そこにないものを探す~男性ブランコ「嗚呼、けろけろ」/「マヂカルラブリーno寄席」
男性ブランコが国立科学博物館を会場にして繰り広げたコントライブ「嗚呼、けろけろ」を観た。2022年は水族館にて無観客でのオンラインライブを行っていたが今回は有観客での開催。しかも博物館の1カ所に観客を集めて行うのではなく、博物館の数カ所を観客と共に周遊しながら、観客をコントの設定の中に巻き込みながら行うというかなり独自の試みに挑んでいた。
コント数本から成る公演だが、物語はひと続きなのも特徴的だ。図鑑に載ってない生物・ニョロリーニの正体を学者先生とともに探っていくというストーリーで進んでいく。その過程において、会場の博物館は別世界を形作っていく。化石展示は"むかしうみ"になり、標本展示は様々な生物が眠る森になる。この豊かな空間変化を、観客と意識を共有しながら進んでいくのだ。
こうした未知なる鑑賞体験を模索する時間は、ニョロリーニの存在を探り当てようとする物語と共振している。思えば男性ブランコの笑い自体が、言い回しの妙や言葉を繋げた時の違和感を面白がる、平穏の中に見逃しかけた綻びを捕まえるものばかりだ。「嗚呼、けろけろ」がくれるそこにないものを探し続ける温かな時間は新鮮な気持ちで"笑い"と向き合わせてくれるのだ。
”そこにないものを探す"という笑いで言えば、1月1日の夜に配信された「マヂカルラブリーno寄席」のことも忘れてはならない。2021年の開催から今年で4度目。マヂカルラブリー、ダイヤモンド、ランジャタイ、ザ・ギース、ゴー☆ジャス、モダンタイムス、永野という昨年と同じ顔ぶれでお互いのネタを観ながらヤジを飛ばし続けるというタブーそのもののようなライブだ。
元々は無観客にならざるを得なかったライブの中、やや鬱屈した空気を打破するためにランジャタイのバスケ漫画のネタに好き勝手ヤジを入れたのをきっかけに全員のタガが外れ、全編に渡ってヤジを送り合うライブが出来上がった。そのノリを引き継ぎ、とっくに有観客開催できる状況ながら無観客を維持したままで、今なお同じことをずっと繰り返している。4年もである。
本来、ネタ中にあってはならないヤジが"あるべき"という状況が発見され、ランジャタイはむしろヤジをセットにして見方が定まるというガイド的な役割も果たすようになったこの寄席。詳細は言いようがないが、今年は初年に匹敵する素晴らしさだったということは伝えたい。そこにあるはずのない未知な笑いどころを強引に探し出す、不毛なエネルギーの衝突を目撃できる。
世の中にはM-1グランプリが"お笑い"の全てだと思っている人がいるし、それに不満を噴出させている人も多いが、“笑い”とは本来こうした未知なる場所に芽生えるものだと思う。そしてそれはどこかに埋まっているわけでなく、我々が個人の意思でアクセスすることだってできる。面白いものの振れ幅はかつてなく広がってる時代において、競技漫才だけが全てと思うことほど勿体ないものはない。まだ、誰にも見つかっていないものを不安がるのでなく、面白がれる感性が人には備わっているのだと思う。この年始め、その基本姿勢を再確認できる2公演だった。
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