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#浦井健治
洋の東西を問わない人間の愚かさと、それでも感じざるを得ない愛おしさを物語の中に織り込んで、人の営みの深淵を見せつけてくれる…★劇評★【音楽劇=天保十二年のシェイクスピア(2024)】
下総での侠客同士の勢力争いをベースに小説、講談、浪曲、歌舞伎と展開した日本人が大好きな物語「天保水滸伝」をベースに、現代に名を遺す稀代の戯作者、井上ひさしが、欧米演劇のルーツのひとつであるシェイクスピア戯曲のせりふやストーリー、要素を遊び心たっぷりに取り込んだ舞台「天保十二年のシェイクスピア」が、若き俊英、藤田俊太郎の演出によって新しく生まれ変わってから4年。待望の再演で、あらためて私たちの胸に迫ったのは、そのあくなきサービス精神と知的探求心の奥深さ。戯曲、音楽、演出、役者
官能的で神秘的な何ものにもかえがたい濃密な時間。どこまでも研ぎ澄まされていく文学的純粋に陶酔にも似た感情に包まれる衝撃的な傑作…★劇評★【ミュージカル=ファンレター(2024)】
ネットで文章を書き込んだことがある人なら誰でも、自分の文章が読む人に思いもかけない影響を与えることがあることを知っているだろう。私ももう20年以上前に、ネット上で知り合ったある人の相談に乗っている時に「こんなふうに決断してみたら」と書いたら、その人が私のアドバイスに従って1週間後に人生最大の決断をしてハワイに旅立ってしまったことがある。「あなたの言葉が決め手でした」と去り際に言われてドキリとしたものだが、その人にとってそれは決して不幸せな決断ではなかったことを今は知っている
異常な出来事に人間が本来持っている可能性や優しさで向き合った人々の姿を通じて絆の本質をえぐり出したミュージカル。トップ俳優たちが「全員が主人公」の物語を演じ、演劇というものの新しい可能性さえたぐりよせた…★劇評★【ミュージカル=カム フロム アウェイ(2024)】
「9.11」。この数字の羅列、あるいは日付が特別な意味を持つようになったのは、あらためて説明するまでもなく米国東部時間2001年9月11日朝(日本時間11日夜)に起きた米中枢同時多発テロからである。主な標的となったニューヨークのワールド・トレード・センターやワシントンの国防総省ペンタゴンのほか、世界中の様々な場所での、それぞれの人の「9.11」があったはずだ。テロの手段として旅客機が使用されるという特殊性から、さらなる被害を防ぐため、テロの直後から領空が閉鎖された北米地区で
互いに共鳴し合う有機的なつながり。記憶をめぐって描き出される生命感にあふれた世界の響き…★劇評★【ミュージカル=COLOR(2022)】
劇中のすべてのせりふが音楽が、そしてすべての要素が、互いに共鳴し合って、有機的なつながりを創り上げている-。そんな不思議な感覚を味わわせてくれる新作ミュージカルが誕生した。ミュージカル「COLOR」は、草木染作家の坪倉優介さんが、芸術大学で学んでいたころに遭遇したオートバイの事故で記憶喪失に陥った経験から導き出された、記憶といのちの物語。記憶を失うとはどういうことなのか、記憶のない状態は「無」なのか、記憶を失った状態から何かを生み出せるのか。舞台上には坪倉さんが乗り越えた、
愛や恋、神への思いなどひとつひとつの感情を取り出して、もう一度磨き上げたようなビビッドな作品に…★劇評★【ミュージカル=ガイズ&ドールズ(2022)】
井上芳雄! 明日海りお! 浦井健治! 望海風斗! 田代万里生! これがダブルキャストではないプリンシパル俳優たちだなんて。なんという贅沢感か。しかも、今ハリウッドで最も注目されている演出家、マイケル・アーデンの直接の演出、エイマン・フォーリーの生き生きとした振付、デイン・ラフリーの舞台装置。しかしこうして最高のキャスト・スタッフでできあがった作品は、ミュージカル中のミュージカルと言われる「ガイズ&ドールズ」をガラスの陳列台に押し込めた近づきがたい高貴な美術品のようにするので
欲望と闇が広がる時代に純粋に生きようとした人々の悲しくも美しい物語。目立つ浦井健治の充実ぶり…★劇評★【ミュージカル=笑う男(熊谷彩春出演回)(2022)】
人間たちのただれた欲望と、それを取り巻く人々の心の闇が果てしなく広がる時代に、少しでも純粋に生きようとした人々の悲しくも美しい物語として2019年の日本初演から大きな評判を呼んだミュージカル「笑う男」が再演されている。大人たちに振り回されてきた主人公グウィンプレンを中止に、血のつながらない、純粋な心の絆で結びついた見世物小屋の仲間たちの物語は、あの「レ・ミゼラブル」や「ノートルダム・ド・パリ」を産み出したヴィクトル・ユゴーが階級闘争というテーゼも組み合わせて編み上げたことで
少年王の不器用さもさらけ出す人間的造形の浦井健治と、時代を超えた慈しみ表す木下晴香、朝夏まなとの熱演もあってますます深み増したミュージカルに…★劇評★【ミュージカル=王家の紋章(浦井健治・木下晴香・大貫勇輔・朝夏まなと・前山剛久・大隅勇太出演回)(2021)】
タイムスリップものを創作する際に重要なのは、実は時代設定が「変化の時代」であるかどうかだ。外からの訪問者がたとえ新しい技術や知識をもたらす「進化の神」のような存在であっても、変化を受け入れない権力者や社会であっては、単なる異物として排除されたり、施政者を惑わせるために送り込まれた間者(スパイ)と思われたりするのがオチだ。その点、1976年から連載が続く姉妹漫画家ユニット「細川智栄子あんど芙~みん」による漫画「王家の紋章」を原作にミュージカル化された「王家の紋章」では、現代の
大ヒットした映画の世界を壊すことなく作品への敬意を保ち、光り輝く舞台作品として昇華。さらに情緒の深い咲妃みゆのモリー像は秀逸…★劇評★【ミュージカル=GHOST(咲妃みゆ出演回)(2021)】
「GHOST」という物語が優れているのは、単なる生死を超えた愛の物語として謳い上げるだけではなく、「生」の世界に渦巻くおぞましい闇と、「死」の世界に広がる生への執着心を創造性豊かに描き、その上で、まるでSFのような設定と霊媒師を介したファンタジーを結びつけることによって、全員が目的の達成に向けて疾走するスピード感を獲得していることだ。大ヒットした映画の世界を壊すことなく作品への敬意を保ち、光り輝く舞台作品として昇華させたミュージカル「GHOST」は、成功を収めた2018年の
純粋な魂をより純度高く磨き上げるような壮大な作品に結実…★劇評★【ミュージカル=笑う男(衛藤美彩出演回)(2019)】
「レ・ミゼラブル」や「ノートルダム・ド・パリ」など傑作ミュージカルにつながった名作小説を数多く発表したヴィクトル・ユゴーの作品は、物語をきれいにまとめたり、説教的なお話を押し付けてきたりすることなく、人間の残酷さや醜さ、社会の冷徹さなどを包み隠さず盛り込み、それが登場人物らの持つ純粋な魂をより純度高く磨き上げるような壮大な作品に結実していることが多いが、連日大きな歓声を持って迎えられているミュージカル「笑う男」はユゴー作品の中でもとりわけその要素が大きく、徹底して繊細な表現
人生というものの不可思議さと幸福感に満ち満ち、よりその祝祭感を増した作品に成長していた…★劇評★【ミュージカル=ビッグ・フィッシュ(2019)】
親というものは自分の息子や娘になぜこうも本当かどうか分からない話をするのだろうか。自分を大きく見せるため? いやいや子どもの想像力をかきたてるため? いずれにしても、子どもたちがその真実を知った時、互いの真実はふつふつと音を立て始める。そんな世界中のどこにでもある普遍的な物語のようでいて、とびきり特別なミュージカル「ビッグ・フィッシュ」の日本人キャスト版が2017年の日本初演からわずか2年で再演公演を迎えている。20人以上出演していた初演から「12 chairs versi
どろどろした闇の切れ味と弾けるような祝祭感がない混ぜになった得も言えぬ魅力を放つ作品となってあの名作が再演を果たした…★劇評★【舞台/音楽劇=天保十二年のシェイクスピア(2020)】
シェイクスピア劇と言えば、演劇にあまりなじみのない人にとっては少し前までは「分かりにくいもの」の象徴だった。物語を理解するにはヨーロッパの歴史のある程度の知識が必要だったし、当時にしか通用しない表現も多い。文章は流麗だが、挿入句が多かったり、修飾が過剰だったり、観客の頭にすんなりと入ってこないこともありがち。俳優にとっても、独特の謳うような節回しは慣れないと大変で、そもそも声の出し方が違うという人もいる。逆にそんな多くの障壁があることは、シェイクスピアをありがたがる人たちに