石器時代で発明を「てぶくろてっちゃん」『時間きかい』/タイムマシンで大騒ぎ⑰

「人間は誰も同じ時間の流れを未来に向かって進んでいるわけです。時間の流れはとても融通がきかないものですから、この流れからエイやぁ!と飛び出すことはできないんですね。だからこそ、まんがの世界ではそれを可能にしたいのです」 By藤子・F・不二雄

「小学五年生」1994年9月号より

このインタビューが掲載された1994年9月は、藤子先生の執筆本数がかなり絞られていた頃で、結果的に「ドラえもん」最後の学年誌での新作となる『ガラパ星からきた男』を書き終えたタイミングとなる。

「ガラパ星~」は作中での時間軸が複雑に入り乱れた快作で、上記のインタビューでは、この作品が念頭にあったものと想像できる。


藤子先生は時間の作家だと言っても良いくらいに、時間の流れを遡ったり、先に進んだり、同じ時間を繰り返したりと、主人公たちを縦横無尽に時間軸を飛び回らせる。

「タイムマシン」が登場する作品だけを上げても無数に存在しており、藤子Fノートでも、これまで16本の「タイムマシン」関連作品の記事を書いてきた。

ちなみに、直近の記事はこちら(といっても一年以上前のものだが)。

当然のことながら、まだまだタイムマシンが登場するエピソードは事欠かない。そこで本稿では、藤子先生の初期の代表作「てぶくろてっちゃん」から、タイムマシンものをご紹介したい。


「てぶくろてっちゃん」『時間きかい』
「たのしい二年生」1961年5月号

藤子作品のほとんどで「タイムマシン」が登場する。最初はポツポツだったと思うが、徐々に時間を主題とした作品が増えていき、ついにはタイムマシンに乗って未来人がやってくる設定の「ドラえもん」が登場する。

さらには、真っ向から時間(歴史)を扱った「T・Pぼん」が発表される。

タイムマシン(=時間移動)は、藤子作品の最大級のテーマであり、キャリアを積み重ねる中で、その比重も高まっていたように思う。


もちろん、キャリアの超初期でもタイムマシンが登場する作品はいくつかあって、その最古と思しきものが下記の短編『電光豆剣士』である。

この作品は、時間機械(タイム・マシンというルビ付き)を使って、現代の少年が戦国時代の真田十勇士の加勢にいくという内容。時間機械は過去へしか進めず、現代に返ってくるためにタイムベルトを使うという細やかな設定があったりする。

1957年の作品で、タイムマシンを「時間機械」と表記している点に留意願いたい。


そこから4年後、何でも作り出すことのできるてぶくろを使って、色々な便利な道具を生み出す「てぶくろてっちゃん」という作品で、再びタイムマシンが登場する。

この作品でも「タイムマシン」ではなく、「時間きかい」という表記になっている。これはタイムマシンという言葉が、まだ子供たちの世界ではメジャーでないと藤子先生が判断したものと推察できる。


『電光豆剣士』では戦国時代への時間移動だったが、本作では石器時代まで遡る。

てっちゃんの作った「時間きかい」の構造は極めてシンプルで、柱時計のようなものが括りつけられた簡易的な乗り物に乗り、時計の針を逆回しにすれば時間も逆戻りできるというもの。

てっちゃんとガールフレンドのようこちゃんが、時間きかいに乗り込み、適当に針を回すと、そこは石器時代。二つの村の間で紛争が起きている真っ只中に飛び込んでしまう。

どうやら、「時間きかい」は緻密な時間旅行には適していないようである。


好戦的な隣の村の人々に拉致されていた少年を助けたてっちゃんたち。少年の案内で、竪穴式住居が連なる村へと連れて行ってもらう。

隣村の襲撃に備えて、この村では石器(石斧・石槍)を作っている。木をこすって火を起こそうとしている住民もいて、だいぶ手こずっているように見えたので、てっちゃんがマッチを擦って簡単に着火させると、住民はたいそう喜ぶ。

ちなみにこの場面では、「ドラえもん」の『石器時代の王さまに』で、のび太がマッチを使って英雄になろうとして失敗していたことを思い起こさせる。


マッチと引き換えに、巨大な石のお金を貰うてっちゃん。持ち運ぶにも一苦労なので、お金を使ってしまおうと果物を買うのだが、お釣りだと言われて7~8枚の大きな石を渡される。

「前より重いよ」と言って、つり銭の受け取りを拒否して逃げ出すてっちゃんたち。なかなか洒落た石器時代ギャグである。


少年の家(竪穴)に戻ると、ちょうどご飯の時間。何やら串刺しにした肉を焼いてもらい、空腹ということもあって、とても美味しくいただく。満腹になった後、今のは何の肉かと尋ねると、「トカゲのしっぽとカエルの足」だという答え。

散々美味いと言っていたのに、肉の正体を聞いて急に気持ちの悪くなるてっちゃんとまりこちゃん。洒落た石器時代ギャグ、パート2である。


ここで、大勢の隣村の男どもが攻め込んでくる。「子供は隠れてろ」と注意を受けたてっちゃんたちだが、「僕らも手伝おう」ということで、てぶくろを使って木々を骨組みにした飛行機を作り出す。

この時代、空を飛ぶのは鳥くらいなもので、原始人たちは飛行機に乗ったてっちゃんたちを見て、「魔法使いだ」と言って驚愕する。

さらにはてっちゃんたちに上空から石を投げつけられて、「こりゃ、たまらない」と撤退していく。てっちゃんたちは、走って逃げていく男たちをしつこく飛行機で追いかけて、降参させてしまう。

これで隣村との諍いは一件落着だが、「お詫びのしるしです」と言って持ってきたのは例の巨大なお金(石)。しかもかなりの数である。

てっちゃんたちは、こんなの受け取ったら潰れちゃうということで、慌てて「時間きかい」へと乗り込むのであった。


ちなみに「てぶくろてっちゃん」は、しばしば「ドラえもん」の原点だと評価をされることがある。

自分で便利な道具を作るという設定は「キテレツ大百科」に近いが、不思議な道具を作品の主軸に据えている点は、確かに「ドラえもん」的である。

ただ僕としては、「ドラえもん」だけでなく、その後の藤子作品に登場するモチーフの元になるようなお話が多い点に着目したい。

本作は「タイムマシンもの」だし、これまで記事で紹介した作品では、「他者と入れ替わる」「怪人千面相」「宝探し」という、藤子作品お馴染みのテーマが描かれている。

この他にもたくさんあるので、機会があれば、「藤子作品中興の祖」という切り口で、「てぶくろてっちゃん」全作品を検討してみたいと思う。




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