奥秩父、日本唯一の「断崖ブランコ」
先週の金曜日、どこかに無性に遊びに行きたくなった。自然に囲まれたところで、紅葉でも見た後サウナに入りたい。
「これだ」
目に止まったのは、奥秩父にある「ジオグラビティパーク」という場所。吊り橋ウォークやジップライン、バンジージャンプなど、絶叫アトラクション好きにとっては堪らないワードが並んでいる。
あまりにウキウキしている私を見て諦めたのか、妻は首を縦に振る。日帰りで、秩父を訪れることになった。
ローカル線の終着点、美しい山並み
土曜日の午前10時半、電車に乗り込む。池袋と秩父を1時間15分程度で結ぶ、「特急ラビュー」だ。
印象的なライトイエローの座席は大きめで、乗車スペース全体がかなり広いのが、良い。特急料金含めて片道1600円とリーズナブルでもある。
近くで買ったおにぎり屋さんのおにぎりを食べ、都会から田舎へ、ビル群から田んぼへと変わる景色を眺めていると、あっという間に西武秩父駅に到着した。
ホームへ降り立ったのも束の間、徒歩5分のところにある、「御花畑駅」へ。
大勢いた観光客らしき人たちが向かうであろう長瀞(ながとろ)方面とは反対、秩父鉄道の終点に向かって、電車に乗る。
同じ車両には、恐らく私たちと目的地が同じ男性2人組以外に、乗客はいない。窓の外に映る紅葉の美しさも相まって、まさにローカル線の旅という感じがしてワクワクする。
御花畑駅から揺られること約15分、終点である「三峰口(みつみねぐち)駅」に到着した。
周囲を山々に囲まれ、空気が澄んでいて気持ち良い。12月だが、そこまで寒くもない。このローカル鉄道の終着地点から10分ほどの場所に、今回の旅のメイン目的地である、「ジオグラビティパーク」はある。
少し歩くと、姿が見えてきた。
いざ、断崖ブランコ
絶叫アトラクションに目がない私は、4つあるアクティビティの中でもひときわ怖そうな「キャニオンスイング」に挑むことにした。57mの高さから落下して谷の間をスイングする、言うなれば「断崖ブランコ」だ。
先に到着していた男性2人組が何を選ぶか悩んでいるのを横目に、受付で予約した旨を伝える。こういうのは、サクサク進んだ方が逆に怖くないものだ。何より「早くやりたい!」という気持ちが恐怖感を圧倒的に上回っていた。
体重を測った後、インストラクターの方にハーネスをつけてもらい、安全のために張られた金網をくぐると、すぐそこに降下場所がある。足場が、地面から金属の網のようなものに変わると、少し心拍数が上がったような気がする。
谷に向かってせりだした、平均台のような細長い道の先に待っていた2名のスタッフに挨拶をして、ハーネスに金具などをつけてセッティングしてもらう。あっという間に準備完了だ。
「お連れ様も見てくれてますよ」
そう言われて振り返ったが、目に入るのは先ほどの男性2人だけだ。手を振ってくれていたが、返す余裕はなかった。すぐそこにある深い谷と渓流を前に、いつの間にかドキドキしている。
人生最大の「尻ヒュン」
てっきり、足場の先端から、せーので飛び込むものだと思っていたが、そうではないらしい。なんと一旦前に出て、空中に浮遊した状態でカウントダウンが始まるという。
ジェットコースターが頂点まで登り切った後降り始めるまでの、見方を変えれば最も怖い瞬間かもしれない、あの数秒間のようだ。
カウントは3からでいいですか?後ろから問いかけられる。頷く私。
上から下に落ちていく時の、お尻の穴がヒュンとなるあの感覚が、富士急ハイランドの「FUJIYAMA」や、長島スパーランドの「スチールドラゴン2000」よりも、長い。
時間にして、3〜4秒だろうか。一瞬で下まで落ちて、目の前に流れる美しい渓流を見ながら、5〜6回体がスイングする。
興奮覚めやらぬ中、周囲の大自然を眺めながら、上へと引き上げられる。下に落ちる時は一瞬だが、上がるのはそれなりに時間がかかる。段々と高さが上がっていくので、実はこれが結構怖い。
平均台まで辿り着き、ハーネスについた金具類を外してもらう。手すりを両手でガッチリと掴み、後退りするような感じで、無事地上へと舞い戻った。興奮と安心感で、息が切れていた。
アドレナリンを出し切って、すごく疲れた感じがしたが、妻曰く、「憑き物が取れたような、晴れやかな表情」だったようだ。とても楽しい体験だった。
後で調べて知ったのだが、この「キャニオンスイング」を日本で楽しめるのは、ここ秩父だけらしい。ニュージーランドやスイス、ネパールなどには、100m以上の特大スケールのブランコがあるようなので、いつか行ってみたい。
時間にしてトータルで30分程度。あっという間に終了したが、すでにお腹いっぱい。他のアクティビティには参加せず、街に戻ることにした。
ニューレトロな街「御花畑」
秩父は、アニメ「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない」の聖地だ。車内が「あの花」仕様にデザインされたデコレーション車両の秩父鉄道に乗車し、再び御花畑駅へ。
行きは気が付かなかったが、御花畑駅の裏側にはにぎやかな通りが広がっていて、少し先には神社が見える。私たちは行かなかったが、この「秩父神社」を訪れて帰ってくる人たちが、向かい側から歩いてくる。
昭和の面影を残したこのあたりは、番場町(ばんばちょう)というらしい。人気だというモンブランやたい焼きを食べている若者や外国人、地元の人などが行き交っていて、かなり活気がある。
少し歩くと、一層レトロな建物が集まるエリアに出た。昭和というより明治時代のような趣ある建築物をリノベーションした喫茶店や、元は理容室だった場所を改築した雑貨店、昔ながらのパーラーなどが立ち並ぶ。レトロな雰囲気の中にも洗練された新しさのようなものを感じ、何だかテンションが上がる。
今回は、「サロン ニューヤング」と理容室の看板がそのまま残っている雑貨店の向かいにある、「CARNET(カルネ)」というカフェに入った。店内のインテリアや雰囲気が作り込まれたこの洒落た空間には、常連と思しき地元の方々の姿。私が谷底へ落ちていく姿を見てブルブルしていた妻も、お気に召したようだ。
駅前サウナと秩父グルメ
西武秩父駅には、駅に直結した温泉施設「祭の湯(まつりのゆ)」がある。
番場町のあたりをまだ散策するという妻と別れ、私は楽しみにしていたサウナへ。アクセスの良さもあり、相当混み合っているだろうと覚悟して向かったが、思ったより空いている。90度台の程よい温度のサウナと、露天スペースでの外気浴を存分に楽しんだ。
その後、妻と合流して、予約していた居酒屋に向かう。今回選んだのは、西武秩父駅の目の前の通りにある、「福助(ふくすけ)」というお店。サウナ後の体にキンキンに冷えたビールが染み渡る。一緒に出てきたお通しが、なんとサーモンとエビが乗ったミニサイズの海鮮丼。あまりの美味しさとホスピタリティに、入店早々笑みが溢れる。
一通り料理を楽しんだ後、せっかくならと一つ隣の居酒屋へ。そこでも秩父名物のわらじかつ、こんにゃくを平らげ、大満足で帰路についた。
さいごに
思いつきで、準備やリサーチはほとんどせず、かなり行き当たりばったりだった今回の日帰り秩父旅。
ジオグラビティパークの「断崖ブランコ」が素晴らしかったことは言うまでもないが、西武秩父駅周辺でも思いのほか楽しむことができた。「夏・長瀞・川」のイメージが強かったが、冬に行く秩父も良い。
いつか、あのレトロで素敵な街並みの一角に、地元の人や観光客に愛されるような喫茶店を出してみたい。そんなことを思いながら、長かった土曜日を終えた。