仙べえ、108歳、元気の秘訣とは?『仙薬を作ろう』/クスリで大失敗⑦

子供の頃、何気にみんなでやってきた遊びに、「オロナミンCごっこ」があある。例えば、アスレチックのような遊具を、二人で少し無理してロープで登ったりして、「ファイト!」「イッパツ!」と声を掛け合う遊びである。

現代っ子には何のこっちゃかと思うが、オロナミンCを飲むと、多少の無理も効きますよと言った印象を与える、元気ハツラツのCMがあったのだ。

かつての子供たちはそんなイメージにまんまと食いつき、多少無理目なことをしては、ファイト一発をかましたものなのである。

オロナミンC以降なのかはわからないが、栄養ドリンクはいつしか市民権を得る。その後、ビタミン入りドリンクとか、ローヤルゼリーとか、いわゆる栄養剤・サプリメントが世の中に浸透していったように思う。


クスリと言っても、悪くなった体調を良くする医薬品とは異なる、体調を整えるという役割に栄養剤とかサプリメントが位置するものと思う。

今回取り上げる作品は、医薬品としてのクスリではなく、サプリメント的なクスリに関するエピソードとなる。飲むと元気が漲って、100歳以上も生きることができるというクスリなのだが、そんなものが本当に存在するのだろうか??


「仙べえ」『仙薬を作ろう』
「週刊少年サンデー」1971年45号

まずはじめに、「仙べえ」なんて初めて聞いたよという方がほとんどだと思うので、以前に書いた記事を2本掲載しておきたい。

まずはこちらを簡単に目を通してもらうと、お話の概要が伝わるものと思う。


「仙べえ」の最大の特徴は、藤子F先生がストーリーを書き、藤子A先生が作画をした藤子不二雄の合作であることだろう。

「オバQ」「パーマン」と、二人は合作を描いていたが、共作を積極的に行っていたのはそこまでで、本作は久しぶりの完全合作という位置づけであった。連載としては、最後の合作作品と言っても差し支えない。

ストーリー(おそらくある程度の絵コンテまで)がF先生ということもあり、お話は起承転結の整ったよくできたお話が多い。キャラクターなどはA先生なので、妙な勢いがある。

二人の持ち味が絶妙に重なった、とても楽しいお話ばかりなのだが、それほど人気も出ないまま短命で連載が終わってしまったのは、非常に残念である。


本作は「仙べえ」という仙人の見習いが、その子孫である小学生の峯野モヤ夫の家に居候し、毎回変わった仙術を使っては、騒動を引き起こしてしまうといった構成となっている。

峯野家は、大原家や須羽家、野比家などと異なり、お金持ちであるという点が、珍しい設定となっている。ただし、主人公のモヤ夫は、いつもの藤子不二雄両氏が好んで採用するちょっとダメな男の子であるが。


モヤ夫のパパの朝の日課、それは体調を整えるクスリを飲むこと。ラインナップは以下である。

・総合ビタミン「ビタミンナ」
・若さを保つ「ローヤング」
・みなぎる力「マムシロン」
・疲れ知らずの「強力ニンニクゲン」
・ファイトもりもり「人参ゴールドX」
・便秘に「ストレート」

便秘薬はともかく、パパとしては愛する家族のため、健康で若々しく仕事をしなくてはという強い思いで、多少高くてもサプリメントを大量摂取しているのである。

しかしこれだけの量を飲むためには時間が相当掛かるので、今日も遅刻の危機に陥り、猛ダッシュで出社していく。

しかし、慌てたため、仕事カバンを玄関に置いたまま走って行ってしまったので、居候の仙べえが「届けてやるべ」と言って、後を追っていく。

仙べえは既に108歳という年齢だが、体力は衰え知らずで、パパを抜き去り、先に駅に着いてしまう。パパはヘトヘトになりながら合流し、「一体どこからそんなスタミナが」と尋ねる。

すると仙べえは、山へ入った時に仙人の先輩から飲まされた「仙薬」のおかげではないかと見解を述べる。パパは、それは大したクスリだと感心し、処方がわかれば世間は大騒ぎになると言う。


言われてみれば大したクスリじゃと仙べえは思い、うろ覚えながら、昔読んだ「仙薬百科」の内容を思い出して、仙薬を作ろうと考える。

この話を聞いたモヤ夫は、もし本当なら世界中の人が欲しがるだろうから、大儲けができると大興奮。

仙べえは、最初は処方は秘密だと言ってモヤ夫を排除するのだが、足りない材料を手に入れて欲しいと協力を要請。仙薬会社の副社長にすることなどを条件に、クスリ作りを手伝うことにする。

事業を成功させ50階くらいのビルを建てよう、テレビでCMを流して、一時間番組のスポンサーになろう、そして自分が主役になろうなどと、野望を夢見るが、まずは薬を完成させなくてはならない。

ちなみに、この時のモヤ夫の妄想は、少し先の展開の伏線になっているので、覚えておいて欲しいところ。


仙べえは「雲母」が欲しいと言い出す。ウンモ・・・。地学の授業で聞いたことあるが、白くキラキラと光沢のある鉱石のことである。

モヤ夫はガールフレンドの竹子さんが鉱石の標本をコレクションしていたことを思い出し、さっそく訪ねて恐る恐る欲しいと言うと、案の定「冗談じゃないわ」と完全否定。

そこでモヤ夫は、コマーシャルタレントになりたくはないかと、甘言を弄す。先ほどの野望の一つだった、テレビCMを打つことを餌にして、何とか雲母を貰うことを了解させるのであった。


仙べえのもとに戻ると、次は鹿角(ろっかく)を入手しろと言い出す。大都会において鹿の角が簡単に手に入るわけがないが、仙べえは、千里眼で近くに立派な角を持った牡鹿がいるのが見えたという。

方角を示されて、モヤモヤしながら牡鹿のもとへと向かうモヤ夫。すると辿り着いた先は、再び竹子の家。そこでモヤ夫は、鹿の頭の標本が飾られていたことを思い出す。

そして角を削らせろと竹子にお願いするが、パパに叱られると一蹴される。そこでモヤ夫は、テレビの一時間番組の主役をやらせると、再び空手形を切る。

結局は芸能人に憧れる竹子は、「そーお?」とまんざらではない表情で、やすりを手にするのであった。


雲母と鹿角を入手したが、まだ何か足りない気がすると仙べえ。「いまさら無責任だ」と怒るモヤ夫。すると、「ヘソのゴマ」だと仙べえが思いついた様子。

仙べえは、鹿角に続いて千里眼を使うと、とある方向にありありと見えるという。モヤ夫は嫌な予感を覚えつつ、仙べえの後を追っていくと、そこは三度竹子の家の前。

「この上ヘソのゴマを取らせろなんて言ったら殺される」と逃げ出そうとするモヤ夫を捕まえて、仙べえは竹子に折り入ってお願いがあると申し出る。

家の中へと通されると、「仙べえ」世界のガキ大将である出羽口も遊びに来ている。仙べえが「実は・・」とヘソのゴマを欲しいと言い出すのだが、そこでモヤ夫は一目散に逃げだす。


ヘソのゴマというありえないお願いに対して、悲鳴を上げて逃げる竹子。そこで出羽口が割って入ってくるので、仙べえは「金剛身の術」という体が硬化する仙術を自らに掛けるのだが、誤って出羽口を強くしてしまう。

仙べえはまだ仙人初心者なので、このように仙術の失敗がとても多いのである。


その頃、家に戻ったモヤ夫は、パパの買い集めているクスリを全てゴミ箱に捨ててしまう。何にでも効く仙薬がもうじき完成するので、もう不要だというのである。

そこへ仙べえが帰宅してくる、無事、ヘソのゴマを手に入れることができたのか・・。残念ながら、あの後出羽口にボコボコにされてしまったらしく、傷だらけの仙べえが玄関口で倒れこむ。そして一言、

「キ、キ、キズグスリは・・・ないか・・」

ミイラ取りがミイラになった的な、本末転倒ぶりを見せる仙べえなのであった。




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