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人間の生き方、ものの考え方 学生たちへの特別講義 ~読書記録487~

人間の生き方、ものの考え方 学生たちへの特別講義  福田 恆存 (著)

福田恆存がその真髄を平易に語った未発表講演

悪、現実、歴史、西洋と日本……現代日本人にとっての根本テーマをどう考えるか? 学生相手に正確な言葉遣いで平易に語り尽くす。
言葉は時代の価値観に左右され、人と人が真に分かり合うことはない。人間は孤独だ。だが、絶望から出発しなければならないのだ――。常に疑問を持ち思索を続けることを説いた思想家が、悪、歴史と現実、西洋と日本……現代に至る問題を、平易に論じ、混沌とした先行きを照らす。学生への特別講義四篇を完全再現。

解説は、次男の福田逸(はやる)氏。


私が、福田先生を知ったのは、手に入れたヘミングウェイの「老人と海」の訳本が福田先生だったからだ。

大好きな越前先生の新訳が刊行されたばかりでもあり。読み比べようと思った時に、どんな方なのか調べてみたのだ。
福田有恒先生は、シェイクスピアの翻訳で有名な方である。
でもって、戦前生まれの保守だ。

村岡花子先生にも言えるのだが、昔の翻訳者は、語学が出来るだけではなく、しっかりとした芯を持っていた気がする。だから、現代人に意訳だの言われる面もあるのだろうが。今の方が外国語を簡単に学べる、翻訳ソフトも充実しているし、と思う。

言葉というものに対する鋭敏な知性、心を持たれていた方なのだなと感じた。

解説は息子さんがされていた。
息子さんは、安倍晋三を総理大臣にする会の中心人物であったようだ。


福田先生の話に共感するところが多かった。日本は明治維新後に、欧米諸国に追いつけ!で無理な事をし過ぎたのだと思う。


今日の思想の混乱のもとは、いうまでもなく明治時代に西洋の思想を受け入れて、その結果として生じたものなのです。

大体道具や物を自分から離れた死物として扱うのは、日本人本来の生き方ではないと思います。明治以前の日本人はそういう扱い方をしていなかったのです。

虫と人間との間に違いがあるではないか、人間は殺してはいけないけれども、虫を殺すことは許されるのだ。そんなことまでエゴイズムだと言っていたら、生きることが出来なくなると言います。だがこれは西洋的な考え方で、東洋、あるいは仏教の考え方から言うと、人間も虫も生物という意味でやっぱり同じになるのです。
人間の生命が蟻の生命よりも尊いという根拠はないわけで、人間の生命の方が尊いというのは一つの仮説にすぎません。この仮説を抜きにしては「侵略主義は悪だ」という考えは出てまいりません。

一人の人間が生きていることは必ず誰かの犠牲の上に立っている。これは仏教などでも必ず取り扱う問題ですが、人間は生きることによって常に他の動物や生物を犠牲にしているわけです。だから究極においてエゴイズムの問題になるし、このエゴイズムというものを徹底的に否定する思想ー私はそれこそ本当の意味での宗教だと思いますがーしかも宗教の根本には人間存在そのものが悪であるという考えがあるのです。

私は自分より大きなもの、人間を超えたものの存在を信じようとすることは人間の本能ではないかと思います。

ただ僕たちは生きていたいのでしょう。何かのために生きているのではなくて生きていたいのでしょう。人間は自然の一部であって、そして自然的な調和を欲しているわけです。私たちはそれを幸福と言うように名づけるわけです。例えば今非常に生き甲斐を感じるという、その生き甲斐を幸福と名付けるのです。

戦前は、やれないのはお前が悪いからだ、お前の力がないからだというのが基本的な考え方だった。ところが、戦後は、やれない原因はどこにあるのか問いかけ、例えば政治が悪いとか、社会制度が悪いとか、すべてその理由を自分以外のところに沢山用意するようになった。
(本書より抜粋)

福田先生の深い考えを知る、素晴らしい書であった。


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