マークの大冒険 現代日本編 | 神殺しの聖槍
マークの部屋で、マークと夜が話していた。ヴィクトリア朝風のクラシックな部屋の造りで、古書が大量に詰まった巨大な本棚とアンティークの机が特に目を見張る。机の上にはシェイクスピアの『真夏の夜の夢』とワーグナーの『ニーベルングの指環』の挿絵本が飾られており、その傍らには聖母マリアの銀製彫刻が置かれている。陽光が注ぐ出窓には香料が置かれており、ウッド系の優しい香りが部屋を包んでいた。マークと夜は向かい合うように置かれた椅子に腰掛け、紅茶を片手にしていた。夜は足を組み、紅茶に口をつけた。
「美味しいわね。こんなに美味しい紅茶は初めてかも」
夜はお世辞でなく、紅茶の美味しさに本当に驚いているようだった。
「だろ?一応、高級茶葉だ。日本じゃ、そう飲めない」
黄金色のミルキーウーロンが甘くクリーミーな香りを放っている。マークはカップに注がれたミルキーウーロンを眺めながら語り出した。
「ロンギヌスの槍、神殺しの聖槍。もちろん、知ってるだろ?」
「ええ」
「10年前、ボクはロンギヌスの槍でホルスと共にイエス、いや、アイオーンを葬った」
「神殺しの大罪......」
「ああ、そうだ。それがボクが過去を封印していた理由だ。このことが知れたら、ボクは無事ではいられない。ボクがアイオーンを葬ったことで、世界に二度と救済は訪れなくなった。けれど、そんな大罪を犯してまでも、ボクはこの世界が守りたかった」
「アイオーンを止めなければ、この世界線が消えることになってた?」
「きっとね。ボクらの世界線が消えるのか、キミがいた橘の生きる世界線が消えるのか、もしくは両方とも消えて別の世界線が残るのか、それは分からなかったが」
「きっと、みんなにとって良いことをしたのだと思う。私だって知らないところで勝手に消されたくはないもの。そんなのあんまりよ、腹が立つわ」
「だと良いが。エジプトでのアイオーンとの戦いは、本当に苦しいものだった。彼が呼び出した十三使徒は激しくボクらに抵抗した。アイオーンが消えると、彼の力で呼び出されていた使徒たちも消えていったがね。消え際にみんな悲しそうな顔をしていたよ。彼らはボクを祝福を拒む忌まわしい存在と言って消えていった。それと、ボクは聖母マリアにも会った。十三使徒はアイオーンを盲信していたが、マリアだけはアイオーンの計画に懐疑的だったんだ」
「マリアは何を?」
「マリアだけが最後までボクの味方だった。マリアに訊いたんだ。アイオーンの弱点を」
「弱点?」
「彼の弱点は、母マリアに他ならない。それは福音書のカナの婚礼の場面からも実は分かる。答えは既に聖書にあったわけさ。機嫌を悪くして会場の誰の指図も受けなかった彼が、母の言うことだけは聞いて最終的にワインを出現させたんだ。マリアはどこまでも慈悲深い。人智を超えた慈愛に満ちている。だから彼女だけが当時のボクの心境を汲み取ってくれた」
「それで、アイオーンをどうやって?」
「マリアの提案で彼女自身を人質に取った。そして、彼女からアイオーンの磔刑で使われたロンギヌスの槍の刃を手渡された。槍の在処は、ローマ帝国、フランク帝国、神聖ローマ帝国、ドイツ第三帝国、アメリカ合衆国ら時の覇権国家にあると言われてきたが、なんてことはない。磔刑と葬儀の場に居合わせたマリアがずっと持っていたんだ。この槍の刃はアイオーンが受肉した際の血を帯びた特別なものだった。この性質を利用して、ボクはホルスと共に再臨したアイオーンを葬った」
To be Continued...
Shelk🦋