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同じ地平で苦悩と希望を感じ取ろうとする観客たちのより深みを増した視線を引き出した藤田俊太郎演出。忘れ難い作品に成長…★劇評★【ミュージカル=手紙(2022)】

 罪は消えない。社会的には服役や補償などによって一見消えていくように見えるが、心の中ではかたちを変えながらも残り続ける。特に加害者と被害者の間ではいつまでも不安定なバランスで揺れ動き続ける。それは悲しいことではあるが、赦しや反省といったおぼろげなものとは無関係に、厳然とした現実だ。そしてそれは皮肉なことに、罪に直接向き合っている加害者よりも、加害者の家族や関係者により深刻なかたちをとって降り注ぐ。より不条理に、より不誠実に。2003年の発表の直後から大きな反響を呼んだ東野圭吾の小説「手紙」を、人間の感情を昂らせ揺り動かすミュージカルという表現手段を用いて舞台化したのは、大ヒットアニメ「アナと雪の女王」の日本語訳詞を担当し、劇団四季版の「アラジン」でも訳詞を担当したことで知られる元劇団四季の高橋知伽江とミュージカルの音楽監督や作詞作曲を手掛ける深沢桂子。そして、彼女たちが白羽の矢を立てた若き演出家、藤田俊太郎だ。2016年の初演と2017年の再演では、重いテーマを真っ正面から受け止めようとする若い観客たちの真摯な表情が際立っていたが、キャストをほぼ一新し、演出にもこの作品を上質なエンターテインメントとしても根付かせようとする要素も加味された2022年の再々演公演は、すべての感情を受け入れ、物語の登場人物たちと同じ地平で彼らの苦悩と希望を感じ取ろうとする観客たちのより深みを増した視線が感じられ、得難い上演となった。第一線のミュージカルを引っ張って来た村井良大と、藤田とはミュージカル「ジャージー・ボーイズ」でもタッグを組んできたspiの確かな演技の表現力と、第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した映画『ドライブ・マイ・カー』への出演で鮮烈な印象を世界に与えた三浦透子の芯のある演技と絶妙な歌声が相まって、忘れがたい作品に成長していた。(画像はミュージカル「手紙」とは関係ありません。単なるイメージです)

 ミュージカル「手紙」は2022年3月12~27日に東京・池袋の東京建物BrilliaHALLで上演された。公演はすべて終了しています。


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★ミュージカル「手紙」公式サイト=公演はすべて終了しています

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