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ジャパニーズ・シューゲイザーに女性消費は本当にないのか?
こんな記事がバズっていました。
このジャンルのファンとして、正直思うところもあるテーマだったので興味があり読んだのですが、当該記事はてんで的外れな内容でしたね。
まずシューゲイザーという音楽ジャンル、そのシーンについての解像度が低すぎます。
本当にシューゲイザーを聴き、またライブハウスに足を運んだことがある方だったのでしょうか。
ただ、私自身、近年のジャパニーズ・シューゲイザーの受容のされ方として、女性の性的消費は実際問題としてあると感じているので、その点について述べていきたいと思います。
結論だけ先に述べるのであれば
性的消費はジャンル限らず存在する
そもそもシューゲイザーと女性ボーカルの相性が良い
シーンにおける女性メンバーの比率が高くなるため、男性ファンが多い
その音楽の性質上、女性消費と相性が良いのは事実
ということになります。
今回の話の対象は主にここ10年ほどのジャパニーズ・シューゲイザー・リバイバルということになるかと思います。
初めに、私はシューゲイザーも好んで聴いている40代の男性です。
その辺りの当事者意識も持ちつつ書いていきたいと思います。
まず、身も蓋もない話ですがアーティストの性的消費というのはジャンルに限らずどの界隈でも巻き起こっていることです。
SSWおじさんなんていう言葉もありましたね。
実際邦ロック、古くはロキノン系と呼ばれた界隈なんかは、若い女の子がイケメンのバンドにキャーキャーいう構図も多いですし、結局のところジャンル問わず一定数そういう消費の仕方をする層はいるということです。
ただ、そうしたありふれた性的消費と(ありふれているから無視していいというわけではありませんよ)
シューゲイザーという音楽ジャンルの噛み合わせの悪さと言えばいいのか、逆に噛み合わせが良いために巻き起こっている事象はあると思っています。
シューゲイザーと女性の相性の良さ
まず事実として、シューゲイザーバンドのボーカルには圧倒的に女性が多いです。
これは事実として語ってしまって良いでしょうし、そこに否を唱える人はあまりいないのではないでしょうか。
そしてその理由について以下のように考えています。
まず、そもそもシューゲイザーという音楽ジャンルが女声と相性が良いという点があります。
シューゲイザーといえば、ウィスパーボイスで歌われる甘ったるいメロディー、歪んだギター、そして深いリバーブが大きな特徴です。
このギターのサウンドはウォール・オブ・サウンドと呼ばれることもあるように、まさに音の壁です。
曲全体におけるギターの占める割合は大きく、周波数帯で見てもかなりの範囲をギターの音で埋めてしまうわけです。
ギターの中心となる帯域は80hz~5Khz 。
人の地声が200hz~4Khz付近ですので帯域としては完全に被っていますが、より中低音に厚みを持たせるギターに対し、女声の特にファルセットの成分はギターの上に少し抜けてきます。
男声は完全にギターに被ってしまうため抜けが悪いのが分かるかと思います。
断っておきますが、男性ボーカルの魅力的なシューゲイザーバンドも数多くいますよ。
御三家とも言われるRIDEにしてもそうですね。
しかし、周波数的な特徴や、そもそものシューゲイザーに付随する儚げといったイメージとの親和性を考えれば、女声の方が有利である場合が多いということは納得いただけるのではないでしょうか。
女性を消費させる下地
さて、音楽、もっといえばエンターテイメント全般、どのジャンルにも一定数その対象を性的に消費したがる人というのは存在します。
しかし、男女比を見た時に、ボーカルに関しては明らかに女性比率が高いと初めから明らかな音楽ジャンルがあった場合どうでしょうか。
そうしたバンドばかりが集まるイベントが定期的に開催されているとしたらどうでしょうか。
会場の規模も大きくはなく、その出演バンドの大半がまだ事務所やレーベルに所属していないか、駆け出しであり、メンバー本人が物販に立っているとすればどうでしょうか。
かつてAKB48が登場した時、キャッチフレーズは「会いに行けるアイドル」でした。
会いに行ける女の子を近距離で”鑑賞”し、コミュニケーションをとり、相手に認知されることをモチベーションに通い詰める、そうしたアイドル的な消費の仕方をシューゲイザーバンドが集まるライブハウスに持ち込む人が増えるのは自然な結果だと思います。
そして、シューゲイザーに付随する儚げな印象もまた、未熟さを好む日本人の嗜好とマッチしているといえます。
つまり、未熟な若い女の子を消費するアイドル文化とシューゲイザーの間には高い親和性があるのです。
実際、そこに狙いを定めたのであろう、シューゲイザーアイドルを冠したRAYというグループもいますね。
良いグループなので聴いたことがないのであれば聴いてみてもらいたいですが、それはそれとして。
シューゲイザーの女性消費
ただ、アイドルであればさほど問題はないのです。
いえ、アイドルの性的消費についても根深いテーマであるのは理解しています。
しかしアイドルは矢面に立つ側もそう消費されることを初めからある程度理解し、多かれ少なかれ受け入れているパターンが多いでしょう。
実際、容姿は本人たちが売り物にしているものの筆頭なのですから。
それに対して、あくまで音楽を売り物にしているはずのバンドがアイドル的に消費されることに問題があるのです。
元記事もそこに対する不快感に端を発しているのではないかと思ったのですが、論旨がブレブレでしたね。
繰り返しますが、こういう消費の形は他ジャンルでも、女性ファンから男性アーティストに向けても行われています。
シューゲイザーに限ったことではありません。
ですが、そもそもジャンルとしてボーカルの女性比率が高いことや、
シューゲイザーの性質ゆえ、対象の女性が儚げで線が細い印象であったり、やや”陰”の要素を纏っている場合が多いことも影響して、他ジャンルと比べてもやや目立っているように思えます。
いわゆるクラスのマドンナ的な陽キャラではなく、オタサーの姫的な、俺でもワンチャンあるんじゃないか、みたいな消費の方向性ですね。
本当にワンチャンあるかもと思っているのかは分かりませんが、AKB48のようなキラキラした女の子たちが刺さらなかったオタクたちの受け皿になっている面はあるのではないでしょうか。
もちろん女性メンバーを消費することが主目的ではなく本当に音楽的に好きだから聴き、ライブハウスに足を運んでいるファンも大勢いるでしょう。
しかし同時に、音を楽しむ一方で女性メンバーを消費したいという欲望も同時に満たしているケースも多いのではないでしょうか。
ついでにいえば、マニアックな音楽ジャンルですから、表面上はアイドルの現場と違い、自分は分かってる側の人間だ、という硬派な顔を保ったまま推し活ができるわけです。オイシイですね。これは予想ですが。
事実、私自身シューゲイザーバンドが集まるイベントに足を運んだことがありますが、会場の男女比率はいつも圧倒的に男性多数です。
最もこれに関しては通ったライブの本数の少なさや地域性の偏りなどもあり、データとしては弱いのは理解しています。申し訳ない。
分かっていても乗るしかない現状
また、ジャパニーズシューゲイザーの金字塔を打ち立てたと言っても過言ではないFor Tracy Hydeの夏bot氏にしても以下のような発言をしています。
—その後2015年5月にラブリーサマーちゃんが脱退。そのポストに新たに抜擢されたのがeurekaさんというわけですが、新たなボーカリストを探すにあたって、どんな条件というか、どのようなイメージを抱いていたのでしょうか?
夏bot:……何かあんまり本人が目の前にいる状態で言うのもあれなんですけど、見た目のよろしい方を入れたいという気持ちがありまして(笑)。
―すごい大事なことですよね(笑)。
夏bot:それこそ「歌唱力は二の次で、見た目を大事にしよう」くらいのつもりで、Facebookにいる女性の友達を全員片っ端から見ていって、ピンときたのがeurekaなんです。
氏のこの発言は、そういう現状があるのを当時から深く理解していたからこそ上手く利用してやろうという打算的な立ち回りと解釈していますが、ここまではっきり言語化していることに面食らうのと同時に少なからずショックを受けたのを覚えています。
メンバーチェンジ以前から既にFor Tracy Hydeとして盤石な地位を築いており、長くシューゲイザーのシーンを見てきた氏にしてこの発言ですから、やはり女性の性的消費は確かにあるのでしょう。
また、この辺りはもし専門的に研究されている方がいらしたら是非論じていただきたいのですが、
・90年代に生まれた音楽ジャンルのリバイバルということもあり、そもそもファン層におじさんが多い
・近年のジャパニーズ・シューゲイザーの一定数はメロディーに注目してみるとアイドルの楽曲にも近い
そうした点もアイドル的消費を加速させている要因なのでは、と睨んでいます。
最後に
だらだらと書いてきましたが、私自身もいい歳したおじさんなので、好きなバンドを性的に消費してしまっていなかったか?本当に純粋に音楽を聴いていたのか?
と見つめ直すきっかけになりましたね。
繰り返しになりますがまとめると、
性的消費はシューゲイザーに限ったことではないし男性ファン→女性メンバーばかりではない
とはいえシューゲイザーはその性質上、女性消費に陥りやすいジャンルなのは事実であり、実際にそうなっている側面は無視できない
ということになります。
私を含めファンの方は例の記事を見てムッとしたでしょうが、それこそアイドルや声優、先に述べた女性シンガーソングライターの消費の仕方など、これまで他ジャンルでもそういう話はされてきました。
それがついにシューゲイザーにもその順番が回ってきたということでしょう。
マニアックな音楽ジャンルだったはずのシューゲイザーが、こういう話題で引っ掻き回されるくらいファンの母数が増えたということでもあると思います。
複雑ですが、ある意味喜ばしいことでもある。
だからこそ今一度ファンとしてその音楽の消費の仕方を見つめ直す時期なのかもしれません。