イイヤツはいつだって友だち止まり『恋するドラえもん』/藤子恋愛物語⑱

「ドラえもん」はネコ型のロボットだけど、別に猫ではない。たまたまネコをモチーフにしただけに過ぎないはずだ。

しかしドラえもんの言動を見ていると、頭脳となるコンピューター回路には「自分はネコである」というDNAみたいなものが注入されているらしい。自分のことをロボットというよりはネコだと考えて節がある。

また、ドラえもんは喜怒哀楽が激しく、もはや精巧なロボットという言葉だけでは片付けられない。風邪も引くし、トイレにも行くし、蚊にも刺されるし、ご飯も食べて、夜は寝る。それはもうロボットではない。

しかも、ドラえもんは恋もするのである。そして恋の相手は、もちろんネコだ。ドラえもんのアイデンティティは、ロボットではなく、ネコなのだから当然なのである。


断続的に執筆している「藤子恋愛物語」シリーズは、本稿で第18弾となる。このシリーズでは、第一回目の記事にて、ドラえもん(初期ドラ)の恋愛エピソードを2本取り上げている。

『好きでたまらニャい』「小学四年生」1971年2月号
『すてきなミイちゃん』「小学三年生」1973年2月号

上記の記事を読んでもらうとわかるが、ドラえもんは自分の恋沙汰についてとても奥手であり、自分の感情を思うようにコントロールできない体質であるようだ。


本稿では再び、ドラえもんの奥手で、感情表現が豊かな恋のエピソードについてみていく。

『恋するドラえもん』(初出:失恋しちゃった)
「小学六年生」1982年4月号/大全集10巻

冒頭からドラえもんの様子がおかしい。見るからにグンニャリと感情が沈み、大好きなどら焼きも喉を通らないと言う。『すてきなミイちゃん』の時と全く同じ症状なのである。

二度目ということもあってか、そんなドラえもんにのび太は、「ははあ、好きなネコの女の子でもできたか?」と、一発で真相を見抜く。「どうしてわかった!?」と衝撃を受けるドラえもん。

まだ口も聞いたこともないというので、完全にドラえもんの一目惚れであるようだ。まずはそのネコちゃんにのび太も見に行くことにする。

ドラえもんのお眼鏡にかなったのは、いかにも高級住宅といった3階建ての家の中で飼われている真っ白なペルシャ猫であった。とても品の良さそうなネコで、ドラえもんは「僕のお嫁さんになってほしい」という。

当然、「ロボットが結婚なんかできるの」とのび太が突っ込むと、「バカにするな、僕は高級ロボットだぞ」といきり立つ。高級だったとしても、さすがに生殖能力はないので、本物のネコと結婚できるかは微妙なところ。


チラッとこっちをみたと言ってドラえもんは、「ハヒー」と声を上げて屋根から転げ落ちる。転倒しても目がハートマークのままで、すっかり白猫ちゃんに心を鷲掴みにされているようである。

すると別の家の屋根の上から、ドラえもんたちと同じくペルシャ猫の窓をじっと見ている黒猫がいる。ドラえもんは恋敵と察知したのか「感じ悪い奴!!」と感情を荒ぶらせる。精悍な顔つきのネコで、感じ悪さは全く見て取れないが・・・。


さて、恋に奥手のドラえもんに、本人はまるでモテないのび太が、「きっかけとして、平凡だけど何かプレゼントするといい」とアドバイス。『好きでたまらニャい』の時と同じテクニックの披露である。

前回は鰹節を推薦したが、今回は「未来のネコ用品かなんかない?」と気の利いたアイディアを出す。そこでドラえもんが取り出しのは・・・

・コタツハウス
・カツオブシガム
・マタタビ香水
・ネズミトリ ゲーム&ウォッチ

という四点セット。カツオブシガムではなく、そこは本物の鰹節で良かった気もするが、まあいいだろう。


そしてプレゼントをどうやって渡そうかと悩むドラえもんに対して、のび太は「どこでもドア」で直接会いに行くよう指南する。ドラえもんは「あんたなんか嫌い! と言われたらどうしよう」と躊躇する。こういう時には自己肯定感が下がるドラなのである。

のび太は「行ってこい」とドラえもんを文字通り押して、どこでもドアをくぐらせる。

部屋に飛び込んで、好きな子を目の前にしたドラえもんは「こ、ここ、こ、ここ、こんにちは!」と挨拶の第一声にも一苦労。

ところが性格の良さそうなペルシャ猫ちゃんが「まあ・・珍しいネコさんね」とにこやかに対応してくれたものだから、

「僕をネコだと認めてくれるの? タヌキじゃなく!? 幸せ!!」

と、ドラえもんは大喜び。この発言から、いつも町のネコちゃんたちにタヌキ扱いされてきたことが伺えて、何とも切ない気持ちにもなる。


しかもプレゼント作戦も奏功し、「こんな珍しいもの始めたみたわ」と喜ばれる。すっかり自信を取り戻したドラえもんは、「僕、未来のネコ型ロボット。なあんでもできるんだ」と鼻息を荒くする。

そしてペルシャ猫ちゃんに「素敵なお友達ができて嬉しいわ」と声を掛けられ、ムヒョ~と気絶寸前となるドラえもんなのであった。


このペルシャ猫、想像以上にお金持ちのペットらしく、なんと自分専用の部屋があり、ベッドやテレビも完備、ボールやネズミのおもちゃも置いてある。一人部屋を持つペットは、パーマン2号ことブービーだけではなかったようだ。

しかし猫ちゃんはこの境遇をそれほど幸せと感じておらず、一度でいいから外へ出て自由に歩き回ってみたいと願望を口にする。

そこでドラえもんは「じゃ、連れてってあげよう」とどこでもドアを使って、外の世界へ連れ出す。ネコちゃんは「ドラちゃんで本当何でもできるのね」と感心し、跳ねるようにしてあたりを駆け回る。

ドラえもんは満足だが、ここまでとしては、ペルシャ猫としては、ドラえもんのことを何でもできてしまい頼りになる友だちという認識であることを一応確認しておきたい。


白猫が屋根を走っていくと、彼女のことを見ていた黒猫とバッタリ出くわす。ともに「こんにちわ」と挨拶し、二匹はあっと言う間に打ち解ける。しかも、かつてから気になる関係であったようで・・・、

「一度でいいから君とお話したいと思ってた」
「あたしも・・・こうして会えるなんでユメみたい」
「僕は子猫の時から・・・」
「毎日窓の外へ来て下さったわね」

と、子猫時代から想い合っていたようなのである。

そして、さらに意外な方向へと二匹の会話が進んでいく。この間、ドラえもんはずっと呆気に取られたままである。

「あたし家を出るわ」
「それはいけない。僕は野良猫なんだ。厳しい暮らしだよ、人間やイヌに追われ、飢えや寒さや・・・」
「どんなに辛くても我慢する」
「わからないことを言うんじゃない!!」

と、貧乏学生とお金持ちの令嬢が駆け落ちの相談をするかのようなドラマが繰り広げられるのである。


この流れにはドラえもんも納得がいくはずがない。「うぬうっ、ライバルめ。どうするか見てろ!!」と血相を変えて、かつて『ネズミとばくだん』で登場した、機関銃とジャンボ・ガンを取り出す始末。

さらには地球はかいばくだんを取り出したところで、ペルシャ猫ちゃんが、「そうだわ、素敵なお友達がいるの。優しくて何でもできるの」と黒猫にドラえもんのことを紹介する。

もともとお世話ロボットであるドラえもんなので、頼られて我に返る。しばらくウロウロと考えて、「そうだ!!」と妙案を思い浮かぶ。

それは、かつてのび太と一緒に3億年前の時代に作ったイヌとネコの国に、二匹を連れていくことであった。

セリフの中で「てんとう虫コミックス22巻」と、少々メタな紹介をしているのが印象的。

二匹は「ありがとう」と声を掛けて、すぐに走り去っていく。野良犬だった黒猫はともかく、いきなり高級ペットの座を捨てて、オスネコとともに旅立っていくペルシャ猫の度胸は単純に凄いと思う。


完全に恋のアシスト役を演じたドラえもんに、のび太は「何しに行ったんだよ」と突っ込む。ドラえもんは「いいんだ、あの子が幸せになるならば」と言って一粒の涙をこぼす。

今回もドラえもんの恋は破れてしまったが、この後ミーちゃんという猫と仲良くなって、あちこちデートに行ったりするようにもなる。失恋は辛いけど、大丈夫、次の恋が待っているのさ!



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