乗り物・建物を盗む方法『ふしぎなくすり』「すすめロボケット」クスリで大失敗⑨
「クスリで大失敗」と題して延々記事を書いているが、とりあえず本稿で一区切り。今回は薬ドタバタものの原点的な作品を取り上げてみたい。
なお、これまでのクスリ関連記事は以下。気になるものがあればチェックしてみて欲しい。(あまりPVが伸びていないようなので・・)
「すすめロボケット」『ふしぎなくすり』
「小学一年生」1962年9月号+特別付録
上記のリンクの中で「てぶくろてっちゃん」の『いろんなクスリで大失敗』という作品を取り上げているが、こちらはタイトル通り、これでもかと多種多様の薬を登場させて、終始ドタバタが繰り広げられていく。
本作はここから8ヶ月後に発表された作品で、こちらは体が小さくなる薬をテーマとして描かれている。なので、薬ドタバタものというよりは、「宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)」へと連なっていく「体が小さくなる話」の原点と言える。
なお、「てぶくろてっちゃん」は講談社の学習誌、「すすめロボケット」は小学館の学習誌でそれぞれ連載されていた。そして、この二作が対象となって、1963年に第8回小学館漫画賞を藤子不二雄先生が受賞されている。
改めて読み返すとよくわかるが、この二作で描かれる主題は、その後の藤子作品で繰り返し描かれるものばかり。
例えば、「タイムマシン」という藤子F先生最大のテーマについては、「てぶくろてっちゃん」が『時間きかい』、「すすめロボケット」が『ふしぎなはこ』という作品で描かれている。
「透明人間」という頻出のテーマでは、「てぶくろてっちゃん」が『とうめい人間』、「すすめロボケット」が『見えなくなるくすり』でそれぞれ描かれる。
その意味で、この二作は藤子研究には絶対に欠かせない作品なのである。
さて、中身について見ていく前に、そもそも「すすめロボケット」のことが分かっていない! という方がいらっしゃると思うので、心当たりある方は下記の紹介記事を読んでいただきたい。
本日は、ロボケットが製造されてちょうど一年、一歳の誕生日である。隣の家のガールフレンドみきちゃんが、お祝いに手作りケーキを持ってきてくれる。
ホンワカする物語の始まりだが、悪と対決する「海の王子」タイプの作品でありながら、日常の空気感を大切にする「すすめロボケット」らしい立ち上がりである。
ロボケットが蝋燭(一本)の火を消そうと息を吹きかけると、加減がまるでできないので、ケーキごと吹っ飛ばしてしまい、みきちゃんの顔面にべチャッとぶつかりクリームまみれに。ドリフターズのコントのようである。
さらによせばいいのに、勿体ないと言い出して、すすむとロボケットで、みきちゃんの顔についたクリームを嘗め始める。弱り目に祟り目ということで、ついにみきちゃんは泣きだして帰ってしまう。
この一連のドタバタが、まさしく藤子的に個人的に気に入っているスタートである。
この後みきちゃんの機嫌を直してもらい、もう一回ケーキを作ってもらうことになるのだが、この時、科学者であるみきちゃんのお兄さんが作った「なんでも小さくする薬」をクリームと間違えて使ってしまう。
知らずにケーキを食べたすすむとロボケットは体がうんと小さくなってしまうが、何のことはない、水で濡らすと元の大きさに戻ることができる。割と手軽な(逆に手軽すぎる)縮み薬なのであった。
この薬の使用用途としては、大きな荷物を小さくして運んだりすることを想定している。薬を分けて貰ったすすむたちも、バスの乗客を小さくして混雑を緩和させてあげたりする。
ところが、その様子を見ていた悪者二人組が、車でロボケットに体当たりして、小さくなる薬を奪って走り去る。後を追うも、悪者たちに薬を使われて小さくなられてしまい、見事に逃げられてしまう。
それから、毎晩のように薬を使った泥棒が横行する。家が盗まれ、飛行機が姿を消し、大砲や戦車も紛失する。小さくする薬があれば、どんなに大型のモノでも簡単に奪われてしまうのである。
悪者たちは、集めた乗り物や建造物を外国で売りさばこうと考える。一方のすすむたちは、みきちゃんのお兄さんが作った「ロボット警察犬」を使って、港を出たばかりの大型船に悪者たちが乗っていることを突き止める。
ここまでが、本作の前半戦、本誌に掲載された部分で、ここからが、本作の後半戦、本誌の特別付録に掲載された部分となる。
船内で、悪者たちとすすむたちの対決が始まる。先手を打って、悪者たちは小さくしていた戦車を元の大きさに戻し、すすむたちに突撃してくる。しかし、怪力のロボケットの反撃にあって、海上へと投げ出されてしまう。
悪者たちはジェット機に乗り換えて海から脱出。ロボケットがロケットに姿を変えて後を追う。そうそう、ロボケットとは、ロボットとロケットの合成語なのである。
悪者たちは追跡してくるロボケットに爆弾を投げつける。これが見事に爆発して海へと落下。気絶しているロボケット、すすむ、みきちゃんは悪者たちに捕まり、薬で小さくさせられ、箱の中に閉じ込められてしまう。
小さくなってしまうと、ロボケットも力が発揮できない。何とか箱から脱出して水を探すことに。途中、悪者たちが集めた小さくなった大砲や戦車などを見つけて、これらを駆使して悪者たちと対決することに。
すったもんだありつつ、やはり体が小さいハンディキャップは乗り越えられず、網に掛かってしまう。絶体絶命のピンチだったが、そこへ雨が降ってきて、体が濡れて元の大きさに戻ることに成功。
この辺りのピンチをひっくり返す流れは、それこそ「のび太の宇宙小戦争」を彷彿とさせるものである。
雨に濡れて、小さくしてあった家なども大きくなってしまったことから、船が重みに耐えきれず沈み始める。ロボケットのおかげですすむたちは大丈夫だが、悪者たちはそうもいかない。
ここで悪者たちは降参し、自ら体を小さくして、狭いロボケットの中に一緒に乗せてもらうのであった。
さて、家へと戻り、三度ケーキを持ってくるみきちゃん。ロボケットが再びろうそくの火を消そうと息を吸い込んだところで、みきちゃんは冒頭のケーキまみれの風景を思い出す。
「待って」とロボケットを制止して、扉の奥へと逃げ込むみきちゃんなのであった。
うん、終わり方もおしゃれで良いですわ。