったウェイラス氏は監督を務めたことがないため当然断ったものの、コーンフェルド氏から「もう推薦しちゃったから」と言われ、泣く泣く引き受けることになりました。

しかし、親子の絆を軸に描いたギャリス氏の草稿をウィート兄弟がなんとか製作の以降に沿ったものに書き換えたアンバランスな脚本をどう映像化していいものか分からなくなったウェイラス氏は監督の辞退を申し出ます。すると20世紀フォックスの重役から脚本家を指名していいから監督をやってくれと言われたウェイラス氏は、後に「ショーシャンクの空に」(’94)、「グリーンマイル」(’99)、「ミスト」(’07)などで監督•脚本を務めることになる、若き日のフランク・ダラボン氏の名前を挙げました。

フランク・ダラボン氏
今作の脚本を担当した時には「エルム街の悪夢3」(’87)や「ブロブ」(’88)など数本のホラー映画で脚本を務めていました。(フランク・ダラボンWikipediaより引用)

そのため、クレジットにはミック・ギャリス、ウィート兄弟、フランク・ダラボンと4人の脚本家の名前がありますが、おそらくはウィート兄弟とダラボン氏がそのほとんどを手掛けたのではないでしょうか。

こういう裏話みたいなものを知った状態で見るとまた違った見方ができて楽しいかもしれません。

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もしよかったら覗いてやってください。

渋谷裕輝 公式HP↓


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