《え》エターナル・サンシャイン【50音で語る】
エターナル・サンシャイン
音楽から映画を知ること
数年前までスターウォーズとハリー・ポッター以外の洋画を一切観ない人生でした。洋画は字幕か吹替で観るしかなく、そこで発せられる言語をそのまま理解できないのが嫌、というのを洋画を拒む理由にしてきましたが実際のところは”洋画こそ最高でしょ“みたいなネットやら周囲やらの圧に反抗してた部分が大きかったんだと思います。
人の趣味嗜好ってそんな容易には変わらないし変えてたまるかと思ってる節があるので、人からオススメされてもそんなに響きはしないし、これまでの自分の人生の連続性みたいなのを無視されてオススメされても、、みたいに常に思っているのですが洋画に関しては2015年にそのラインを飛び越えられました。そう、やはりアジカンです。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONが2015年にリリースした『Wonder Future』というアルバムの中にひときわセンチメンタルな「Eternal Sunshine/永遠の陽光」という曲がありました。これをいたく気に入ったのですが、これはアジカンには珍しく名作映画をモチーフにした曲で、こんな素晴らしい曲を生み出した映画とは?!と興味を持ち観るに至ったわけです。
そんな「エターナル・サンシャイン」は2004年の映画で、ミシェル・ゴンドリー監督、チャーリー・カウフマン脚本、そしてジム・キャリーとケイト・ウィンスレットが主演を務める作品。記憶を消す手術が主流になった未来。恋人と過ごした記憶を消そうとする男が、無意識のうちに記憶の中で抵抗を始める、という物語ですね。
本当に久々の海外の作品でしたが、まず画の美しさに目を惹かれました。監督が元々ミュージックビデオ出身というのは後から知ったのですが納得のショットの数々。そして、切ないのだけどユーモアを忘れない話の運びや、映像の見せ方もインパクトが大きかったです。そしてやはり、大仕掛けを用意した構成の驚き。名作だと思いました。
物語の舞台であるモントークの景色は全く自分の日常の延長にはないのだけれどそんな場所でも普遍的なドラマは生まれると分かったし、言葉は直接受け取れずとも表情で何もかもが伝わってくる。確実に自分のこだわりを打ち壊してくれた映画になりました。“記憶”という個人的に好きな題材だったのも大きかったんだと思います。この作品以降、洋画もしっかり観るようになりました。
ジム・キャリーが本来はもっとコメディそのものみたいな人だと後から知ったし、脇役で出てたマーク・ラファロがまさかハルクだなんて初めて観た時は思いもよらずで後の色んな出会いのきっかけも詰まってました。この間観た「パストライブス/再会」にも映像が引用されてましたね。“記憶”、そして“恋心”のクラシック作品として納得。
で驚いたのはアジカンの「Eternal Sunshine」は実は映画をそのまま描いたような曲じゃないということでした。直接的な表現ではないにせよ、映画にあった切実さを見事に捉えて別離の哀しみを歌った曲だったのです。美しい映画から受け取った感情がゴッチのフィルターを通し新たな美しい世界を生む。なんと素晴らしき循環でしょう。
「Eternal Sunshine/永遠の陽光」と「エターナル・サンシャイン」は音楽から映画を知るという、とてもクロスカルチュアルな良い体験でした。この記事ではおまけとして、映画のタイトルを冠した名曲たちを10曲、載せて締めくくろうと思います。それぞれのアーティストのセンスによって見事に楽曲となった、素敵な曲たちです。
1.ASIAN KUNG-FU GENERATION「猿の惑星/Planet Of Apes」
『Wonder Future』にはもう1曲、映画モチーフがありそれがこの曲。エタシャンとは違い、ギャインギャインな暴れ曲で毒吐き系の歌詞がよく似合う。ゴッチはカンフー映画と、ジム・キャリーの映画と、SF映画をよく観てるイメージ。「サイエンスフィクション」という曲もありますし。
2.Base Ball Bear「PERFECT BLUE」
小出祐介はかなりのシネフィルですが意外と曲に持ち込まれたものは少なく。この曲はタイトルだけが今敏監督の「パーフェクト・ブルー」から引用しているようですね。内容は全く違いますし。映画のほうは後から観ましたが、あまりの怖さにアニメ表現の概念が大いに覆されました。
3.ナードマグネット「アフタースクール」
こちらもタイトルだけ引用。内田けんじ監督の名作コメディで、大人になって思い出す放課後みたいなモチーフは意外と近いかも。ナードは洋画や海外ドラマの引用が多くて、一時期は観る作品の参考にしてました。アルバムごと「13の理由」に捧げた『透明になったあなたへ』は強烈な傑作。
4.UNISON SQUARE GARDEN「恋する惑星」
意外と映画モチーフの曲が多いのがユニゾン。「きみはいい子」という曲もありますし、「夢が覚めたら(at that river)」は「ラ・ラ・ランド」が題材との説も。この曲はそこまで内容が呼応してはないけど、ウォン・カーウォイ監督の名作タイトルに呼ばれるようにキャッチーな1曲かと。
5.東京カランコロン「リトルミスサンシャイン」
彼ら最後のリード曲がままならぬ人生を讃えた映画のタイトルを引用していたのは印象深いです。でこぼこな道のり、どうにもならなさを抱えて、でも最後にめっちゃ踊るしかないっていうハッピーサッド。映画のエンドロールにもそのまま流せそうなくらい完璧に映画を解釈してると思う。
6.中村佳穂「永い言い訳」
こちらもそのままエンドロールに流して欲しいほどの逸品。西川美和監督の同名原作小説もあるのでそちらの引用の可能性もありますが。中村佳穂も西川美和も作風は切実なのだけど、当人のキャラクターはちょっと面白い感じなのが素敵です。浮世離れしながら現実を鋭く捉える作家性。
7.クリープハイプ 「ナイトオンザプラネット」
この曲を基にした松居大悟監督の映画「ちょっと思い出しただけ」はジム・ジャームッシュ「ナイト・オン・ザ・プラネット」の様式(同じ時間/違う場所)をオマージュした、同じ場所/違う時間を描く映画でした。映画と音楽が密接に関わり合ったケースで、聴く度に色んな景色が浮かびます。
8.マカロニえんぴつ「ブルーベリー・ナイツ」
映画のほうの題は厳密には「マイ・ブルーベリー・ナイツ」ですが、これでもかと映画の内容を反映した曲なので。マカえんらしい関係性を描きつつ、そこに映画を重ねる洒脱さが光ってます。こういう風に映画って観るよね、みたいな。てかウォン・カーウァイ監督は引用されがちですね!
9.Tempalay「そなちね」
映画のほうの題は「ソナチネ」。北野武監督の大傑作。Tempalayはジャパンカルチャーが引用元なことが多く、この曲も映画にあった退廃性と甘美さ、そして暴力性が見事に注入されてます。海辺のフェスで聴いた時はぶっトびました。向こうからたけしが銃をかまえてやってきそうでした。
10.くるり「奇跡」
これは厳密には趣旨違いで、是枝監督の同名映画への書き下ろし主題歌です。くるりは数々の映画主題歌を作ってますがどれも作品と良い距離感を取ってますね。この曲も、映画の要素を散りばめてないのに純度高く作品の芯を捉えてます。長すぎるほどのアウトロが醸す優しさに泣きます。
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