こまつ座_マンザナ_わが町_舞台写真5椅子置き5人

再び世界が排他的であることの愉悦に酔う迷宮にはまりつつある現代に、この作品がもたらす意味は果てしなく大きい…★劇評★【舞台=マンザナ、わが町(2018)】

 私にはこの5人の女性たちが、美しいハーモニーを奏でるに至る合唱団のように見えてならない。同じ日系米国人ではあるものの、出自や職業や思惑の違いから時にはぶつかり、ときには溶け合い、そして最後にはそれらのすべてを包み込んで、美しい調和へと導かれていく様からはそう思わずにはいられないからだ。太平洋戦争中の日系人の強制収容の問題を描いた作品は数多くあるが、井上ひさしが生み出したこの舞台「マンザナ、わが町」は、収容被害者の苦労というよくある観点からだけではなく、所内で上演する啓発的な演劇の成立の過程における女優たちの心の動きによって描いていくという斬新な手法がとられており、そのことがかえって米国の欺瞞をあぶり出し、ひいては日本という国の矛盾までもさらけ出す。女優たちの人生は十分「闘い」だし、その絡まり合いは十分に「歴史」である。米国がこの強制収容を謝罪した1988年から30年の時を経て、再び世界が排他的であることの愉悦に酔う迷宮にはまりつつある現代に、この作品がもたらす意味は果てしなく大きい。演出は鵜山仁。(舞台写真撮影・谷古宇正彦)
 舞台「マンザナ、わが町」は9月7~15日に東京・新宿の紀伊國屋ホールで上演される。その後、9月18日から来年2019年1月31日にかけて、倉敷、呉、岡山、倉敷、松江、出雲、米子、鳥取、広島、福山、岡山、周南、柳井、和歌山、姫路、阪南、紀の川、貝塚、京都、大和郡山、彦根、神戸、相模原、横浜、知多、岐阜、伊勢、津、名古屋、江南、稲沢、岡崎、豊橋、幸田、魚津、高岡、富山、金沢、野々市、七尾、砺波、伊那、松本、藤沢、川崎、平塚、茅ケ崎、鎌倉の各所(所在都府県と公演日、劇場は省略します)で巡演される。

★舞台「マンザナ、わが町」公演情報
http://www.komatsuza.co.jp/program/

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