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2021年上半期ベストアルバム 10

毎年恒例の上半期ベスト。出勤時間が4月以降で変わったので取りこぼしてるアルバムもありそうなのだけども、ひとまずトップ10はこの10枚で間違いないだろうというものを選出。コロナ禍に作られた作品ばかりだし、その同時代性を少しは考慮しつつも、結局のところ”良いメロディ/良い歌”を少し変わったアレンジとか一貫した美学で聴かせる普遍的な作品たちを選びました。


10位 ヒトリエ『REAMP

3ピースバンドとなってから1作目。メンバーそれぞれがソングライティングを初めて担当したとは思えないほど重厚かつ堂々としたロックナンバーが寄り集まった濃密な41分。鍵盤から作った流麗なメロディアスさが光るゆーまお(Dr)制作曲、タイトなグルーヴで聴かせるイガラシ(Ba)制作曲、そして本作の中心となったヒリヒリとしたギターサウンドを担ったシノダ(Vo/Gt)制作曲と、それぞれの個性が尖り出して新たなバンド像として結実した。急逝したwowakaに代わってボーカルとなったシノダの歌声も初々しさの中に確かな狂気を孕み、楽曲の危うさを体現。初期衝動の再獲得を経た、可能性の塊だ。


9位 mekakushe『光みたいにすすみたい

"ヒロネちゃん"の名義でも活動していたピアノシンガーによる1stフルアルバム。静謐な空気感で幕を開けるが、1曲1曲進むごとに様々な表情を見せてくれる。打ち込みのビートを交えたダンサンブルなアプローチや、歌謡曲やボカロに近い領域までもをなだらかに行き来し、楽曲ごとを華麗に揺蕩っていくような歌声の求心力は特別。サブスク時代に即して再生回数を狙って作った曲もあるとのことだが、それでも消すことのできない誠実さと透明感が胸に迫る。管楽器の伸びやかなフレーズに身を委ねたくなる「もしものはなし」から慎ましい小曲「余映」で括られるラストには息を飲むはず。


8位 Homecomings『Moving Days

メジャー1stアルバム。結成9年、インディーズシーンでは既に安定を築いているように見えていたが、ここにきて新天地を選ぶところ常に変化を望む姿勢が現れているように思う。バンドを取り巻く状況そのままに”引っ越し"をテーマにした楽曲たちの風通しは抜群。元居た場所を懐かしみ、新しい生活に馴染んでいくまでの心の動きを捉えた温かなストーリーテーリングが優しい。ストリングスとホーンの本格的な導入、ソウルやR&Bを経由したビートなど新たなカードが多く切られているが全てプリセットされていたかのようにマッチしており、バンド本来の懐の深さと間口の広さを物語っている。


7位 Tempalay『ゴーストアルバム

メジャー1stアルバム。得体の知れないところから飛んでくる不協和音やどこかへ連れていかれそうな予測不可能な音像の中で、ひらひらと美しい旋律で舞い踊る、、このバランス感に磨きをかけた結果、どの曲もリード曲を張れるような耽美で歪なサイケアンセム揃いとなった。現代社会とも対峙しながら大いなる自然へと畏怖を送信する、、ともすれば宗教的なイメージすら纏いそうなところを、先鋭的なサウンドメイクで極上の幻惑ダンスミュージックに仕上げる職人技。「AKIRA」を始めとする引用も効果的で、ポップカルチャーを突き刺して出来た穴から覗き込んだアングルで世界を捉えられる。


6位 indigo la End『夜行秘密

7thアルバム。1stアルバム『夜に魔法をかけられて』以来に夜へと潜り込み、その閉じた世界と底知れぬ不可思議を探り当てるようなスリリングでクールな1作。数年前の「夏夜のマジック」がバイラルヒットを飛ばすなど、時代に左右されないウェルメイドなポップスを連発してきたからこその出来事もあったがその形式をなぞることはせず、実験性と普遍性の配合を追求。今作で際立つのはギターワークだろう。アコースティックな調べと、ここぞ!で唸りをあげる歪んだギターフレーズなどがアルバム全体の緩急を生んでいる。近年では珍しい60分に迫る収録時間も夜に浸るにはうってつけの長さだと思う。


5位 MONO NO AWARE『行列のできる方舟

4thアルバム。コミュニケーションを取り巻く不安や、“結局は分かり合えない“という悟りを織り込んだ玉置周啓(Vo/Gt)のリリックは言葉遊びの中にも真摯な観察眼が冴え渡っている。それでも重くなりすぎないのはバンドが培ってきたユーモラスな側面とそれを体現する軽やかなグルーヴや口ずさみたくなるコーラスの存在は大きい。誰かに縋りたくなる気持ちとどこまでいっても1人だという感覚は相反するものでなく、取り除くことのできない人間らしい雑味であると楽曲それぞれが教えてくれる。行列から目を背けたい僕らの、”連帯“や"共に"という言葉からはみ出てしまうマインドに届く音楽。



4位 ネクライトーキー『FREAK

3rdアルバム。おもちゃ箱をひっくり返したような、とか突拍子もない、とか表現されがちなバンド像を飛び越え、よりスケール感を増したロックサウンドを展開した。元より、鬱屈と怨念を煮詰めていた詞世界はコロナ禍を経て更にグツグツと滾り、家の中を舞台とした楽曲が多い中でも感情の暴動は遠慮がない。ただし、"それでもやるしかねえ"という方向にエネルギーが噴出されているから決して怒りに終止するアルバムでもない。ある意味では大人になった、ということだが丸くなったわけではない。尖りながら生き続けるからこそ吐き出すことができる、大人ゆえのブチギレもあったりするのだ。


3位 吉澤嘉代子『赤星青星

レーベル移籍を挟んで2年半ぶりの5thアルバム。多彩なメロディラインと浮遊感溢れる神秘的なアレンジは更に美しく、上品な風合いに仕上がっている。曲世界の登場人物が憑依して綴られた歌詞はこれまでの作品と同様だが、より感情そのものを丁寧に掘り下げた描写が光る。"その想いを伝えること"が作品の中心になったのは会いたい人に会えなかった2020年の日々が大きく反映されているのだろう。叶わぬ恋、世界が許さない恋、誰にも認められない恋を飛び越え、想いの力で空気を揺らす、次元を超えて声が届く物語。多様性という言葉では零れ落ちてしまう、個と個が寄り集まった短編集だ。



2位 For Tracy Hyde『Ethernity

4thアルバム。夢心地なシューゲイザーサウンドに胸を打つメロディを重ねた音楽性は研ぎ澄まされ、気の遠くなるような美しさをもたらしてくれる。鮮やかな青々しさで全てを染め上げた前作『New Young City』から一転、中盤ではグランジやハードロックの要素でざらついた音像が襲いかかるなど、どこか不安定なまま物語は閉じていく。これはアメリカを題材にした舞台設定の影響が大きいのだろう。不穏と高揚が次々に押し寄せる青春譚は光も影も一緒くた。ネトフリや海外ニュースで目にしていた社会の一端を、在住経験のある語り手の言葉で聴くことができる。世界が視えるドリームポップ。


1位 カネコアヤノ『よすが

現バンドメンバーとなって3作目のアルバム。歌うように生き、生きるように歌う。飾らない在り方で支持層を拡大し続けているシンガーだが、日々が一変した2020年においてもその物悲しさや静かな絶望すら掬い取って命を吹き込んだ。芯の太い歌声も健在だがどちらかと言えばメランコリーで儚げな表現が印象に残り、胸の奥へと沁み渡っていく。「あぁしんどかったな、、」とあの日々のことを彼女とともに追体験していく聴き心地。希望などないと思うまで落ちた日も、希望しかないと思い笑えた日もきっと『よすが』は寄り添ってくれる。いつか思い出として振り返れる日が来ること願いたくなる。


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