天才軍師ハカセ誕生!『決戦オバQとりで』/オバQ世界の天才児ハカセ①

わがスマホにマンガアプリを導入して以来、新作マンガだけでなく、昔読んでいた作品なんかも読み返している。

その中で、横山光輝先生の「三国志」を一日一話ずつ読んでいるのだが、いよいよ赤壁の戦いに差し掛かり、毎日が楽しみで仕方がない。

「三国志」は、人徳に厚い劉備玄徳がメインキャラクターであるが、赤壁あたりだと俄然、諸葛亮孔明が中心人物となる。全てを見通す目、自然や歴史や兵法に通じ、人を操る能力に長けている。

まさしく名軍師の名に相応しく、歴史が動く場面において、孔明のような知力を持った参謀が絶対的に必要なのだということを痛感する。


さて、藤子Fワールドには、聡明で物事を見通せる天才が時折姿を見せる。代表的なところだと、「ドラえもん」の出来杉、「エスパー魔美」の高畑、「パーマン」のパーやんなどである。

大袈裟ではなく、諸葛亮にも劣らない頭脳の持ち主であり、きっと戦乱の時代に生まれたら、名将に重宝される軍師になったに違いない。

そして、もう一人の天才的なキャラクターを忘れてはいけない。「オバケのQ太郎」世界の異端児、ハカセである。

ハカセは風貌が特徴的で、一見パッとしないのだが、実は頭脳明晰で、知識も豊富の天才であり、胸に秘めたる熱意を持っている。非常に奥深いキャラクターなのである。

そこで「オバQ世界の天才児ハカセ」と題して、ハカセが活躍する代表的な作品を集めて、彼の魅力を存分に明らかにしていきたい。

まず本稿では、諸葛亮孔明ばりの天才軍師っぷりを示した、ハカセ初登場作品を取り上げる。


『決戦オバQとりで』
「週刊少年サンデー」1965年10月号/大全集2巻

タイトルの『決戦オバQとりで』は、いかにも西部劇好きだった藤子不二雄両先生らしい命名である。おそらくは、1953年に日本公開されたジョン・フォード監督・ジョン・ウェイン主演の「アパッチ砦」あたりから採られたものだろう。

内容は別物だが、砦(要塞)での戦いという側面から考案されたタイトルだと思われる。

砦と言えば、黒澤明監督の「隠し砦の三悪人」(1958年)も念頭にあったのかもしれない。


さて、オバQ世界は、町の中には広々とした空き地がまだ残されている。

正ちゃんQちゃんは、壊して薪にする予定の空き箱を借りて、広い野原に城を建てようと考える。

まずは居間や寝室や食堂などの間取りを決めて、空き箱を積み上げていく。正ちゃんが空き箱の上に乗り、下のQちゃんから積み上げ用の空き箱を受け取る。

ところが、Qちゃんは正ちゃんの乗っている空き箱を抜き取って渡そうとするものだから、崩壊して正ちゃんは転げ落ちてしまう。

そんなギャグも挟み込みながら、立派な城が完成。屋上には望遠鏡を取り付けて見張り台をこしらえる。食べ物最優先のQちゃんは、家から取ってきた食料を食堂に蓄える。

二人はこの城を「オバQとりで」と名付けることにする。


さて、この立派な城を見て、ゴジラたち3人組が羨ましがる。城を譲れと言い出すが、「せっかく作ったばかり」と正ちゃんは拒絶。すると、「大軍で攻め寄せて分捕ってやる」と、宣戦布告を受ける。

ゴジラとの戦争を覚悟する正ちゃんたちだが、二人だけではいかにも心細い。するとそこに「手伝おうか」とハカセが現れる。記念すべきハカセ初登場シーンだが、正ちゃんは「あっ君か」とすんなり受け入れる。


ハカセはスタジオ・ゼロメンバーの石ノ森章太郎(当時は石森章太郎)先生が作画を担当している。まだこの段階では、眉毛と目を「ハ・カ・セ」で描いてはいないので、石ノ森先生の作画ではない可能性もある。(詳しい方がいれば教えて欲しい)

ただし、若ハゲ具合や、ダブダブの学生服を着ている独特のキャラ造形は、この時点でほぼ完成されている。

ちなみにゴジラも石ノ森先生の作画であり、本作は石ノ森先生が大活躍と言ったところ。一応加えておけば、正ちゃんの名前の由来も「章太郎」からである。


ハカセは正ちゃんに「頭がいいから作戦を任せようと」とQちゃんに紹介する。頭脳派の軍師の参戦に、Qちゃんも「頼もしいな」と目を細める。

ハカセはさっそく、「少人数で大軍を破るには新兵器を工夫しなければならん」として、Qちゃんに材料を集めるよう指示。すぐに集めてきたQちゃんは、そのまま兵器が完成するまで、屋上で見張り役を頼まれる。

望遠鏡で覗くと、すぐに敵軍を発見。6人くらいでこちらに向かって来るが、まだかなり遠くに見える。正ちゃんはその報告を聞いて、まずは一安心。

・・・と、おっちょこちょいのQちゃんは、望遠鏡を逆さに覗き込んでおり、既にゴジラたちは城の間近に迫っていた。

大挙してオバQ砦に攻めかかるゴジラたち、ところが、ハカセの準備した防御システムは既に完成しており、ロープで吊るした布団をぶつけたり、屋上から泥を流したり、わざと潜入させてワナを仕掛けて捕らえたりする。

「ホーム・アローン」のお手製泥棒撃退システムのような感じだろうか。

ゴジラたちは「守りは固いぞ」ということで、撤退を余儀なくされる。


望遠鏡の使い方を学んだQ太郎。再び覗き込むと、ゴジラたちが鍋のヘルメットを被って、またも近づいてきている。

正ちゃんは、方位東南東、距離70メートルとハカセに伝達。ハカセは「爆雷」だと言って缶を渡し、これを正ちゃんがバットで振りぬいてゴジラたちへと「発射」する。

直撃はしないが、ゴジラたちの頭上で缶のフタが取れて、中から大量のコショウが降りかかる。コショウまみれとなって、たまらず退却するゴジラたち。

「二度と近づかないように徹底的にやっつけておこう」ということで、ハカセの指示で黒い風船をQちゃんに渡し、「空軍出動」と指示を出す。

風船の中にはどぶ泥が詰め込まれており、知らずにゴジラが割ってしまい、今度は泥まみれとなる。これにて、どうやら勝負あり、である。

「ついに平和が訪れた」と、Qちゃん正ちゃんハカセは、ジュースと果物で祝杯を挙げる。


一方、Qちゃんたちの反撃を食らって、悔しがるゴジラたち。向こうには名軍師のハカセがいるので、このままで勝ち目はない。そこで、ハカセを奪えば、城も奪い取れると考える。

ゴジラが白旗を持って正ちゃんたちの前に現れ、「平和交渉にきた」と、降参の意を示す。しかしこれは油断させる作戦で、その間に、裏に手下たちが回り込み、ロボット(のおもちゃ)を囮にして、ハカセを誘き出し捕らえてしまう。

縄で縛られたハカセは、ゴジラに城奪還の作戦を立てろと言われても、「嫌だ」と気丈に断る。しかし、くすぐりの拷問を受けてしまい・・。


二人だけになって不安の募るQちゃんと正ちゃん。そこへ一人の見ず知らずのおじさんが駆け込んでくる。「ここでしてもいいのかい」とモジモジしており、オバQとりでをトイレと勘違いしているようである。

なんと、「W・C」と書かれた矢印型の看板が近くに掲出されており、おじさんはそれに誘導されてしまったのだ。

ゴジラの嫌がらせだなと、看板を外しに行く正太たち。すると城から出てしまった隙に、ゴジラたちに乗っ取られてしまう。Qちゃんが怒って城に近づくと、野良犬を集めていて、一斉に吠え掛かってくる。

ついにオバQとりでは、ゴジラたちの手に落ちたのであった。


ここでハカセと合流。「拷問に耐えかねて作戦を教えちゃったんだ」と二人に詫びをいれる。さすがはハカセ、城を守るのも、城を奪うのも、それぞれに見事な計略を用いることができるのである。

何とか再奪還できないかと、正ちゃんたちはハカセに相談すると、すぐに「そうだ、作戦が立ったぞ」と何か名案が浮かんだ様子。

三人は大原家の台所でスープを作る。にわかに城の奪還とは結び付かないが、正ちゃんたちは「ハカセは頭がいいな」と感心している。


スープが完成。「特攻隊出動!」ということで、Qちゃんがスープの入ったバケツを手に、オバQとりでへと向かう。スープを水鉄砲で城内に打ち込み、ゴジラたちに浴びせる。

すると、スープの匂いに釣られた野良犬たちが、一斉にゴジラたちに襲い掛かる。「助けてくれえー」と城から逃げ出していくゴジラたち。ハカセの計略はまたも大成功なのであった。


本作は空き箱を積み上げた城(とりで)を巡って、奪ったり守ったり、再度奪い返したりという楽しき攻防が描かれる。

初登場となった天才ハカセが、ほぼ全ての作戦を考案し、次々と成果を上げる。まさしく、諸葛孔明のような天才軍師っぷりなのである。

その後ハカセは、木佐君相手にして、また別の戦争を指揮することになる。これについては別稿でご紹介したい。



いいなと思ったら応援しよう!