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銀河の片隅にて

「科学に触れず現代を生きるのは、まるで豊穣な海に面した港町を旅して、魚を食べずに帰るようなものである。科学はしかし秘密の花園である。方程式と専門用語の壁に囲まれて、通りすがりには容易に魅力を明かさない。花園の壁に覗き窓をつけることは、それゆえわれわれ科学者の責務であろう。」

物理学者である全卓樹さんの著書である、『銀河の片隅で科学夜話』の書き出しである。美しい装丁とタイトルの響きに魅せられて手に取ったこの本は、科学に関する多岐にわたる事象を取り上げてそれらについて著者が語る短編集である。一見寄り付きがたい「科学」が、わかりやすい文章と親しみやすい語り口で書かれていて、するすると引き込まれてしまった。もちろんすべてノンフィクションなのだが、自分の全く知らない世界の話であったり話のスケールが想像できないほど大きかったりする。これはエッセイではなく物語なのではないかと思うほどであった。  

著者は「朝の通勤電車で、昼休みのひとときに、ゆうべの徒然の時間に」と好きな時間に好きなように読んでほしいと書いているが、やはりこれは夜に読むべきだ。タイトルが「夜話」であるということもあるし、この本の世界観を十分に楽しめるのは1日の活動を終えて心が落ち着いた時間であると思うからだ。全部で22ある話を1日に1編ずつ大切に大切に読み進めて、とうとう読み終えた。  

ここからはこの本の内容の一部について触れていこうと思う。本書の22の話は大きく天空編/原子編/数理社会編/倫理編/生命編の5つに分かれている。  

トロッコ問題の射程

トロッコ問題とは、次のような有名な問題である。
「トロッコが暴走しており、このまま進めば5人の作業員が轢き殺されてしまう。もし路線を切り替えれば5人は助かるが、代わりに別の路線にいた1人が轢き殺されてしまう。このとき路線を切り替えるべきか?」  

これは単なる知的クイズではない。もし線路の先にいるのが子供だったら?お年寄りだったら?犯罪者だったら?切り替えレバーのところにいるのがAIロボットだったとしてどのように行動するようプログラムするのが正しいのか?
地球規模の調査によって得られた4000万の回答を分析すると、人間に共通する倫理観と、地域ごとに大きく異なる倫理観が明らかになった。  

海辺の永遠

ダイヤモンドが象徴するもののひとつに、「永遠」がある。しかし実際はその輝きは決して永遠に続くものではなく、いつかは灰として散っていくこととなる。
では絶えず繰り返されるもの、昼と夜の交代や潮の満ち引きの繰り返しはどうだろうか。こういったものには、永遠が見出されるのではないか?  

しかしこれらも決して不変ではないのだ。実は太陽の回りや月の満ち欠け、そして1日の長ささえも、何億年というスケールで見ると少しずつ変化しているのだという。  

アリたちの晴朗な世界

人間は自分たちが生物界の長であると自任している。地上の動物のバイオマス(生物量)の30%あまりを占めているし、食物連鎖の頂点に立っている。そして農業や牧畜を行い王国を、共和国を、大帝国を築く生物は人間だけだからだ。  

本当にそうだろうか?  

実はバイオマス が人間に匹敵し、農業や牧畜を行い王国を、共和国を、大帝国を築く生物がいるというのだ。そんな生物の、社会的な知性について。  

おわりに

この本の中には無限に広がる科学の世界と、美しい言葉たちが読者との出会いを待ち望んでいる。まだ見ぬ世界の面白さに触れたい人、綺麗な言葉で書かれた文章を読みたい人、そして何より毎日の夜を少しだけ特別なものにしたい、そんな人にぜひ手に取ってほしい。きっと素敵な夜になるはずだ。  

────真夜中の科学講座のはじまり、はじまり。

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この本、一編ごとのタイトルもすごくオシャレでそこも好きです

#読書感想文 #本の感想 #銀河の片隅で科学夜話 #私に3分ください   

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