正気ではいられない!『ジャイアンリサイタルを楽しむ方法』他/ジャイアン大歌手への道!?④
ジャイアンの存在感は、その殺人的な歌声を持つというキャラクターが確立されてから、その強度を増しているように思う。
実際に、ジャイアンの歌(もしくはリサイタル)を契機に物事が動き出すお話が多数描かれており、まとめるとその数は膨大である。
そこでジャイアンの歌がテーマとなっている作品を登場順に並べてみようというのが今回の企画「ジャイアン大歌手への道」の趣旨である。
以下の記事でこれまでの流れを全て追っているので、まずはこちらをご確認願いたい。
上記の記事の中で取り上げた『シンガーソングライター』が1977年9月に発表されたもの。本稿では、1978年以降の作品から「ジャイ歌エピソード」を時系列順で見ていく。
『シンガーソングライター』の半年後の作品で、『驚音波発振式ネズミ・ゴキブリ・南京虫・家ダニ・白アリ退治機』という、ドラえもん史上最長のネーミングのひみつ道具が登場するお話。
ジャイアンを怖がるのび太にも増して、ドラえもんが家でネズミを見かけて気も狂わんばかりの大騒ぎ。かつて『ネズミとばくだん』で持ち出した「地球破壊ばくだん」を彷彿とさせる爆弾を使おうとする。
のび太が何とか取り持って、未来のネズミ捕りかなんかあるだろうと落ち着かせる。
そこで取り出したのが『狂音波発振式ネズミ・ゴキブリ・南京虫・家ダニ・白アリ退治機』(略して狂音波発振機)である。超音波を使って蚊を寄せつけないようにする機械は20世紀にも存在するが、その原理を発展させた未来の道具であるらしい。
ただし、肝心の狂音波のテープを失くしてしまい、このままでは使えない。そこでのび太は、ジャイアンが作った新曲を歌わせて、狂音波の代わりにさせようと思いつく。
さすがはのび太、ジャイアンのイライラとドラえもんのネズミ嫌いを一気に解消するナイスアイディアである。
ジャイアンは歌について手を差し伸べてくれる人に対してはとても好意的で、今回ものび太たちが新曲を聞きたいと申し出ると、「心の友よ!」と例のセリフを吐いて感動に打ち震える。
このパターンは、『ジャイアンの心の友』『シンガーソングライター』と全く同じである。
新曲だけではなくレパートリー全部、さらに狂音波発振機を「歌の力を強める機械」だと説明を受けて、「嬉しいなあ」と号泣する。
さて、いざ狂音波(=ジャイ歌)発振の前に、準備するべきことがある。まずママの命を守るため、タケコプターを付けて無理やり空へと緊急避難させる。のび太たちも硬く耳栓をして、準備体操・深呼吸と体調を整える。
そこでようやくジャイアンが張り切って歌いだす。するとジャイ歌(=狂音波)が家中に送信され、ゴキブリが這い出てきて退治される。そして、窓ガラスにひびが入り、壁も一部崩れてしまう。
天井ではネズミたちがガタガタバタバタと暴れまわり、のび太とドラえもんは、「もの凄い悲鳴! この世のものとは思えない」と、恐怖で震え上がる。
そしてネズミたちは家から逃走。作戦は大成功を収めて、ドラえもんは泣いて喜び、ジャイアンも満足するのであった。
さて、ここで終わらせればよかったのだが、のび太はすぐに調子に乗る。ドラえもんに相談せずに、ネズミ・ゴキブリ・南京虫・家ダニ・白アリを全滅させるという害虫駆除のビジネスを立ち上げてしまうのである。(料金はいつもの100円)
白アリが出たというしずちゃんの依頼を受けて、すぐにジャイアンにも電話をして、「また君の芸術に浸りたくなったんだけど」と言って、しずちゃんの家へと呼び出す。
ドラえもんは「バレたら殺されるぞ」と警告するが、ジャイアンにはワンマンショーだと説明しており、ジャイアンも喜び、しずちゃんも喜び、のび太は儲かるという「三方良し」の善行だと言い張る。
しかし、ドラえもんの懸念はすぐに的中する。害虫退治の噂をジャイアンが聞きつけて、自分の家にも頼むと依頼をしてきたのである。
まさかジャイアンの歌で駆除するとも言い出せず・・・のび太、絶体絶命のピンチに追い込まれるのであった。
本作は初出では「狂音波」としていたが、てんとう虫コミックスでは「驚音波」と変更されていた。しかし本作のジャイアンの歌声は「驚かせる」というよりも「狂わせる」が正解であり、大全集では元のタイトルに戻されていた。
さて、ここからしばらく間があって、一年三か月後のお話。
本作では、「スパイ衛星」という超小型の衛星を個人の周囲に飛ばして、その様子をスパイするという、プライバシー侵害甚だしい道具が使われる。
詳細は省くが、空き地で歌の練習をしているジャイアンの様子を伺っていると、明日の日曜日に、抜き打ちで朝から夜まで途中二回休憩を挟みながらのぶっ通しのワンマンショーを計画していることが判明する。
ジャイアンが作った招待券には「郷田武!!夢のリサイタル AM9:00~PM9:00 堂々12時間!!」と狂気の沙汰のスケジュールが書かれており、これを今から配布しようと言うのだ。
のび太はこれを阻止するべく、単独動くのだが・・・。(オチの詳細も割愛します)
そこから約一年後、ジャイアンによるジャイアンのための誕生会が催され、少しだけ独唱タイムが出てくる。この作品は既に記事になっているので、以下をご参照下さい。
続けて五ヶ月後。
ジャイアン久しぶりのリサイタルが開催されると思いきや、一曲も歌わないうちに雨が降り出して、中断となる。
のび太とドラえもんは屋根のある会場を探せと無茶ぶりされ、「かしきり電話」という受話器型の道具を使って、会場を借りようと考える。
スネ夫の家で一度は決まりかけるが、「あの酷い歌が染み付いたら、二度とこの家に住めなくなるよ~」という大げさなスネ夫の泣きによってキャンセルとなる。
それではと、ジャイアンの家を会場として、皆を再集合させようとするのだが、スネ夫もしずちゃんも仮病を使って拒否。春雄に至っては「指にとげが刺さったからいけない」と、理由にもならない言い訳を述べる。
その後、すったもんだがあり、結局ジャイアンは自分の家でリサイタルを開催し、ママとジャイ子だけがその悪声の被害に遭うのであった。
続けてその翌月のお話。
すっかりジャイアンリサイタルは皆に忌避されるイベントと化してしまい、皆はあからさまに居留守を使って、何とか参加を免れようとする。
ところがうっかりのび太はジャイアンの訪問を出迎えてしまい、本日開催のジャイアン激唱と書かれた「郷田武リサイタル」の切符を手渡されてしまう。
ドラえもんは居留守を決め込んでいたが、二枚渡されてしまい、「何も僕も分まで・・・」と泣き叫ぶ。ジャイアンの歌となると、皆正気ではいられないのである。
のび太とドラえもんは抱き合いつつ、「果たして無事に耐えきれるだろうか。神様、お救い下さい」と、頼みはもはや神様のみ。
そこでのび太は、先ほど二人の間で話題にしていた「ヤメラレン」という何かの中毒になる薬を使おうとのび太が思いつく。ジャイアンの歌をどうせ聞かされるのなら、中毒になればいいと言うのである。毒を以て毒を制す、みたいな発想であろうか。
居留守・仮病が多数出たようで、リサイタルの観衆はのび太とドラえもんの二人きり。ジャイアンは真の芸術の理解者だと二人を褒め称え、「喉が裂けるまで俺は歌うぞ!」と強い意志を固める。ありがた迷惑とはまさにこのことである。
「歌こそ命~、わが~命よ~」と歌いだすジャイアン。のび太たちは急いでヤメラレンを口にする。するとあれだけ苦しんだ歌声に対して、「それほど悪くないんじゃないか」と思い出す。
さらには「悪くないどころか、天才だよこりゃ」と感心する。どうやら中毒症状が始まったようである。
「世界一!!」「しびれるう!!」「オシッコ漏れそう!!」「キャーッ、ジャイちゃ~ん!!」と二人は絶叫し、ジャイアンも「歌一筋に生きてきたかいがあった」と大喜び。
スネ夫たちが遠巻きに、のび太とドラえもんは「どんな神経してるんだ」と驚愕の表情を浮かべる。
大盛況の中、二時間のリサイタルは終焉を迎える。ところがすっかりジャイ歌中毒ののび太たちは「アンコール」をせびる。そして辺りが真っ暗になるまでリサイタルは続いていく。
ところがここでジャイアンに異変が発生。喉が裂けるまで歌うと豪語していたが、実際には声がかれて歌えなくなってしまう。のび太たちは「根性がない、そんなことではプロになれない」とブーイングを飛ばし、ジャイアンは「明日続きをするから勘弁してくれ」と泣きを入れる。
「約束を忘れるな」と強く念を押されて、ジャイアンもビビりまくり。翌日からはジャイアンから居留守を使って、のび太たちを避ける行動を取る羽目になるのであった。
しかし、これほどにジャイアンリサイタルのネタが続出するのに、毎回大笑いできるのはなぜ何だろうか。
この勢いは1980年代となっても続き、ジャイ歌エピソードはまだまだ描かれていく。さらにはジャイアンのファンクラブも立ち上がるなど、発展も見られる。
この続きは、また少し時間を置いてご紹介していくこととしたい。
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