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2020年ベスト映画 10

2020年に観た映画でよかった作品を10本。そんなに映画館に行くことに強い思い入れを持っていなかったんですが4、5月に足を運べなくなり、7月まで新作が公開されない状況は非常に寂しかったのでやっぱり映画好きだなぁと思いました。若手監督の作品がどーんと増えた印象。年の瀬、良作多すぎ!

10位 ミセス・ノイズィ

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「騒音おばさん」というセンセーショナルな題材ながら、とても意外性のあるまとめ方をしていた。物事にまつわる双方向の視点、当人の裏側を慮れる想像力の必要。すぐに他人のイメージを決めつけがちな自分にも刺さりまくった。映像の見せ方とかは荒削りだがそれがむしろとてもリアルな質感で、日常のすぐ側にある出来事として理解することができた。騒音おばさんというSNS紀元前のネットミームを再定義し、現代に蔓延る厄介な野次馬群衆に向けた作品の芯とする。2020年に観る意味を強く感じる映画だった。


9位 泣く子はいねぇが

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秋田を舞台に、故郷から逃げ去った男の帰郷とそのイニシエーションを描く作品。仲野太賀が演じる主人公・たすくに漂う"どうしようもなさ"は目を覆いたくなるようなもの(それはどこかで自分の中に彼の面影を見ているからかもしれない、、、)であり、その部分をこれでもかと微細に描いていく。なまはげとは親と子の結びつきを強める儀式としての側面があると初めて知ったのだけど、それを踏まえると終盤の流れは食らうはず。ほとんど台詞のないシーンだがそれでも全部伝わってくる。視線が、声が、全てを伝えてくる。


8位 架空OL日記

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バカリズム脚本によるオフビートな日常コメディ。演技巧者たちが放つ淡々とした会話の応酬を食らいまくる時間。連続ドラマを劇場映画に、となれば多少はスケールアップしたり、大きめのエピソードを盛り込んだりするものだろうけど、それを一切やらなかったのが功を奏しまくり。一応、山場となるお話はあるものの、全く飛躍はせずナチュラルに、どこまでも平熱につづく日々をぽけぇっと観れる。なのに終わった後、突然この世界から切り離されたような気分がしてひどく切ない。逆説的に普通の愛しさを問う映画。


7位 ラストレター

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岩井俊二の本質である、おかしみと悲しみの調和で見せる、不可逆な時間についての物語。人っていつだってこういう小さな願いを持ちながら生きていく生き物だからこそ、終盤で松たか子が見せたハシャギっぷりや、福山雅治が流す涙は何より美しく、かけがえのないものなのだ。転がっていく物語の中、2つの時代に存在する森七菜の存在が常に胸を打ち続ける。最後に世界を包み込むように、神の視座からこの物語を見つめるように、エンドロールで歌唱も担当。3つの役割で一貫して、この世界を優しく駆動させていた。


6位 私をくいとめて

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脳内の相談役と一人で会話し、心情を言語として吐露していく。これ程までに感情描写にフォーカスされた映画も珍しいと思う。物語の筋をなぞるというよりみつ子という人物を描くために紡がれる時間。複雑に折り重なった感情の層を簡単に分かった気にさせないし、安易な欲動に流されない、大切な価値観とメッセージが刻まれた、ほっこりした雰囲気を纏いながらも中身は強い作品。現状の肯定と、その先にあるかもしれない幸せの存在をそっと示す。1人でどったんばったんするシーンを眩しく見せられる主演女優も見事。

※ポッドキャストで感想も喋ってます。



5位 佐々木、イン、マイマイン

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忘れがたくて面白かったアイツの存在を通して自分を見つけようともがく、という題材は多くあると思うけど、その見せ方の威力が破格。ラスト数分、それまでのあれこれが踊り狂うように集約されていく様、心揺さぶられた。変わっていく人たちと変われない自分と変わらず残る記憶、その交錯は自分ごととして響いてしまうし、過去への後悔と現在の葛藤を巡る場面は辛い顔で観るほかなかった。後半、河合優実が演じる人物の登場で物語が一段階上へと昇ったと思う。出会いでその人の世界を変えてしまう存在って、いる。


4位 君が世界のはじまり

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ブルーハーツが惹起する少年少女の衝動を「リンダ リンダ リンダ」とは違う形(脚本が同じく向井康介なのも興味深い)で爆発させた美しさがあった。あの頃、同級生たちが抱えていた想いは全然分からなかったし、今となっては知ることもできないけど、皆それぞれにグツグツとした葛藤や言い出せないしこりがあったかと思うと、なんてギリギリな世界だったんだろう、と。「それでも分かりたい」と思う言葉は光で、握る手は温かい。呼ぶ声は祈りで、誰か1人の世界なら変えていける。”My name is yours"の副題が眩しかった。


3位 タイトル、拒絶

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デリヘル嬢の待機室で繰り広げられる会話劇。人と人とが影響しあって生きねばならない社会の滑稽さ、そこに漂い続ける虚無感を主人公を演じる伊藤沙莉の視点を通して観察し続ける。殴り書きのようでいて物凄く緻密に運ばれる感情のうねり、生き辛さを抱えるしかない現代の闇、、とか理解した口調で説明しようとしても、“分かってたまるか”の塊をぶつけられてしまう。恒松祐里演じる人気No.1嬢マヒルの圧迫感ある笑顔の意味を知った時、各々の正しさとともに暴れ出す姿を見た時、この世界の巨大さに震えるのだ。


2位 mellow

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田中圭と、田中圭に恋する3人の女性の物語を軸にした群像劇。それぞれのパートは、涙が出るくらい面白いものだったり、涙が滲む程にグッとくるものだったりと三者三様だけど、どれもが「好き」という気持ちの先に生まれた場面なのだから、1つ1つが示唆に富む。花束を通じて想いが伝っていく様が鮮明に描かれていたのがとても良い。。誰かに手渡しすることで人と人とが有機的に繋がれるアイテムであり、その想いを美しく可視化してしまう魔法のようだ。ラスト2カットの流れを何度も思い返して、沁み入ってしまう。


1位 アルプススタンドのはしの方

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甲子園の1回戦、応援に駆り出された演劇部2人、帰宅部1人、元野球部1人の4人がタイトル通り、観客席の端っこで織り成すワンシチュエーションもの。野球をモチーフにしていながらグラウンドは一切映らない。それぞれが抱える想いが試合が進むにつれて露わになり、ティーン特有の冷淡や諦念を丸ごと吹き飛ばすように物語が熱を帯びていく。チャンスすら回ってこないなら、やっても意味ないなら、最初からやらない、なんて思っていた高校時代の僕にこそ突きつけてやりたい映画だ。今刺さっても遅すぎる?なんてことはない。あらゆる面で挫けそうになる時代だからこそこの映画が起こす風は誰しもにとって意味を持つはず。"負けた"と思ったことがあるならば、必ず登場人物の誰かに自分を重ね、いつしか自分の物語として受け取るだろう。


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