静謐さの中に人間の温かみを感じさせる忘れがたい逸品。再生に向けた力強さも感じる…★劇評★【舞台=月の獣(2019)】
互いに迫害を受け逃避行を余儀なくされた果てに米国で結ばれた2人。こう書くとずいぶんと美しい話のように聞こえるが、決してそんなきれいごとで済む話ではない。失くしてしまった家族をめぐるおぞましい過去、心に受けた傷やトラウマの深刻さ、信じられる数少ないものにしか頼れない自分勝手な狭小さ、そして普通の夫婦以上に難しい絆を作るための歩み寄り方…。日本を代表する演出家の栗山民也が日本初演から4年ぶりに再び日本の観客に問う舞台「月の獣」は、そうした何もかもが激烈なかたちで浮かび上がって来るシリアスな会話劇だが、一方で時代や国境を超えた普遍的なきずなの物語でもあり、微妙なすれ違いや男女のキャラクターの違いが笑いさえ連れて来るほほえましい作品でもある。社会的な矛盾はここまで人という存在をずたずたにするのかと思うのと同時に人間というもののとてつもない可能性を感じさせ、再生に向けた力強さも感じる傑作戯曲だ。特に今回、テレビなどでの自然な演技で人気を拡大しつつある眞島秀和と岸井ゆきのを主役に抜擢して創り上げた新たな「月の獣」は静謐さの中に人間の温かみを感じさせる忘れがたい逸品に仕上がっていた。(写真は舞台「月の獣」とは関係ありません。イメージです)
舞台「月の獣」は、12月7日~23日に東京・新宿の紀伊國屋ホールで、12月25日に新潟市のりゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場で、12月28~29日に兵庫県西宮市の兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールで上演される。
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