休講のときに行くカラオケは盛り上がりに欠ける
あーなんて素敵な日だぁぁあ♪
隣の部屋で誰かがMrs. GREEN APPLEを歌っている。昼の14時、お茶の水。きっと大学生に違いない。まぁそれにしても音痴すぎる。リズム感も終わっている。同じ卓にいる人を思うと同情するレベル。
ウチらはいつものように陣取り、リモコンに手を取る。
誰が何を最初に歌うかでその日のカラオケはまるで戦術が変わってくる。
智子がadoを歌えばはりきりなナンバーが並ぶし、あいみょんを入れたらバラードが続くし、懐メロを入れたらモー娘。やらAKBやら、小室ファミリーから聖子ちゃんまで歌わないといけない。
令和の女子大生は大変なのだ。
世の中に曲が増えすぎた。みんなそこそこうまいし、モノマネだってできる。
一旦落ち着いてポテトかじりながらの恋バナが始まれば、その空間は最低の居心地だ。
だってあたしはまだ、恋が実ったことがないから。
英語が同じで前期まで同じバドミントンサークルだった木崎くん。ちょっと気になっていたのに、すぐに彼女ができたらしい。
フロアに出る。アルバイト店員として働く木崎くんがお尻を向けたまま、こちらを見ている。誰がこぼしたドリンクバーを拭いていた。
小さく会釈された。いま、木崎くん、あたしに挨拶した。覚えてるってこと?
トイレに行くのをすっかり忘れて部屋に戻る。
あ。そうだ。
もう一度フロアへ出る。
「今日、英語、休講だったんだよね」
あたしに木崎くんが聞いてきた。
「…そうですよ。だからほら、ここ来たんで」
よかったぁと言いながらモップを抱えて去っていく木崎くん。
休講でよかった。カラオケも悪くない。