ゴン太とユメ代の場合「バケルくん」より/藤子恋愛物語⑲

「バケルくん」という作品がある。1974年から76年にかけて小学館の学習誌で連載し、49作品が発表されている。(その後、続編が1984年に4作品描かれている)

平凡な少年カワルが、ひょんなことから宇宙人から変身人形を譲り受け、バケルくん(とその一家)に変身して、活躍するというお話である。

バケルくんのファミリーはそれぞれ特色があるのだが、バケルの姉であるユメ代は、とても優秀な頭脳を持っている。また、容姿も可愛いので、彼女に惹かれる男性なんかも出てくる。

バケルくん世界のジャイアンこと、ゴン太もその一人。いつしかユメ代のことが気になりだして、やがて本格的に恋に落ちていく。

しかし、ユメ代の実態は、ガキ大将・ゴン太の支配下にあるカワルである。カワルは、ゴン太の気持ちを察知して、ユメ代の姿となって揺さぶりをかけて、思い通りにコントロールしようと考える。

本稿では、構造的に絶対に報われないゴン太の恋について、時系列に沿って見ていきたい。


『変身人形で大騒動』「小学三年生」1974年5月号

本作は、ゴン太の一目惚れが描かれる、いわば恋の「エピソード1」

自室で頭のいいユメ代に変身して宿題を捗らせていたカワル。母親が部屋に入ってきたので、思わず自分含めたファミリーの人形を思わず二階の窓から投げ捨ててしまう。

ユメ代の姿でバケルファミリーの人形を探していると、ゴン太と鉢合わせとなり、「素敵な人だなあ・・・」とあっさり一目惚れされてしまう。

その後、ユメ代の姿でゴン太にお願いごとをすることになり、頼まれたゴン太は大張切り。酷い目に遭わされつつも、「俺、ユメ代さんのためならなんでもするから」と宣言する。

ユメ代の中の人であるカワルは、「ゴン太に好きになられるなんて、不思議な気持ちだな」と思うのであった。


『カワルを名選手に』「小学三年生」1974年9月号

カワルは野球が大好きだが、全く得意ではない。よって絶対負けたくない試合などは、チームの監督であるゴン太に呼ばれないこともある。

カワルはどうしても試合に出たいので、ユメ代に変身してカワルを起用するようゴン太を説得する。ゴン太のユメ代への好意の悪用である。

ところがゴン太の計らいで出場したものの結果が残せず、もうユメ代の相談でもカワルを試合には出さないと心に決めるゴン太。

そんなゴン太を懐柔するべく、ユメ代に変身して、一度ゆっくり話をしたいのでバケルの家に遊びに来るよう伝えると、「行っていいの?」と大ハッピーとなるゴン太。

誘われた通りにゴン太が遊びに来たので、「ちょっとサービスしてやろう」といって水着姿となり、プールで泳ごうと誘う。この時、ユメ代はスタイル抜群であることがわかる。

好きな子が突然水着になって「お待たせ」と出てくるので、文字通り飛び上がって衝撃を受けるゴン太。

二人でしばらく泳いだ後、「なぜカワルを意地悪するのか」と問うと、ゴン太は「下手くそなくせに野球マニアだから困る」と答える。

そこでユメ代は、カワルを育てて名監督になればいいと話を持っていき、「お願い」とウインクなどを畳みかけて、ついに「いっちょう育ててみるか」とゴン太のやる気を引き出すことに成功する。

しかし、指導に目覚めたゴン太に、風邪気味でも野球の練習に駆り出される羽目になるカワルなのであった。


『ユメ代さんけっこんして』「小学三年生」1974年12月号

さて、前作では二人っきりでユメ代と会話できたゴン太。いよいよユメ代への思いが募っていき、ついには結婚を申し込むことになるのが本作。

ユメ代に言われたのでカワルを野球で使い続けているが、相変わらず成績は振るわず、ついには堪忍袋の緒が切れる。

カワルはその仕返しとして、ユメ代に変身してゴン太を冷たくあしらうのだが、これが効果てきめんでゲッソリとしてしまうゴン太。

そこでカワルに間を取り持ってもらおうと、試合の出場を担保に手紙をユメ代に届けて欲しいと願い出る。

手紙にはユメ代が好きだということと、クリスマスに何かプレゼントを贈りたいと書かれている。そこで、ゴン太が命より大事にしているというジャイアンツの選手全員のサイン入りボールを要求する。

さすがにこれには強い衝撃を受けるゴン太。ユメ代としてはあまりに高いボールを投げつけた形である。

しかしゴン太はそれでもユメ代が喜ぶならと、サインボールを持ってユメ代の元を訪ねてくる。からかったつもりが、本気(マジ)な対応を見せつけられて、思わず感動で一粒の涙をこぼすユメ代。

今後は仲良くすると約束するのだが、そこでゴン太が「大人になったら結婚してくれるう?」と切り出してくるので、さすがにこれには返答できない。

そこでバケル一家の両親に変身して、「立派な大人になってからユメ代の気持ちを聞いて欲しい」と、うまくその場を収めようとする。

ゴン太は「うんと勉強して立派な大人になります」と強く宣言し、何と翌日からは野球をやめて通塾すると言い出す。

結果、野球の試合に出してもらえるという返事は反故にされてしまうのであった。


『ゴン太、ユメ代に変身』「小学三年生」1975年3月号

将来ユメ代と結婚するまで考えるようになったゴン太。その後も何かと理由をつけてはユメ代に会いに来るようになる。

そこで再びゴン太の好意を利用して、野球の試合中のゴン太に部屋の掃除をお願いして、カワルが代わりにプレイするように仕向ける。

そんな折、ユメ代の人形を落としてしまい、それをゴン太が偶然タッチして、ユメ代の体に変身してしまう。

ところが自分がユメ代になったことに気が付かないままのゴン太。頭の中は野球のチームのオーダーをどうするかでいっぱいのため、鏡に映ったユメ代の姿を見ても、「何だか身近にユメちゃんがいるような気がする」などとぼんやりしている。

その後、お風呂に入り、ユメ代のヌードがさりげなく描かれつつ、透明人間人形を使ったカワルによって、元のゴン太の姿に戻るのであった。(ただし湯舟の中で野球のユニフォームを着たまま・・)


『かけもちでお花見』「小学三年生」1975年4月号

野球に向かうゴン太をユメ代に誘わせて、バケル一家のお花見に連れていくお話。


『二人で散歩を』「小学四年生」1975年4月号

カワルはユミちゃんのことが好きだが、散歩に誘っても断られてしまう。(ただしバケルになって誘うとOKが出る)

イライラしていた矢先にゴン太がユメ代に散歩しないかと誘ってくるが、今度は立場変わって、お断りしてしまう。

フラれたゴン太は花占いでユメ代が自分か好きかを調べたりする。ゴツイ見た目とは違って、乙女な性格も持ち合わせる男の子なのである。

冷静になったカワルはゴン太が気の毒だと思いなおして、今度は自分から散歩に誘うとゴン太は、とってかわったかのようにウキウキ気分となる。

デートでは「ゴン太さん素敵よ」とか「あたし大好き」などと大サービスをした結果、もはやゴン太は気絶状態。

その後なんやかんやがあって、ゴン太を大雨の中一人長時間待たせてしまうことになるのだが、「傘を持ってきてくれたの」と逆に感謝される。恋は盲目とは、ゴン太のことを言い当てた言葉であるようだ・・。


『ゴン太のガールフレンド』「小学四年生」1975年6月号

本作は「ドラとバケルともうひとつ」という特別企画に該当する一本で、本作単体でも楽しめるし、企画の一本として読むとさらに広がりが感じられるという作品となっている。

詳細は下記の記事を参照のこと。

この作品では、あまりにユメ代にしつこいゴン太の気を逸らすために、河合伊奈というタレントの人形を使ってゴン太の気を引く作戦を実行する。

なお、作中では一日に5回はユメちゃんの顔を見ないと、食欲が落ちて飯を五杯しか食えなくなるという。もともとがジャイ子なみの食欲であるようだ。


『バケタ屋開店』「小学三年生」1975年7月号

ゴン太の実家が不動屋さんであることが冒頭判明する。

その後バケル一家で洋服店を開くことになり、ユメ代を使ってゴン太を一人目のお客をすることに成功する。服を売りつけて「素敵よ」と送り出すと、「えへへ」とデレデレするゴン太であった。


以上が通常シリーズでのゴン太とユメ代の恋バナであったが、80年代に「バケルくん」が数本リバイバルした際にも、一方的なゴン太の思いが分かるエピソードがある。

それが『ゴン太のライバル』(1984年7月号)である。

こちらは成平美美(よしみ)という「ドラえもん」の出木杉そっくりの人形が登場するお話で、かなりイケテている内容なので、また別途記事を改めてご紹介したい。


記事の最初の方にも書いたが、ゴン太が好きになるユメ代はあくまでカワルが変身した姿であり、その恋は絶対に報われることはない。結婚どころか、いつしか突然会えなくなりかねない相手なのだ。

二人の恋バナを通して読んでいった時に、ユメ代となったカワルが見事に美少女を演じている点が見逃せないと感じる。

同性のしかもかなりいかつい外見のゴン太に女の子アピールするのは、正直僕にはできない芸当である。

それともユメ代などに変身すると、そのキャラクターの気持ちになったりするのだろうか。その辺は謎である。





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