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真夏の風物詩「ドラえもん」×恐竜3本立て/藤子Fの大恐竜博③

もし「恐竜」が俳句の季語になるのなら絶対に夏だと思う。

夏には毎年のように「恐竜展」がどこかでやっているし、そこには夏休みの子供たちが集うイメージもある。そして何より「ドラえもん」では夏には恐竜もの、というのが一つのパターンでもあった。下記に代表的なタイトルを並べてみよう。

『ネッシーがくる』 1974年8月号
『のび太の恐竜』読切版 1975年8月号(8月発売)
『大むかし漂流記』 1977年7月号
『宇宙ターザン』 1978年8月号
『恐竜が出た!?』 1979年7月号
『恐竜さん日本へどうぞ』 1981年8月号
『恐竜の足あと発見』 1985年7月号

見事なまでに毎年夏に一作「恐竜」をテーマとした作品を発表しているのである。これは偶然ではなく、夏といえば恐竜、とF先生が意図的に描いているのだ。

そこで本稿では「藤子Fの大恐竜博」シリーズ第三弾として、1977~79年の真夏に描かれた「ドラえもん」×恐竜作品3本を一挙に見ていくことにしたい。

ちなみにこれまでのシリーズの記事は以下。


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『大むかし漂流記』「小学四年生」1977年7月号/大全集7巻

冒頭、のび太とドラえもんが、一億年前の大海の小島で漂流しているところからスタートする。その後、時が遡る構成となっていて、「ドラえもん」では極めて珍しい始まり方である。

ちょうど四次元ポケットの大掃除中で、「どこでもドア」も「タケコプター」もなく、あるのは「タイムベルト」のみ。これもタイムマシンの一種だが、時間は移動できても場所は動かせない。使うことで現代には戻れるが、その時は小島はなくなっているだろうから、海の真ん中で溺れるのが関の山だ。

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ここで時は遡る。
のび太が学校の裏山で魚と貝の化石を見つけて大喜びで帰ってくる。化石は珍しくないが、これをみてノーベル賞級のアイディアが浮かんだらしい。聞いてみると・・・

「見つけた場所は海から何十キロも離れている。そこに魚や貝がいたということは、遥かな大昔、魚や貝は陸の生き物だった

この時点で既におかしいが、さらに続けて・・

「それがなぜ今は海に住んでいるか。それは今日みたいに暑い日に海水浴かなんかに出掛けて、あんまり気持ちよくてそのまま住み着いたという…」

それを聞いたドラえもんは、死ぬほどの大爆笑

ドラえもんは「一億年前は関東地方の大部分は海の底だった」と説明し、のび太は陸が浮いたり沈んだりするのが納得できない。そこで、タイムマシンで一億年前に向かって確かめることにする。

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ま、結局はドラえもんの言った通り、学校の裏山は海であった。自説が通らずがっかりするのび太であったが、せっかく古代に来たので、しばらく遊んでいくことに。

そこで海釣りをしていたら、魚竜(ミクソサウルス?)を引っ掛けてしまい、遠くの沖まで連れ去られ、気づくと小島に打ち上げられていたのである。

ここでオープニングに戻ってくる
のび太は、何気なく海の中を覗き込むと、水中に目が二つ見える。それを聞いたドラえもんは怯える。どうやら自分たちが座っている小島は、大昔のカメの甲羅ではないか・・・。

小島は動きだし、浮かび上がる。そして海中から現れたのは巨大な肉食ガメ「プロガノケリス」であった。幸い首が短いので、甲羅に乗っている分には食われない。が、プロガノケリスは海に沈みこんで、のび太たちに襲い掛かる。

カメに食べられるよりはましだと、タイムベルトを使って現代へー。

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着いたのは、現代の海の底・・・。と思いきや、そこはスネ夫の庭の池の中。一億年経って、海は陸地になっていたのだった。

本作で登場するミクソサウルスとプロガノケリスは、いずれも正式には恐竜ではないが、藤子先生としては、広義の恐竜とするべきだという考えを示しているので、本作は立派な「恐竜作品」である。念のため。


『宇宙ターザン』「小学五年生」1978年8月号/大全集7巻

のび太が愛してやまない特撮テレビ番組「宇宙ターザン」。のび太の熱意に反して、番組の視聴率は下がり続け、ついには打ち切りが決定してしまう。そこでのび太は、一億年前の白亜紀に行き、「桃太郎じるしのきびだんご」を恐竜に食べさせて、それを番組に使ってもらおうという、壮大な作戦を考える。

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最初は小型の「トラコドン」を見つけるが、強そうに見えないということで却下する。ドラえもんと手分けして恐竜探しに出るのび太だったが、タケコプターで飛んでいるところを「プテラノドン」に襲われて、タケコプターもきびだんごも落としてしまう。

この翼竜に襲撃されるシーンは、その後の大長編『のび太の恐竜』でパワーアップして再利用されている。

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続けてのび太はティラノサウルスに襲われるが、先ほど落としたきびだんごを自主的に食べていたため、思い通りに動かすことができるようになる。ドラえもんも「ブロントサウルス」の群れを見つけており、これで役者は揃った。

しかしここで問題発生。「タイムマシン」の秘密は漏らすことができないのである。そこで苦肉の策、「どこでもドア」の出口を「タイムマシン」の出口に繋いで、一気に一億年前の世界に連れて行けるようにする。

かくして「宇宙ターザン」のスタッフキャストは、白亜紀をセットに見立てて、番組を再出発させる。これまでの低予算番組から、本物を使った迫力ある映像の作品に変身し、人気は回復して視聴率40%のオバケ番組となるのだった。

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『恐竜が出た!?』「小学三年生」1979年7月号/大全集10巻

「ドラえもん」世界ではお馴染みの高井山(高尾山ではない)で、恐竜が現れたという。最近もしずちゃんとハイキングに行ったばかりのこの山に、恐竜などいるはずがない。

ところが、テレビで写し出された映像には、どう見ても本物の「プテロサウルス」「ステゴサウルス」「トリケラトプス」などが映っている。特撮ではないかと確かめるため、高井山にどこでもドアで向かうドラえもんとのび太。

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するとティラノサウルスと目が合ってしまい、慌てて引き返す。とても信じられる光景ではないが、本物の恐竜が確かにいたのである。

と、ここでドラえもんが何かに気づく。3日前のあれのせいではないかと・・・。

ここで話は三日前に戻ります。

と、珍しいテロップ処理。


三日前。
ドラえもんはのび太に未来の「大恐竜展」を見てきたと報告する。未来の世界でも夏といえば恐竜ということなのだ。そしてさすがは未来、この展覧会では本物の恐竜を連れてくるのだという。

さらに恐竜展のプログラム(パンフレット)は、ポンポンと背表紙を叩くと、本物のような小型の恐竜が飛び出して動き出すというもの。のび太はさっそくこれを借りて、恐竜時代の背景を描いた紙を囲いにして、大むかし動物園を作って遊ぶ。

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その後、恐竜たちを放置して、ママからのオヤツである小さなイチゴを「ビッグライト」で大きくして食べていると、しずちゃんとハイキングに行くことを思い立つ。

「どこでもドア」で高井山に行くのび太としずちゃん。この時のび太はビッグライトを落としてしまう。

のび太の整理整頓ができない性格のせいで、小さい恐竜たち、ビッグライト、高井山へのどこでもドアと、ドラえもんに出してもらった道具を全て出しっ放しにしている。

本作の冒頭で、のび太が部屋を片付けられないというシーンから始まっていたのだが、のび太のだらしなさが、大いなる伏線となっていたのである。


部屋に置きっ放しだった小型恐竜たちを、のび太のパパは虫と勘違いして、ホウキで庭に出してしまう。すると恐竜たちは開きっ放しのどこでもドアをくぐり、その先で出しっ放しのビッグライトの光線に当たって巨大化する。

これが、高井山の恐竜騒動のきっかけであったのである。

早急に片付けなければならないが、もはや事態は手遅れ。高井山には人が押し寄せ、アメリカやソ連からも調査団が派遣される。どーする?のび太たちと、投げっ放しで締めくくられる。

どうやら物語も片付かなかったようである。

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本稿では真夏の風物詩とも言える「ドラえもん」の恐竜エピソードを3本まとめて見てきた。今回の3本は77~79年の三年連続で夏の号で発表された作品で、年を追うごとに、多彩な恐竜も登場するようになっている。

毎年のように恐竜をテーマに描いていた藤子F先生は、いよいよ機は熟したとばかりに、かの『のび太の恐竜』大長編版を翌1980年に発表する。真っ向から恐竜世界を描き切った、スケール感抜群の作品である。これについては、ずっと先になるがきちんと考察を行いたい。


藤子Fの大恐竜博シリーズは、断続的にまだまだ続く。次稿では「T・Pぼん」での恐竜エピソードを取り上げる。


藤子F作品の考察を丁寧に行ってます。お時間ある方はお立ち寄りください。


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