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2022年上半期ベスト映画 10

2022年の映画で良かった作品を10本選んでランキング化。今年もなかなか良い感じ。最近は、約束された成功作よりも博打を打ちたい気持ちも高まっているので下半期もそんな基準で映画を観たい。自ら予想の外へと行きたい。

10 PLAN75

早川千絵監督による長編映画デビュー作。75歳以上の高齢者に対して自らの生死の権利を保障する架空の制度を描く。体裁を整えてはあるけど要するに自殺を選択できる世界の是非を問う映画であり、これでもかと問いかけてくる作品でずっしりと残った。物語的な躍動感は終盤までほぼなくただスムーズにそのシステムが動いていく様を見せられており、とんでもない行いがお役所言葉で漂白されていく不穏さに冷や汗が出た。見覚えのある風景が急速にシステムに飲み込まれていくことの恐ろしさ。人の死になんて慣れるな。


9 シン・ウルトラマン

庵野秀明が手掛けるリブートシリーズの1本。正直、ウルトラマンを熱心に追い続けたわけでなく幼少期に嗜んだ程度なので距離感を図りにくい作品ではあったのだけど、それがゆえに面白い映画だな!と直感的に思えた作品。もしもっと思い入れ深かったら終盤の展開は楽しめなかったかも。ところどころ滑稽に見える”可笑しさ“もあるんだけど、劇中で「滑稽」と発せられた辺りの展開とかそういうタイプの興奮をくれるのか!と驚いた。ウルトラマンのあのヌッとした佇まい、時々笑っちゃうんだけど哀愁があって好きだ。



8 犬王

湯浅政明監督作品。室町時代に実在した能楽師をテーマにしたアニメーション映画。誰かの残したかった、でも残せなかった想いがいつか他の誰かの心を揺さぶるかもしれないという、時を超えるポップカルチャー讃歌で古川日出男の翻案、野木亜紀子の脚本がガッチリと噛み合った作劇だった。君の物語を止めるな、というメッセージを真っ直ぐに届けてくれた。史実にないなら作ってしまえ!とばかりに空想を爆発させた京都のロックフェスミュージカルは絶品。その瞬間にしかないこと、だとして無きものにさせぬ気迫。


7 わたし達はおとな

演劇界の俊英・加藤拓也による初監督作品。1組の男女の恋愛を通してヒリヒリした圧迫感と心をえぐる不快感を炙り出す、上半期屈指のダウナー映画だと思う。隠し撮りのようなアングルには意欲と工夫が満ち、これでもかと追い詰めるグロテスクな編集も冴え渡っていた。愚かな若さの衝突、寂しさを埋めることの代償、というところを落としどころにしたいのだけれどもやはり男の持つ途方もない加害性が胸に刺さる。生物学的にも、社会的にも、心を奪った瞬間に何もかも手にしたかのように思えてしまう傲慢さについて。




6 やがて海へと届く

中川龍太郎監督作品。いなくなった友人を巡る主人公の静かな旅と追憶を描いた1本。誰かの全てを思い知ることなんてできないけれど、それでも、それでも、と思いを馳せることの愛しさを募らせる映画だった。あの日の言葉の続きや、いつか見ようとしてた景色も、全てはどこかで繋がってきっとまた会えるはず。喪失の受容と再生、その先を描いていた。アニメーションの交え方も自然で良かった。浜辺美波の浮世離れ感は見事だったし、相反するようでよく似た主人公を岸井ゆきのが演じる完璧なキャスティングだった。


5 ベイビー・ブローカー

是枝裕和監督が韓国で制作した映画。行動目的がややはっきりしすぎており、少し自由度が低いように思えた序盤だったがあるキャラクターが物語に加わってから一気にドライブ感が増した。そして終盤のある台詞がこの映画で最も伝えたいとはっきりと分かり、危うく陳腐になりそうなあの場面が質量をもってちゃんと届いた。「万引き家族」の後にこの作品が出来たこと、僕は祈りのように思えた。ただこういう話で心揺さぶられること自体が何だか勝手な気もしてくる。自分の持ち場で、仕事で、何か出来はしないかと。


4 さがす

片山慎三監督の商業映画デビュー作。ある日突然消えた父親とそれを追う娘の背景に潜む大きな問題を描いた1本。実に根源的なテーマを至極シリアスに描き、分厚いやるせなさを突きつけてくる。そして真っ当にミステリ、サスペンスとして上質だし、同監督の「岬の兄妹」と同じく倫理の外にある“向き合わざるを得ないもの”への視点があり、いつだって誰もがここに肉薄し得るってことを分からねばならないと改めて思った。悲哀に全振りし大きな体躯を虚しさで満たした佐藤二郎が素晴らしい。人間の揺らぎがずっとある。



3 スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム

マーベル映画をこの並びにいれるかどうかを悩んでいるのだけどちょっとこればかりは入れざるを得なかった。お祭り感とか歴史の重みから伝わるエンターテイメント強度も勿論なのだけど、個人的には今回の話の中でピーター・パーカーが悪役を治療するというアプローチをしていくことにいたく感動した。敵、なのかもしれないけどでもそういう事情は戦わないというこの世界線のスパイダーマンの優しさを思ってじんとなる。アベンジャーズ、20年間のスパイダーマン、そのサーガの交差点にこんな慈愛がある美しさ。


2 神は見返りを求める

𠮷田恵輔監督作品。触れられたくない嫌な部分を突きつけ続ける彼の作品の中でも屈指の人間臭さ。有名YouTuberになりたいユリちゃん(岸井ゆきの)とそれを無償でサポートし続ける田母神さん(ムロツヨシ)の関係性が徐々に破綻していく様を描く。人生を賭けてまで「楽しい」を超え「承認」を求める価値観。役に立つことが好意に繋がるとか思っちゃう愚かな男性思考。理解できないと言えればいいのに身に覚えがあるから呻いてしまう。正しさだけでは怒りが募るし、求めれば虚しさが溢れる。それでも人間って可愛い、よ。


1 ちょっと思い出しただけ

松居大悟監督が10年来の付き合いでる池松壮亮とクリープハイプを迎えて作った恋愛映画。あの時こうでなければ、あの時もう少しそうだったら、世界がこんなことにならなければ。あれこれ想像したりしてしまう今この瞬間をちゃんと噛み締めたくなる映画だった。忘れたフリして、振り返って、その繰り返し。なのに?だから?今を肯定したくなる。劇中でフェアリーとして存在した尾崎世界観が放ったある台詞で涙を堪えきれなかった。場面における選曲、映画「ナイトオンザプラネット」のみに絞った引用も美しかった。



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