インドで71杯のチャイを飲み歩き、京都で1000杯のチャイを売り歩いた私が“現代の魔法の鍋”で煮出す最高のチャイとは
ホットクックのボタンを押し、我々はカフェインのもたらす奇妙な高揚感と共にチャイと人生について語り合っていた。アッサム茶葉と煮出された生姜、カシアシナモンとカルダモンの香気分子が勢いよく機械から噴き出している。ボタンを押せば毎回できたてで全く同じ味のチャイが飲めるようになったいま、人間ができるのは語り合うことだけ。とりとめのない会話はチャイとともにだんだん煮詰まっていく——。
今回、シャープから未来型の調理器具である「ホットクック」を預かり、牛乳を活かした最高のチャイを作るチャレンジをすることになった。チャイは構成要素が少なく料理と呼ぶにはあまりに単純ではあるが、単純であるが故の奥深さがある。
私はカレー哲学者として活動しつつ、東京マサラ部というインド料理グループを首謀している。インド料理を考える上で牛乳は欠かせないため、吉祥寺で百年続く牛乳屋さんと協業して「印度乳業」というミルクプロダクトのブランドを立ちあげた。フィールドワークとしてインドで1ヶ月間チャイを飲み歩いたときに出会った71杯分全ての記録をとったり、大学院でのインド料理研究の傍ら京都で屋台を引きつつ、おそらく今まで1000杯くらいチャイを売ってきた。ということで日本人の中ではまあまあチャイが好きなほうではあるだろう。
チャイ、というと日本ではおおよそインド風にスパイスの効いた濃厚なミルクティーを連想する。神秘的でエキゾチックな雰囲気があり、サフラン色の風でも天竺の方角から吹いてきそうである。
しかし実は「チャイ」という言葉自体は「お茶」のことを示すものらしい。つまり、緑茶もウーロン茶も全部チャイといえばチャイなのだ。トルコやロシアなどでもお茶のことはチャイと呼ばれる。海路で伝わった地域はティーと呼ばれ、陸路で伝わった地域はチャイという名称が残ったらしく、「チャイティー」は同語反復になってしまう。
色々な意味があるとしても、「チャイ」というときにはインドのことを考えずにはいられない。インドの旅の風景はいつでもチャイとともにあるからだ。
インドの旅はとにかく疲れるが、どんな辺鄙な村でも必ずチャイが飲まれている。カオスの喧騒から少しだけ離れ激甘のチャイで一息つけば、暇そうなおじさんが話しかけてくる。列車に乗れば「チャイチャイチャイチャイ….」と高速早口で売り歩くおじさんが登場し、道端の屋台では熱々の鍋が煮たっていたりする。その傍にはやっぱりおじさんがいて、着ているランニングシャツでチャイのカップをぬぐったりしている。あれ、おじさんの思い出ばかりで神秘的ともエキゾチックとも違うような気がするが…。
インドの会社ですこしだけ働いたことがあるのだが、数えてみたら1日に7回チャイ休憩をしていた。朝起きたら朝食と共にチャイ、出勤したらチャイ、お昼ご飯にチャイ、おやつにチャイ、疲れたらチャイ、帰り道にチャイ、寝る前にチャイ…といった具合である。もちろん毎回ミルクと砂糖はたっぷりで、これだけで食事の代わりとする人もいるくらいだ。
今回の企画のために改めてチャイの歴史を調べなおし、現地のフィールドワークを振り返った。紅茶と牛乳の組み合わせを調べる実験を行い、ホットクックで何度も実験をしてレシピを検討した。カフェインの取りすぎで精神を加速させながら身体を張り、ついにホットクックを使った再現性の高いチャイレシピが完成した。
この記事はチャイをめぐる旅と試行錯誤の記録である。
チャイってなんだ
インド中で毎日のように飲まれているチャイだが、むっちゃ伝統があるように思わせておいて実はその歴史は浅い。最近のインドの若者は古臭いと言ってチャイをあまり飲まないらしいが。
世界史の話になるが、軽くチャイの歴史について振り返ってみたい。インドでの茶の普及には、インドを200年以上植民地支配していた宗主国のイギリスが絡んでくる。
そもそも茶という植物には中国種とアッサム種の二種類がある。中国種はその名の通り中国原産で日本にも古くから伝わっていたが、ヨーロッパに伝わったのはようやく17世紀頃の話。オランダ経由でヨーロッパ諸国に伝わったがイギリスにだけ喫茶の習慣が残り、紅茶が日常の飲み物となり需要が拡大していった。
アッサム種はその名の通り、お茶の野生種がインド・アッサムで発見されたのが始まりだ。これによりイギリスはインドを拠点にアッサム紅茶の栽培を本格的に開始。カテキン含有量が多く酵素の活性が強く発酵しやすいため紅茶向きでミルクティーに向いているとされた。
しかし、インドで茶が本格的に栽培されるようになってもインド国内では習慣がなくほとんど飲まれていなかった。品質のよい紅茶はイギリス本国へ運ばれてしまい、ダストティーと呼ばれる品質の低い茶葉がインド国内に大量に残った。
そこでイギリスの紅茶会社はインド人に日常的に紅茶を飲む習慣をつけさせるため、鉄道や工場などを中心に安価に紅茶を飲ませるキャンペーンを展開した。最初のうちイギリスは正統的なティーポットとソーサーをつかった格式高い紅茶の飲み方を教育したのだが、実際に普及したのはインド化した砂糖と香辛料、ミルクをたっぷり入れて煮立たせたものだった。外来の文化をなんでもインド化してしまうインドのクセの強さがここにもでている。
このように、今ではすっかり全土的に定着しておりとてつもなく長い歴史を持っているかのように見えるチャイだが、日常的に飲まれるようになったのはここ100年程度の出来事なのだ。
ちなみに、一般的にチャイに使われる茶葉はCTCという加工をされている。CはCrushの「押し砕く」、TはTearの「裂く」、CはCurlで「丸める」。つまり紅茶の葉っぱを砕き、引き裂き、丸めて粒々に加工し、発酵させて乾燥させた茶葉。このように加工することで液体に触れる表面積が増え、味は濃厚に仕上がる一方、香りは少し弱めになる。
以前、東インド・コルカタから南インド・チェンナイまで旅をしながら1ヶ月間チャイを飲み続けたことがある。最も多かったのは単純に茶葉と牛乳と砂糖、生姜だけで構成されているチャイ。スパイスが入ったマサラチャイはそれほど多くはなかった。個別でオーダーするとやってくれることもあるが、生姜は入るもののスパイスを入れることはあまり重視されていないようだった。
ところで、インドの中でもチャイの飲み方や作り方にはかなりバリエーションがある。例えばコルカタではいまでも「クルハル」と呼ばれる土の素焼きのカップが使われており、一度飲んだらそのまま捨ててしまう。
「インドでは素焼きのカップでチャイを飲んで叩き割るんでしょ!?ストレス解消に良さそう〜」
などと言われることがあるが、あえて叩き割るというよりは紙コップを捨てるような感覚だ。素焼きカップを使うのは他人の穢れを避けるヒンドゥー特有の浄・不浄の観念に基づいている。土の香りが風味としてチャイに重なるが、すぐに飲まないと器に染み込んでだんだんなくなってしまうのもなんとも風情がある。
地域による差分も興味深い。南インドではコーヒーの方がメジャーでよく飲まれているものの、チャイもまあまあ飲まれている。しかし味や作り方は北と南で少し異なる。北インドの方では茶葉も砂糖も牛乳もまとめて一つの鍋で煮出して煮込み続け、注文が入ったら注いで出す方式が多い。南インドではお茶と牛乳を別々の鍋で煮出しておき、注文が入ったらカップに砂糖を混ぜて空気を含ませながらながら混ぜるやり方の店が多かった。
北インドの作り方ではやや濃厚になり牛乳感が濃く感じられ、南インドの作り方は茶葉と牛乳が別々でフレッシュに感じられる。
歴史が浅いにも関わらず、これほど生活に溶け込んでいてインドらしい飲み物は他にないだろう。
インドで牛乳について嗅ぎ回っていたら吉祥寺で百年続く牛乳屋さんと出会った
インドは牛が家畜化された歴史が世界の中でもかなり古い。牛乳の生産量と消費量は、なんと世界一である。雌牛はヒンドゥー教で特に神聖な生き物であり、牛から出るものもすべて神聖なものとして扱われている。澄ましバターであるギーや牛乳、ヨーグルトなどの食べ物にとどまらず糞や尿もとても神聖なものとされる。
いままでの経験上、なぜかインドで飲む牛乳は美味しい。一体何が違うのだろうか。何もわからなかった私は、牛乳について調べるために酪農が盛んなインド北西パンジャーブ州のアムリットサルに飛んだ。
インド人の友達の実家にお邪魔し、シーク教徒のおじいさん一人暮らし家庭の生活を見せてもらった。近隣の小さな牧場まで連れていってもらって、驚いたのは水牛の多さ。日本では水牛のミルクはなかなか飲めないが、水牛は体の大きさの割にミルクの量が少ないので脂肪分と無脂乳固形分の割合が高く成分が濃厚だ。インドでは地域によっては水牛ミルクの方が好まれることも多い。
その牧場で搾られた生乳がすぐに運ばれてくる。牧場からの距離が近いのでとても新鮮だ。それを家庭で鍋でゆっくり沸かして殺菌する。牛乳をそのまま飲むことは少なく、チャイにしたり料理に使ったりすることが多い。すましバターのギーやヨーグルト、カッテージチーズのパニールなどにも使われ、牛乳は余すところがない。
そんなことを旧Twitterで書いていたら、コルカタの映画学校に留学している友人から「インドで牧場をめぐって牛乳を飲みまくっている日本人がいる」というタレコミがあった。
世の中にはすごい人がいるもんだな...と思い調べてみたところ吉祥寺で百年続く牛乳屋さんで、牛乳の世界観が変わる「クラフトミルクスタンド」というお店をやっているという。日本全国の牧場を百ヶ所以上実際に訪れていて、三週間インドの牧場を巡っている?!独自でインドの牛乳を調査していた私は運命を感じた。
連絡をとり、東京に戻ってから実際に吉祥寺の「武蔵野デーリーCLAFT MILK STAND」を訪れてみた。牛乳が飲み比べでき、それぞれ牧場の名前も明記されている。いうなれば「シングルオリジン」だ。
「牛乳」と一括りにとらえていた概念が、自分の中で急速に広がりを見せた瞬間だった。
武蔵野デーリーさんと知り合うまで、いままで普段飲んでいる牛乳について深く考えたことはなかった。というか、そんなに牛乳に選択肢があるということ自体見えていなかった。
牛乳ってなんなのだろうか。
もちろん牛乳は牛から出た乳だ。しかし、ミルクがそのままパックに詰められているわけではなく、工場で加工された上で届けられている。殺菌温度やホモジナイズ処理の有無、飼料や飼育の方法などさまざまな要素が牛乳の味に影響を与える。
以下は武蔵野デーリーさんの受け売りではあるが、これを機に牛乳について解像度を上げてみよう。
まずは殺菌方法に注目してみる。牛乳は栄養価が高く細菌が繁殖しやすいので殺菌は必須。一般的にスーパーで販売されている牛乳は、超高温瞬間殺菌(UHT)処理が施されていることが多い。この方法では機械を使い120℃〜130℃の高温で2〜3秒間殺菌する。高温短時間の処理によりほとんどの細菌は殺菌されるが、同時に牛乳中のタンパク質が変性を起こし、風味に変化が生じる。結果としてUHT処理された牛乳は長期間の保存が可能になるが、生乳本来の繊細な味わいは失われる傾向がある。
対照的に、低温殺菌牛乳は63〜65℃の温度で30分間かけてゆっくりと殺菌される。この方法ではタンパク質の変性が最小限に抑えられるため、生乳に近い風味が保持されるとされている。しかし、低温殺菌牛乳は賞味期限が短く、取り扱いが難しいため、スーパーなどで見かけることは少ない。生乳に近い味わいのためナチュラルでフレッシュな風味といえるが、一方でコクがやや物足りなく感じられることもある。超高温殺菌時に発生する独特の風味やコクが好きな人もいる。
次に、ホモジナイズ処理というのがある。ホモジナイズ処理とは、牛乳中の脂肪球を均一に小さくする工程のことを指す。この処理により、脂肪球が細かく分散されることで、牛乳のクリームが分離しにくくなり、飲みやすさが向上する。また、脂肪球が小さくなることで消化吸収がしやすくなり、乳製品として加工する際にも扱いやすくなる。現在、市場に流通している牛乳のほとんどがホモジナイズ処理を施されたものであり、この処理を経ないものは「ノンホモ」と呼ばれる。
さらに、牛の飼料や育て方によって牛乳の味が変わるという点も見逃せない。牛が普段何を食べているかは、牛乳の風味に大きな影響を与える。本州などでは安定した乳量を確保するために穀物飼料で育てられた牛が多い。そのため、一般的に牛乳は甘味が強くなる。一方、土地の広い北海道などでは放牧で育てられる牛も比較的多い。放牧で育てられた牛からはより自然に近い風味が感じられる。放牧牛乳の場合季節によっても風味が大きく変わり、初夏の草の生え始めの頃は「放牧牛乳の旬」と呼ばれるくらい栄養価も高くなる。一般的な牛乳は複数の牧場からたくさんの牛のミルクを集め、混ぜ合わせて作られるため「合乳」と言われるが、単体の牧場で少ない数の牛のミルクのみで作られた牛乳はその分個性的で複雑な味わいが楽しめる。
このように牛乳の殺菌方法、ホモジナイズ処理の有無、さらには牛の飼料や育て方に至るまでいくつかの要素が最終的な牛乳の味に大きな影響を与える。
チャイの魅力を最大限に引き出すためには、これらの要素を細かく検討した上で適切な牛乳を選ぶことが不可欠だ。
価格は確かにばらつきがあるが、別に安い牛乳が悪いというわけではない。牛乳はどれも素晴らしいし、なによりも特徴を知った上でチョイスができることが重要だ。放牧牛乳の成分は季節によって変動もするし、脂肪分が分離するので扱いにくさもある。スーパーの牛乳の方が賞味期限も長く安定していて、料理には使いやすいかったりもするのだ。
京都で屋台を引きながらチャイを1000杯売って考えたこと
武蔵野デーリーさんと出会ってから意気投合し、インド料理グループ「東京マサラ部」と牛乳屋「武蔵野デーリー」のコラボブランドという位置付けで、日本のおいしい牛乳を使ってインドのミルクプロダクトについて研究・発信する「印度乳業」という活動を始めた。
東京では別のメンバーが定期的にチャイ祭りを実施し、京都では屋台を引きながらチャイを売っていた。シェアハウスの同居人が京都府内一円で屋台の営業許可を取得したので、それを借りつつ一緒に活動していたのだ。
大学院の学費を稼ぐためという目的もあり、実験的に昔の苦学生にならってチャイやカレーを売り歩いた。京都市役所前の広場やお寺のイベント、鴨川沿いや外国人が多いホテルの前などご縁のあったところに出没し、地元の人々や観光客にチャイを飲んでもらった。
平日は授業に出て研究を進め、週末はインド式の屋台を引きながらチャイを売る日々。京都には何をして生計をたてているのかよくわからない人がたくさんいて、自分もそんな風景の一部になったようだった。
屋台を前にすると人は語り出す。地元の方や観光で訪れた方と色々なことを語った。ある南アフリカから来た親子はチャイを毎日自分で作って淹れるという。ある人は初めてチャイというものを飲んだが感動したといってすぐにもう一杯お代わりしてくれた。ある人はサラリーマンを経験してから出家し、3年ほど寺で修行し、また社会に戻ったと話してくれた。あるアメリカ人は京都の老舗のお茶屋で働いていて、「チャイ仲間ですね」と笑い合ったりした。色々な人生がチャイの前を通り過ぎていく。
印象的な夜がある。初めて河原に繰り出した日だった。大学院でゾウを研究しているネパール人の先輩とインド人の旦那さんの夫婦が通りがかり、チャイを飲んでくれた。二人は屋台を見るなり「インド式の屋台だ!!」と言って近寄ってきた。暑くなり始めの時期だったのでアイスチャイをメインで出しているのを見て、「インドではホットチャイしか飲まないんだ。どんなに暑くてもチャイはホットであるべきだ」と言われた。もちろん私はアイスとホットの両方を用意していた。ホットチャイを二人で分け合いながら、おいしい!と満足そうに帰っていった。
チャイは単なる飲み物ではなく、人と人とを繋ぐ一つの文化的ツールである。京都の街角でもインドの街角でも、チャイを前にして新たなコミュニケーションが生まれることを実感した。
牛乳を活かした最高のチャイをホットクックでつくる
前置きが長くなったが、ようやくチャイ作りの話ができそうだ。ホットクックを使って最高のチャイを作りたい。
「最高のチャイ」といっても漠然としている。印度乳業という活動をしている以上、ここは「牛乳の違いがわかるような最高のチャイ」に仕上げよう。
フィールドワークの経験から、インド人はチャイを飲みたいというよりも単に牛乳をおいしく飲みたいのではないかと常々思う。南インドのフィルターコーヒーもそうだが、コーヒーへのこだわりはほとんどない。砂糖と牛乳を大量に入れた美味しいものを飲みたいだけなのではないだろうか。
しかもインドで飲むチャイの全てが美味しいわけではない。味見をする人は少なく、特に街の屋台ではオヤジの一存で大きなブレが発生する。茶葉が切れたら茶葉を足し、牛乳が切れたら牛乳を足す形で作るので、タイミングによっては煮詰まりすぎていたり薄すぎたりする。
信頼できる品質の牛乳を使い丁寧に作れば、実際インドよりもおいしく作ることができるだろう。
一旦チャイの構成要素を分解して考えてみると、原料は水・紅茶・牛乳・砂糖・香辛料(文化や歴史などの情報もある種のフレイバー)となる。
紅茶と牛乳以外の要素に関しては以下のような考え方で決めた。
水について。牛乳のみで作るチャイもあるが、茶葉や生姜の成分をあらかじめしっかり煮出すことでボディのしっかりしたチャイにすることができる。紅茶のタンニンと牛乳の中のカゼインが結びつき、成分を抽出することができないため、水だけで煮出すのが基本だ。水はかなり重要なファクターで、実際軟水と硬水で比べてみると味はかなり違う。硬度の高いミネラルウォーターでチャイを作ってみたことがあるが、泡の消えにくいもこもこしたチャイができた。硬水は一般的に紅茶の色を濃くし、スパイスの効いたチャイやミルクティーのような濃厚な紅茶に向いており、紅茶が持つボディ感や深みを強調することができる。ただ、渋みが強まったりしてやや飲みにくい仕上がりになることが多い。今回は牛乳を主役にしたいので水は軟水(水道水)を使用することにした。
砂糖について。砂糖の選択は地味に重要で色々な選択肢があるが、それよりも引くくらい多めに砂糖を入れることのほうが重要。普段はホットチャイにはきび砂糖、アイスチャイにはグラニュー糖と使い分け、家で飲む時は黒砂糖を使用したりしているが、今回は牛乳の味を純粋にみるため味を邪魔しないグラニュー糖で統一することにした。
香辛料について。スパイスの組み合わせはいくらでもアレンジすることができいくらでも遊べるのだが、何よりも生姜が大事。今回はスタンダードに叩き潰した生姜とカシア・クローブ・カルダモン・ブラックペッパーをベースにすることにした。生姜はすりおろしやみじんぎりではなく包丁やマサラ潰しで叩き潰すことが重要で、この状態にすることでもっとも成分が抽出される。しっかりした土台をつくるために、ダシをとるようなイメージでまず生姜とスパイスを長時間煮出す。
あくまで牛乳を中心に考えつつ、順番にそれぞれの性質や味を検討し、相性を確かめてみる実験をしてみる。変数が多すぎると混乱してくるので今回は紅茶と牛乳の組み合わせのみに集中し、牛乳を活かすチャイを作ってみよう。
いざ、実験だ
まず紅茶と牛乳の好相性となる組み合わせを探り、それから最適な調理法を探っていく。シャープ社員さんを巻き込んで、ひたすら紅茶と牛乳を飲み、その感想を記録していった。
1.紅茶の茶葉を飲み比べる
紅茶の茶葉はアンビカで買える一般的なアッサムCTC茶葉に加えて、ミルクティーにおすすめの茶葉6種類を比較してみた。それぞれの茶葉を観察し、まずはストレートで飲んで感想を出し合った。
2.牛乳を飲み比べる
牛乳は明治おいしい低脂肪乳・明治おいしい牛乳・木次パスチャライズ牛乳(低温殺菌牛乳)・八丈島ジャージー牛乳の4種類を用意した。それぞれ味わいも作り方も違う牛乳である。スペックについてもあとで詳述する。
3.紅茶と牛乳を混ぜ合わせて相性をさぐる
紅茶と牛乳の組み合わせを全パターン飲んでみた。6種類の茶葉と4種類の牛乳の組み合わせは24種類。量に関してはそこまで厳密に実施できなかったが、常温で混ぜ合わせながら飲んで感想出しを行い、それぞれの牛乳に対して合う茶葉はどれかというのを決めた。
4.ホットクックで誰にでも作れるチャイのレシピ検討
チャイのレシピをホットクックに落とし込んでいく。
1.紅茶の茶葉を飲み比べる
まずはミルクティー向きの6種類の茶葉を用意して並べてみた。画用紙に貼ってそれぞれ番号を振っていく。❶以外はすべてルピシアで購入。以降、この番号順に実験を進めていく。
それぞれ粒のまま観察してみると少しずつ大きさや配合が異なることがわかる。そのまま食べると香りの持続時間や味は少しずつ違うが細かなところは正直よくわからない。
まずはストレートティー飲み比べ。CTCはあまりストレートで飲むようなものではないのだが、飲んでみれば意外と発見があった。3gの茶葉に100度のお湯を150ccそそぎ3分待つ。実際のチャイはもっと長く煮出し量も多いのだが、茶葉自体の印象は概ね同じだろう。
同じアッサムばかり集まっているので本当に違いがわかるのかは疑問である。
❶Ambika CTC アッサム
普段よく使っているアンビカでチャイ用に売っている茶葉。実はアンビカにはスモールとビッグの茶葉があり、スモールの方が「CTCアッサム ビッグ」よりも茶葉の粒が小さくて断面積が多く、また細かい粉茶も多く含まれているらしい。
❷セイロン CTC
こちらもコロコロしており粒が小さい。スリランカもまた紅茶が有名なのだがチャイはあまり飲まれておらず、粉ミルクを溶かしたキリテーというミルクティーが多い。
❸ハプジャンパルバット
こちらもミルクティー向きで、"熟れた果実感"という打ち出し方をされている。
❹テ・オ・レ
独自のブレンドで作られており、ミルクティー好きが絶賛するという。つぶつぶのCTC茶葉ではない。
❺アッサム・カルカッタオークション
アッサム紅茶のブレンド。コクと甘みが強いので、ロイヤルミルクティーに最適。 CTC茶葉だけではなくゴールデンチップス(お茶の新芽)を含んでいる。
❻アッサム CTC
似たような紅茶6種類だったので飲み比べはなかなか難しかったが、実際に飲んでみるとそれぞれの茶葉が少しずつ違うということはわかった。基本的にどれもミルクティーには合いそうな味わいではあるが、いわゆるチャイとミルクティーは違うものだ。
2.牛乳を飲み比べる
4種類の牛乳を用意してみた。こちらも順番に飲んでいく。
①明治おいしい牛乳
一つ目は全国的に入手しやすい「おいしい牛乳」をチョイス。一般的には少し高級な牛乳に入るかもしれない。超高温殺菌なので賞味期限は長め。
②木次パスチャライズ牛乳
リッター400円くらいするので、スーパーで買える中ではかなり高い部類にあたる島根県産の牛乳。
パスチャライズはフランス人細菌学者ルイ・パスツールの考案した、生乳をなるべく変化させないための殺菌方法。65℃30分間殺菌なのでタンパク質の熱変性が少ないとされている。賞費期限は4日程度と短い。脂肪球を均一化させるためのホモジナイズ処理がされているのでクリームの分離はない。
③ゆーゆー牧場 八丈島ジャージー牛乳
武蔵野デーリーさんのご協力で入手した牛乳。ノンホモなのでクリーム分が分離している。65℃30分間殺菌でジャージー種のため乳脂肪分が高く、放牧で育てられた良質な牛乳だ。
④明治 おいしい低脂肪乳
低脂肪乳は普段飲まないのだが、要は牛乳に脱脂粉乳を加えて作られた加工乳で、乳製品以外は入っていないが牛乳とは別のもの。「低脂肪牛乳」は生乳の乳脂肪を減らしたもので「加工乳」とは規格が異なる。
4種類の牛乳を試しに飲んでみたが、これだけでも全てが違う牛乳だということがわかった。
3.紅茶と牛乳を混ぜ合わせて相性をさぐる
紅茶と牛乳をそれぞれ混ぜながら飲んでみて、それぞれの牛乳に最も合う紅茶を探していく。投票などではなく話し合って決めた。ブレンド比率や温度などはあまり正確ではないが、参加者三人とも感想は概ね一致したので、ある程度の再現性はあると思われる。
いままでに試した紅茶6種類と牛乳4種類を順番に組み合わせて飲み、それぞれの牛乳に対してもっとも合うと思われる紅茶を決める。
牛乳4種類
紅茶6種類
①明治おいしい牛乳に合う紅茶
明治おいしい牛乳に合う紅茶は1位が❸ハプジャンパルバット、2位が❻アッサム CTCとなった。
❸ハプジャンパルバットは個性が強いお茶だが、牛乳がシンプルなので相性がよく、混ぜ合わせた時のおいしさが群を抜いて感じられた。
❻アッサム CTCはおとなしいがバランスが良く、チャイを想起させる香り。
②と③の牛乳を飲んでしまうとおいしい牛乳はおいしいのだが、個性は少し弱めに感じられる。その分クセのない紅茶とは合わないようだ。
②木次パスチャライズ牛乳に合う紅茶
木次パスチャライズ牛乳に合う紅茶は❻アッサム CTCが一位となった。香ばしさがあってボディがしっかりしている分、チャイの土台としては一番優れている。邪魔する味があまりなくスパイスを入れても合いそうだし、渋さと苦味がありバランスが取れている。
そこから大きく引き離して2位が❶Ambika CTC アッサムとなった。香りと味の系統は似ているが強さと香ばしさが違うため少し牛乳に負けそうになる。そのほかの牛乳は相乗効果という意味では微妙だった。
③ゆーゆー牧場 八丈島ジャージーに合う紅茶
迷ったが最終的に❶Ambika CTC アッサムと❻アッサム CTCで飲み比べた結果、③八丈島ジャージーに一番合うのは❶Ambika CTC アッサムと判定した。味がしっかりした牛乳なので紅茶の個性が強すぎると喧嘩してしまい、牛乳を引き立てるくらいのプレーンな紅茶のほうがよいのかもしれない。
❹テ・オ・レはチャイ向きではないがおいしいミルクティーとしては完成しており、特別賞をあげたくなった。
④低脂肪牛乳に合う紅茶
低脂肪乳と紅茶の組み合わせも一通り試したが、牛乳と紅茶で相乗効果のある組み合わせは見出せなかった。
結論:それぞれの牛乳に対するベストな紅茶の組み合わせは?
ここまでひたすら飲み続けた結果、いい牛乳を使えばどの紅茶と組み合わせてもおいしいわけではない、ということがわかった。単体で美味しい牛乳だからといってどんな茶葉でも合うわけではない。
最終的には、「牛乳同士の違いが引き立ち、チャイとして成立する茶葉」という観点から、すべての組み合わせで2位以内に入った❻アッサム CTCを推したい。クセがなくスタンダードだがその分ボールドな力強い香りがあり、チャイにするには最適な茶葉だと判断した。
4.ホットクックで誰にでも作れるチャイのレシピ検討
役者は揃った。
スパイスを変えたら色々と遊べるのだが、今回のメインテーマは牛乳なので固定で考える。チャイの屋台を数ヶ月やった経験上、牛乳を引き立てるおいしいチャイに必要なポイントはこんな感じだ。
牛乳だけで作る方法もあるのだが、水でスパイスと茶葉を煮出したほうがボディがしっかりする。
ホットクックは現代の魔法の鍋だ。従来の料理は作る人によって仕上がりが変わり、属人的な面が強かった。レシピをどんなに細かく書いても言語化できない部分があり、最終的には感覚に頼らざるを得なかった。
だがホットクックの利点は、材料が同じで正確に計量できれば誰が調理しようと必ず同じ味が再現できるということにある。また、無水調理も可能になる。密閉性が高く加熱時の蒸発量が少ないため、香り成分と水分が食材にとどまりやすくなる。
あらかじめ搭載されているレシピがたくさんあるのだが、実はホットクックはマニュアル操作もできる。ボタンを押す手間はあるものの、材料のブレをのぞけば全く同じものができるという、ある種のプログラミングが可能だ。ホットクックヘビーユーザーの中には家のコンロを取り払ってホットクックを3台買い、全ての調理を完結させているツワモノもいるという。やり込み要素があるというか、それだけハマる人がいるというのもまあ納得ではある。
何度も試作を繰り返し、ようやくホットクックを使ったチャイが完成した。
経済学者のケインズは1930年に「100年後には生産性の向上により、人々の労働時間は週15時間程度になるだろう」と言っていた。そのときからそろそろ100年が経とうとしているが、実際には機械が発達しても人間のやることはむしろ増えている。
でも、ボタンを押したら次の操作をするまで人間はやることがない。人間ができるのは語り合うことと踊ることだけだ。ただのカフェインのとりすぎかもしれないが、チャイをつくっている間は話がやたら盛り上がった。ホットクックの画面に表示された、抽象的な焚き火を眺めながら。
この東京マサラ部監修チャイを10/6(日)のヘルシオ20周年イベントで提供します!当日はレシピも配布予定。
このたび、シャープのヘルシオ20周年イベントに東京マサラ部がお呼ばれすることとなった。イベントではこのnoteで導き出したホットクックでつくる最高のチャイをみなさんにご提供。おいしい牛乳・木次パスチャライズ牛乳・八丈島ジャージー牛乳の三種類の牛乳で作ったチャイを飲み比べることができます。
※ありがたいことに、10/6のカレーイベントは満席となりました。
その他のイベントはまだ空きがございますので、ぜひご予約くださいませ。
牛乳が違うとチャイの味がどう変わるのか、ホットクックで本当にチャイが作れるのか。実際に飲んで確かめてみてください。
イベントではインドオリッサ州のミルクシチュー、キラ・サントゥーラもご提供予定。日本米にもよく合います。
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