ハカセの家族構成が判明!『ハカセもいっしょに』/オバQ世界の天才児ハカセ②

「オバケのQ太郎」は、個性的なオバケの掛け合いが魅力的な作品である。

Q太郎の他に、意地悪なライバルドロンパ、優等生の妹P子、自分勝手なガールフレンドU子、新オバQでは言葉が話せない弟のO次郎が登場し、何かと騒ぎを繰り広げる。

しかし、それ以前に、個性的な人間のキャラクターも忘れてはいけない。正ちゃんや大原一家以外にも、暴れん坊のゴジラ、キザな木佐君、アイドル的存在のよっちゃんが、Qちゃんを振り回し、Qちゃんに振り回される。

そして、もう一人の重要人物が、Qちゃん世界の秀才、ハカセである。

ハカセの初登場は、他のメインキャラ(人間)の中ではかなり遅く、連載が始まってから約一年後のことであった。

前回、頭がいい友人として突然ハカセが現れて、戦争ごっこで巧妙な作戦を立てまくったお話を取り上げた。まずはこちらをチェック願いたい。

この作品の関連作として、『雪のおしろを守れ!』や、『大海戦』などがあるが、これはまた別の稿にてたっぷりと取り上げる。

本稿では、謎めいた存在のハカセのプライベート、意外な家族構成が明らかとなるお話を見ていきたい。


『ハカセもいっしょに』
「週刊少年サンデー」1965年32号/大全集3巻

本作ではまず、よっちゃんが正太、Qちゃん、ハカセに対して、うちの別荘に一週間ほど行かないかと誘われるところから始まる。時は夏休みなのである。

よっちゃんが別荘を保有するほどの裕福な家庭だとは知らなかったが、白樺の林の中にあり、近くにはきれいな小川が流れ、夜になると月見草や山鳩の鳴き声を楽しめるという。

はっきりとした別荘地は特定できないが、白樺というキーワードから、八ヶ岳の蓼科あたりではないかと考えられる。


それぞれ家族の了解を取ることになるが、正ちゃんのママは、しっかり者のハカセ君がいるならいいわ、とすぐに了承してくれる。「ドラえもん」におけるドラえもんのような信頼感なのである。

ところが、その肝心のハカセは、おじいさんが行っちゃダメだと言われたらしく、がっくりと肩を落としている。他の家族に信頼されているのに、自分の家族はそうでないという、何とも皮肉な状況である。

ここでは、ハカセは頑固なおじいさんと二人暮らしであることが判明する。どういう理由で両親が不在なのかは不明。どこか海外で暮らしているのか、何かの事情で死んでしまっているのか・・。

ちなみに本作では、前回登場時から表情に変化が見られ、眉毛が「ハ」の字になっている。ただし、この時点では目が「カ」「セ」にはなっていない。


ハカセのおじいさんの反対理由は「子供だけだと生活がだらけるから」というもの。そこで正ちゃんは、子供だけでもキチンと暮らせることを証明するべく、生活計画を立案して、プレゼンをすることに。

いかにも頑固者といった風情のハカセのおじいさん。作画はハカセと同じ石森章太郎であろうか?

正ちゃんのプレゼンテーションは、別荘におけるスケジュールを実演で見せるという。ところが、正ちゃんの小芝居をQちゃんがことごとく邪魔をしていくという流れで進んでいく。

正太)朝、目覚ましの音で元気よく起きます
Q太郎)ムニャムニャまだ早い、と寝言

正太)ご飯も自分で炊きます
Q太郎)面倒くさいからアイスクリームで済まそう

正太)食後は勉強
Q太郎)遊びに行こう、勉強なんてガラでもない

正太)夜はキャンプファイヤーを囲んで反省会を開く
Q太郎)徹夜しようぜ

正ちゃんは何とかして説得を試みるのだが、その意図を全く汲んでいないQちゃんが、全てひっくり返していくという、大笑いシーンなのである。


さて、案の定「許さん!」と全く考えを改めないおじいさん。正ちゃんがどうしてダメかと食い下がっても、「理由は言えない」の一点張り。そこで「ハカセにはおねしょの癖があるのか」とけしかけると、「実は旅費がない」と金銭的な理由を挙げる。

確かにおじいさんが働いているようには見えないので、両親不在の中、生活が苦しい可能性は十分にある。

そこで、Qちゃんがハカセをおんぶして一部移動することで、交通費を浮かせるので、その分を出すと正ちゃんが提案する。すると、「バカにするな」と激怒するおじいさん。

なんと、旅費はないがお金はあるのだと言って、大きな金庫を見せつけるのであった。


改めて何で旅行させないのか尋ねると、今度は「実は夏休み中にしっかり勉強させるのだ」と言い出し、山積みの問題集を見せる。

そこで正ちゃんは、参考に貸して下さいと言って、問題集を借り受けていったん帰宅。これをパパに解いてくれとお願いする。当然「冗談じゃない」と拒否するパパだが、「こんなに頼んでもダメなのは、できないからだな」と挑発され、結局取り組むことに。

しかし、解き終わった問題集をハカセに持っていくと、「間違いだらけじゃないか」とバッサリ。かえって、ハカセの作業を増やしてしまうのであった。


ハカセが行けないと、自分たちも許してもらえない。そこでよっちゃんに相談に行く。するとよっちゃんは、コマーシャルのように何度も繰り返して、その気にさせたらどうかと提案してくる。

そういうことであれば、消えたり飛んだりできるQちゃんの出番である。さっそくハカセの家に行き、テレビの中に入って「ハカセを別荘へ行かせよう」と繰り返したり、新聞から飛び出て「別荘、良い別荘」としつこくアピール。

しかし、おじいさんは目隠しをして、QちゃんのCM作戦を完全無視してしまう。


ところでおじいさんは、ハカセに対して厳しい態度をずっと取っている訳ではない。別荘行きを反対され落ち込んでいるハカセに対して、「そんなにがっかりするな、もっといいとこへ連れてってやる」とか、「何か食べたいものはないか」と優しく声を掛けてくる。

この関係性を見ると、ただの意地悪で別荘に行くことを反対しているのではないということが分かってくる。


この後、正ちゃんが入れ知恵をして、ハカセに仮病をさせる作戦に出る。医者に扮したQちゃんを送り込み、病気を快復させるためには空気のキレイないい別荘へ行かせるべきだと診断させるのだ。

ハカセの体調が悪いと聞いたじいさんは、飛び上がるようにして驚き、「大変じゃ、薬を呼んで医者を飲ませよう」と一気に狼狽してしまう。ここでも、ただの頑固者ではないことが、何となくわかるシーンとなっている。

まあ、案の定、Qちゃんのお医者さんごっこは破綻して、怒鳴られて追い出されてしまう。


次なる作戦は広く世間に訴えるデモ作戦。プラカードに「がんこじいさんひこめ」「ハカセを助けよう」と書いて、おじいんさんを批判しながらデモ行進するが、ここで止めに入ったのは、他でもないハカセ。

ハカセは、「おじいさんの悪口は止めろ」と猛抗議してくる。ハカセは自分のために正ちゃんたちが行動していることは知りつつ、おじいさんのことは大事に考えていることが良くわかるのである。


もう手立てがないかと思ったその時、担任の先生がたまたま通りかかり、先生からおじいさんに話してくれることになる。

そして結果的には、この先生の説得が功を奏して、ハカセの別荘行きは了解を得ることができるようになる。このやりとりが少々感動的なので、抜粋してみよう。

先生「みんないい子だし、危険なこともないと思います」
祖父「わしの孫のことはわしが決めます。あの子は小さいときからわしが育ててきました。いつもわしの傍にいないと心配でしてな」
先生「しかしいつまでもそれじゃいかんでしょう。彼もそのうち大人になるんですよ」
祖父「そうか、いつまでも赤んぼみたいに思っていたが・・・。あの子も自分の力で生きていく日が来るんですな」

ここで見えてくるのは、おじいさんが、ハカセの親代わりに赤ん坊から育て上げたことで、逆に過保護になってしまったということである。

常に自分が孫の近くにいないといけない、だから子供だけで遠出することは許容できない。そんな風に考えていたのである。

しかし、「可愛い子には旅をさせよ」と先生に諭され、それはそうだと理解したのである。

ちなみに、親目線からすると感動的なこのやりとりを聞いていたハカセたちは、「わかりきったことを言ってる」とまるで響いていない様子。親の心子知らず、子の心親知らずというすれ違いが差し込まれているのである。


先生の言葉を受けて別荘に行かせようと承諾するおじいさん。ハカセは「ありがとう」と感謝の意を示し、「毎日手紙を出す」と約束する。

こうして無事に別荘に辿り着いた正ちゃんたち。深呼吸なんかをして「来てよかったね」と満足気である。

ハカセは朝から約束の手紙を書き出す。すると、別荘の窓からおじいさんが姿を現し、「手紙はまだか?貰いに来たぞ」と催促してくる。手紙を受け取る名目で、別荘についてきてしまったのである。

そう、簡単には過保護体質は抜けないものなのだ・・・。


・・・ということで、ハカセには頑固で過保護なおじいさんがいて、両親抜きで二人で暮らしていることが、本作にて明らかとなった。

おじいさんは孫のことが大好きで、よく気にかけていて、ハカセもそのことが良くわかっているようである。それとなく、二人の絆を感じさせる、とっても良い話ではないかと思う。


さて、本作には続きがあり、それが別荘地でのひと時を描いた『おかしなおかしなウマとウマ』である。

本作の詳細は省くが、ハカセとよっちゃんがきちんと朝学習をしている中、Qちゃん正ちゃんは高原へと遊びに繰り出し、そこで乗馬をしている木佐君とばったり会う・・・という展開となる。

ハカセは数コマのみ登場するが、だぶだぶの詰襟の袖から、手を出さずに鉛筆を持っている姿がちょっと面白い。だが、見どころはそんなものであるが。



いいなと思ったら応援しよう!