戦争が与える傷を痛切に積み上げながら、2人の出会いとやり取りが何ものにも代えがたい瞬間のつらなりに見えるような優しい手触りが特徴的…★劇評★【舞台=泰山木の木の下で(2019)】
名優、北林谷栄の代表作のひとつで、劇団民藝が演じ継いできた日本演劇界の財産とも言える傑作戯曲「泰山木の木の下で」が2019年、16年ぶりに劇団民藝による新たな布陣で上演された。戦争や原爆による取り返しのつかない壮絶な痛みを受けた女性と刑事が宿命的な出会いを果たす中、垣間見えるおびただしい生と死のイメージは決して声高にその悲劇を糾弾することはないが、一見ほのぼのとした2人のやり取りの間から戦後日本人の声にならない叫びが漏れ聞こえてくるような多層的な作品に仕上がっていた。新たにハナばあさん役に配役された日色ともゑは世間から後ろ指を指されかねない行為を開き直るしたたかさは持ちながらも可愛らしくて憎めないハナ像を丁寧に造型。仕事に妥協のない優秀な刑事とはいえハナへの敬意を忘れない人間的な優しさを描き出した刑事役の塩田泰久とともに戦後の日本のひとつの象徴とも言える情景を創り出すことに成功していた。近年の劇団民藝作品を演出で支える丹野郁弓は、戦争がどれほどの傷を個々人に与えていくかを痛切に積み上げながら、2人の出会いとやり取りが何ものにも代えがたい瞬間のつらなりに見えるような優しい手触りが特徴的な演出をこの「泰山木の木の下で」に施しており、歳末の三越劇場を温かい雰囲気に包んでいた。(写真は舞台「泰山木の木の下で」とは関係ありません。イメージです)
舞台「泰山木の木の下で」は、12月6~18日に東京・日本橋の三越劇場で上演された。公演はすべて終了しています。
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