薬は容易に毒になる『いろんなクスリで大失敗』「てぶくろてっちゃん」/クスリで大失敗②

お気に入りのモチーフは繰り返し登場させることで知られる藤子F先生。特にキャリア初期の人気連載作品「てぶくろてっちゃん」は、見事なまでにその後のF作品でよく見かける題材を採用している。

「てぶくろてっちゃん」は、少し不思議な道具を使った騒動を描く作品なので、「ドラえもん」の原点という言い方をされがちだが、実際にはドラえもん以外の含めたその後のSF(すこし・ふしぎ)ギャグ漫画全体の原点と言ってもよいだろう。


本稿では、「てぶくろてっちゃん」の中から、その後たんまりと描かれる「変な薬を飲んで失敗する」というモチーフをこれでもかと詰め込んだお話『いろんなクスリで大失敗』を取り上げる。

まずは、前回書いた「ドラえもん」のエピソードもチェックしてほしい。


「てぶくろてっちゃん」『いろんなクスリで大失敗』
「たのしい二年生」1962年1月号

何でも不思議な道具を作ることのできるてぶくろで、今日もてっちゃん(てつお)は発明品をこしらえる。

この日は色々な変わった効用の薬を作って瓶に詰める。てっちゃんの友人ようこちゃんは、並ぶ瓶を見て「今度はくず屋さんを始めるの」と素朴に質問している。

てっちゃんは「ばか言え、面白いクスリを詰めてある」と答えて、一本の薬を渡す。ようこが口にすると、思い切り体の横幅が広がる。これは「デブニナール」という体を巨漢にする薬で、絶対に年頃の女の子に飲ませてはいけないヤツだ。

案の定怒った巨体のようこに押し倒されて、早く痩せる薬を出せとせっつかれる。ところが、「ヤセール」かと思って渡した薬は「ふくらしグスリ」で、一滴鼻にかけてしまったためにようこの鼻が膨らんでしまう。

大量の薬を作ったからには、きちんと効用を貼り紙しておいてほしいものである。


今のところまるで役に立たない薬ばかりだが、てっちゃんは「正しく使えば、世界中の人を、幸せにしてやれるんだ」と胸を張る。

街へ出て、棒付きキャンディーを嘗めている男の子がいたので、「ふくらしグスリ」を付けるとキャンディーが体より大きくなる。確かに、食べ物に困る人たちにとっては、願ったり叶ったりの薬であるかもしれない。

しかし、次に小さくなったセーターを大きくしてほしいというオーダーに対しては、薬をかけすぎたために、布団のような大きさに膨らんでしまう。

このように、どんなに有用な薬であっても、使い方次第では害にも迷惑にもなるということが、本作の一つのテーマであるようだ。


この後も「なんでもくっつく強いのり」を使って割れた皿を直すのだが、間違えて廊下と足をくっつけてしまって動けなくさせてしまう。

「力の強くなるクスリ」では、どぶに片輪を落とした車を掬い上げるも、誤って電柱に寄りかかって倒してしまい、その自動車をぺしゃんこに下敷きにする。(ふくらしグスリで復活させるが)

なお、薬が効いているのにようこちゃんの服についてホコリを払おうとして、数十メートル先まで吹っ飛ばしてしまう。容赦ない飛ばし方が、女の子だろうが酷い目に遭わせる藤子作品の特色が出ているように思う。


さらには、のび太のように凧を上げられず転がしてしまうばかりの少年に対して、「空にうくクスリ」を使って凧を上げてあげる。

しかし浮力が強力だったらしく、凧糸を引く少年までも空中に浮かび上がってしまう。慌てて自分たちにクスリを使って浮かび上がり、少年の救出に向かう。

「重くなるクスリ」を使って地上に戻ってくるが、勢いよく落ちてしまい凧は滅茶苦茶に。どうにもてっちゃんが作る薬は、効き目の加減が極端なようである。


さて、ここで事件が発生。先ほど空を飛んだ時に、肩から掛けていたカバンから薬が全て落ちてしまったことが発覚する。

薬を回収しに走っていくと、「ふくらしグスリ」によって帽子やゲタや赤ちゃんが巨大化している。

他にも、「くっつきグスリ」によって一人の男性が地面から動けなくなっている。「力の強くなるクスリ」で強くなった飼い犬に引っ張られる飼い主がいる。「空にうくクスリ」で警察官を含めた人々が空中浮遊している。「デブニナール」で家が巨大なビルと化している。

町中の至る所にパニックを引き起こし、「クスリで大失敗」の度を越えた大迷惑なのである。


ようこちゃんが「クスリを効かなくなるクスリ」を作ればいいとアドバイス。急いで家に戻ると「小さくなるクスリ」を飲んだパパが赤ちゃんになってしまっている。

さらには木の上の引っ掛かっている薬を取ってみると、それは「としをとるクスリ」であったらしく、誤っててっちゃんが体にかけてしまい、老人の体になってしまう。

腰が痛くて目がかすんで手がふるえる状態ながら、何とかリカバリーの薬を完成させる。実験がてら自分にかけて元通りになったので、「空にうくクスリ」を使って、空から町中に薬をバラまいて事態の鎮静化を図る。


これで一件落着。しかし、「これでよし」と「クスリを効かなくなるクスリ」の入った瓶を地上に投げ捨ててしまい、自分の空飛ぶ効果は消えずに、地上に降りれなくなってしまうてっちゃん。

というか、役割が終えたからと言って、薬の入った瓶を安易に捨ててしまうのはいかがなものだろうか。

「ドラえもん」などでも、平気で使わなくなったひみつ道具を庭に捨てたりしているが、こうした道具を大切に扱わない姿勢も、本作が原点であったようだ。



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