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香りたい絵画 -プリマヴェーラ-

春になると思いだす絵画。
その名も『プリマヴェーラ』イタリア語で春という意味だそうです。

「この世界を香ってみたい。」そんな気持ちで、実際に描かれている草花をヒントに精油をブレンドしてその場面に香っていたかも知れない香りを表現するシリーズ。今回はプリマヴェーラの香りをブレンドしてみました。

絵画の香りをブレンドしてみようと思ったきっかけと過去の記事はこちら↓

【プリマヴェーラ/サンドロ・ボッティチェリ】

初めて見た時の感想は・・・
なんだか騒がしい絵だなっといった感じ。
なんだか目まぐるしく色々なことが展開されているような印象で、
1枚なのになんか忙しいし騒がしい。

それもそのはず、描かれた場面について調べてみると、
私が感じた感覚の原因がわかり、納得。
この中に時空の違う出来事が一緒に描かれているんですね。
過去と未来が一緒にやってきたような場面が私を「騒がしい」と思わせたようです。

過去と現在なのか、現在(その瞬間)と未来なのかはわかりませんが、
西風ゼフュロス(向かって右の青い人)につかまったクロリス(右から2番目の女性)が花の女神フローラ(右から3番目の女性)になったという変身物語が1つの場面の中に同時に密接して描かれている。
時空の違う出来事を同時に見ている状況。
全く顔が違いますが、クロリスとフローラは同一人物です。

クロリス フローラ

ヴィーナスとフローラが一緒にいるだけで、かぐわしい花の香りが漂っているんだろうなと想像できるこの絵には、とんでもなく沢山の植物が描かれています。
頭上をかざるオレンジや、ヴィーナスのアトリビュートであるローズ、クロリスのアイリスだけでも十分いい香りを想像させるのですが、これ以外にも香るものたちが沢山緻密に描かれています。

この絵が誰のためにどんな意味をもって描かれたのかについて、ボッティチェリ自身は何も語っていないそうですが、1981年、この絵の謎を解くきっかけがやってきました。
1981年に行われた修復で、表面に塗られえたニスの変色によって隠れていた色鮮やかな花々が次々と顔を出します。
その数、草原の部分だけでも40種を超え、全部で500本の植物が描かれていたそうです。

500本?!はぁぁぁ・・すごい、しかも緻密に・・・と思った時、
思い浮かぶ一人の画家、アルブレヒト・デューラー(1471-1528)。
彼の緻密さとかを見ていると、素晴らしいとも思うのですが、
なんだか少し笑えてしまう私。
しつこいっていうか、細かい性格だなぁってフっと笑みがこぼれてしまう。

そんな私を微笑ませるデューラーは、植物の精密描写の第一人者とされていていました。
しかし、『プリマヴェーラ』の修復による発見により、ボッティチェリがその座を奪います。
以前は、画家たちが写実的に植物を描き始めたのは16世紀ごろからと考えられていたのですが、『プリマヴェーラ』が描かれたと推定される年が1481年と考えると、デューラーよりずっと前に植物を精密にリアルに描いていたということがわかったそうです。

ボッティチェリもデューラーみたいな粘着質な性格だったんだろうか・・・


サンドロ・ボッティチェリという人

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この絵の作者サンドロ・ボッティチェリ 本名アッレッサンドロ・ディ・マリアーノ・フィリペーピは1444年か1445年にフィレンツェで生まれました。
この人もレオナルド・ダ・ヴィンチやカラヴァッジオのようにあだ名が有名になったタイプの人ですが、「ボッティチェリ」は「ダ・ヴィンチ」「カラヴァッジオ」と違って出身地ではないそうです。
なぜそう呼ばれるようになったのかについては諸説あるようですが、理由はどうあれ、音律がとてもかわいらしいこのあだ名が彼を表す名前として知られています。

ボッティチェリによる『東方三博士の礼拝』の中に描かれた向かって右端でこちらをじっと見ている存在感のある人・・・これがボッティチェリの自画像だといわれています。 なんかちょっと気難しそうだけど、笑ったらかわいい感じですよね。

花の都フレンツェで生まれ育ったボッティチェリは『プリマヴェーラ』にフレンツェの春を植物を使って再現し神話の世界と融合させました。

描かれた草花

描かれた草花、その数500本。
花だけでも40種くらいだとか。

さすがに「これが描かれています」とすべての植物の名前を紹介するような文献はなく。。。
それでも、沢山の特定できる植物の名前が紹介されていました。

・オレンジ ・月桂樹 ・イトスギ ・イチイ
・ローズ ・ヒメツルニチソウ ・マーガレット
・クリスマスローズ ・マツヨイセンノウ
・アイリス ・亜麻の花 ・カーネーション
・ヤグルマソウ ・ノポロギク ・スミレ
・ワスレナグサ ・フキタンポポ ・ユリ
・ヒヤシンス ・スイセン ・ヒマワリ
・アネモネ ・クロッカス ・アンカンサス
・シダ ・オオバコ ・ナデシコ ・ヒナギク
・ムスカリ ・ノイチゴ ・ミルテ
各種文献に記述があるものとして計31種。

これが全部特定できるってすごい。

描かれた草花は、実際にイタリア・トスカーナ地方の春に見られる草花で、
生の植物を手元において正確に再現したのではないかと考えられるくらい、かなり細かいところまで描かれています。
ボッティチェリは当時の「花の都フィレンツェ」の春を画面いっぱいに再現したんですね。

だとすると・・・この時期のイタリアの草原に見られる植物のタイムやミント、ローズマリーなども私が読んだ文献には名前が出てきていないけれど、この絵の中には描かれているんでしょうね。

それも踏まえて・・・
これらの植物の中から、香りに特化したものをピックアップ。

【 植物名  : 精油名 またはフレグランスオイル名 】
■アイリス:イリス
■ミルテ:マートル
■月桂樹:ローレル
■イトスギ:サイプレス
■ローズ:ローズ・アブソリュート
■スミレ:ヴァイオレットリーフ / ヴァイオレット(フレグランスオイル)
■ヒヤシンス:ヒヤシンス(フレグランスオイル)
■ローズマリー:ローズマリー・シネオール
■ミント:ペパーミント
■オレンジ:スイートオレンジ / ネロリ
 木全体が描かれているので、葉も枝も花も果実もあるのですが、
 絵の状況的に特に香っているとしたら果実と花かなと思うので、
 この2つで。オレンジが結婚を意味しているそうなので甘味のある
 スイートオレンジの精油をチョイス。

香りのブレンドレシピ

■スイートオレンジ 5.5滴
■イリス 5滴
■マートル 3.5滴
■ネロリ 3滴
■ローレル 2.5滴
■ローズ 2.5滴
■サイプレス 2滴
■ヴァイオレット 1.5滴
■ヒヤシンス 1.5滴
■ローズマリー 1滴
■ペパーミント 1滴
■ヴァイオレットリーフ 0.5滴

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この絵の場面にいたとしてこのシーンを体感するならば・・・
顔の位置に近いオレンジ・月桂樹・イトスギの香りが第一印象の香りとして、そして中心にいるのはヴィーナスだからローズが目立って、足元で香る沢山の香りたちは控えめに。そんなイメージでブレンド。

絵を見た時の印象はすごく華やかなフローラルなのかなと思ったのですが、
思っていたよりも爽やかさと清潔感のある香りが出来上がりました。
ローズやヴァイオレットの香りもあるので、香水のように後からもしっかり華やかな香りが漂ってきて・・・
たとえるならば、伝わるかよくわかりませんが、お土産でもらうようなヨーロッパの石鹸の香りみたいな・・・

プリマヴェーラに込められたもの

プリマヴェーラの意味するものは何なのか・・・
長い間議論の的となっていたこの議題。
近年ではメディチ家の当時の当主のロレンツォ・デ・メディチの又従弟にあたるロレンツィーノの結婚記念のために描かれた可能性が高いとされているそうです。

オレンジはメディチ家の象徴で、オレンジの木は古代ローマ神話では結婚を意味するもの。
ローレルの木はロレンツォを暗示していて、2本あるのでロレンツォがローレンツィーノの結婚祝いに贈ったものと考えられる。
ゼフィロスに捕まったクロリスは結婚後に花の女神フローラに変身する。
ここにも結婚が描かれていて、アイリスはクロリスの結婚に際して贈られた花・・・

改めて香りと一緒にたのしむこの絵画は、最初の騒がしい印象はどこへやら、なんとも幸せに満ちた気持ちになる。


これまでアップした記事の流れでいくと、この後は同じ絵画について描かれた草花の効果・効能にフォーカスした記事へと続いていくのですが・・・

この絵画に描かれている草花たちは、以前書いた記事のように効果・効能が意識されて描かれているということは残念ながらないと思います。
ですが・・・今回紹介した植物以外にも、プリマヴェーラに描かれた草花の中には、結婚・愛・貞節などを意味しているものが沢山あって、象徴としての植物を深掘りしていくのも楽しいですよ。

こんな風に、香りと一緒に鑑賞することで、読んでいただいているあなたが、この絵のこの物語の世界に前よりほんの少し深く入り込むことができたとしたら幸いです。

プリマベーラのように具体的に草花を画面に描いてはいないけれど、「そこにはこれが香っているだろうな」と香りやハーブの存在を感じられる絵画があるのですが・・・

そのお話しはまた今度。




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