setagawa
創作を纏めています。
曇りの日はなぜか時空の軸が 繋がる… あの方の住むあの都へと… 湖面より立ち登る霧。春の霞と相まって て、辺りには土の匂い、葦原の匂い、梅の香りが漂っている。無風。凪の水面に何か大きな魚が水面近くを泳ぐ。白鷺は歩みながら小魚をついばむ。 〜彼の地は もののふさきわう近江の海 ますらお育む伊吹山 彦根長浜竹生島 浅き夢見し酔ひもせず 都は大津、近江の大津 逢う津、逢う坂、黄泉比良坂 教えを何にしたためん…〜 時は近江大津の宮の遷都の少しばかり前。西暦6
〜大和路は王子斑鳩法隆寺 厩の宿に眠る旅人 叢雲の剣の鞘に込められた 戦のない世の道標 大陸の荒ぶ風の音いつの日か 和の民座す大和斑鳩〜 稲の若草に朝露の宿る香りに包まれ、私は目を覚ました。昨日出会った者は何者であろうか。宿を借りた礼を言わねばと思い、主人を探した。けれどここは、そもそも馬小屋ではなく、何かの道具置き場である。馬すらいない。 平野を駈け抜ける一陣の清らかな風。昨夜の出来事は幻であったのであろうか。まばらな人影と幾人かの話し声。「留まれよ」の声に
「対価はたったのそれっぽっちかい?」 私は彼と交渉を行う夢を見ていた。生爪一枚剥落とすという苦痛を、その一言で片付けてしまうつもりなのか。これが神を語る者の言葉なのか。 夕暮れの境内には、やはり近寄るべき所ではない事は百も承知であるが、夢の始まりがすでにこの場所であった。どう考えても人間にとっては不利な立場に置かれている事は明白。この上ない不安に苛まれることは請け合いである。 私は何を祈願したのかさえ覚えていない夢である。それより私は、神仏に対して一度たりとも願いをかけた
この地に入りてから、幾許か季節は巡った。民の生活は滞りなく、少しずつ人々の数は増えてきているように感じられた。 少しばかり、私には自由が与えられ私はひとり野辺を彷徨った。何も目的を持たずひたすら彷徨っていた。自ら深く呼吸をする。そしてひたすら彷徨い歩く。帰る家はある。私は必要とされて邨の警備に就いている。 近江の海は南岸から流れ出ていずれは大海に注がれていく… 私は川の流れの行き着く先を見届けたいという衝動に駆られた。そして何かに取り憑かれたようにひたすら川を下る舟に
それほど遠くない未来、日本ではAIネットワークによる超監視社会も行き着くところまで辿り着き、ついには人類の感情の起伏さえ把握することに成功するであろう。 サイバー警察は常に怒りの感情に目を光らせている。人々の感情がある臨界点に達した時、AIは個人のスマホに警報を鳴らす。 大規模な社会ヒステリー、集団デモなどは取り締まるべき対象である。逆にコンサート、ライブ活動、映画鑑賞などの娯楽は、人々の心に健全な歓喜と癒し、安らぎを与える目的であるのならば良しとされる。 戦争、大災
「お前がこの世でこの姿でいられるのは一度きりなのだぞ。」 突如として冬の空気に変わった街灯の下で、私はその声を聞いた気がした。 オリオン座の横に白く、もしくは紫色に光る雲が風に流され、オリオンの骨格に衣を着せようとしている。 風というエネルギーには言葉を伝える力がある。そういえばなんだか懐かしい感覚だ。 ふと「詩は空から降りて来る」と語る詩人のことを思い出した。 言葉は風から生まれる。 想いは水から伝わり、火から思想が伝えられていたという古 の教えに想いを馳せる。
現実の世界では秋も深まり少し、郷愁を帯びた風が路地裏を吹き抜けていた。気候的には快適と言えるのであろう。肉体的コンディションは絶好調といった快適な眠りの矢先であった。 私は予想通りにあの爆発のシーンに立ち会っていた。何の先入観もなくただ遥か彼方、前方から爆発音。目の前にタブレットが落下する。 もちろん私はそんなガラクタには興味はなかった。ただひたすら爆心地では何が起きているのかを探ることに集中した。 5km、10km先が限界であろうか。何かが動いている。銀髪の女である
なんの進捗もないまま季節は秋に向かっている。夢みがちな日々は続いている。時々夢の中で私は、森を彷徨っていることが多いことに気が付いた。 『見えている世界と思いの世界は違う。』 明らかなメッセージだ。思考の中にようやく残るようになった夢の中で、私は何者かと語らっている。土偶のような存在だ。浮遊する土偶。これは愉快だ。本来なら崇拝するところなのかも知れないが、私は彼と追いかけっこをしている。 無機的なザラついた質感の骨格。人工物なのか違うのか。私の興味は夢の中で、彼を形成
少し時間は経過したはずであるが、私はまだ夢の中のようである。再びあのシーンである。 銀色の髪のあちらの世界では男性と識別される存在は私を見つける。ダメだ。避けきれない。ならば先制攻撃しかない。私は彼らと同じ武器を手にしている。引き金を引くと銃器は作動した。けれど銀色の髪の標的は消えている。アラームが鳴り警告音。続けて衝撃が全身に走る。 負けである。再び目覚めた時は、またしても同じシチュエーションであった。引き金を引き、身を隠す。走る。身を隠す。相手より先に敵を見つけた方
2 夢から目覚めたらはずであった。何の夢を見ていたかは覚えていない。けれど目覚めたはずであるのに脳裏には映像が流れ続けている。目を閉じているのに夢が続いているのだ。 再びあの爆発の現場である。彼らの特殊部隊が劣勢であるのは、素人の私が見ても明らかであった。 彼らの装備が散乱している。私を侮辱した忌々しいタブレットも、少し側面が変形しているものの機能している。画面はもちろんロックされてはいるが、何らかのメッセージを受け取っているようである。 スカウターもある。簡単なゴ
1 夢の中で私は、爆発の衝撃で目の前に落ちてきたタブレットを使い、自らをスキャンした。救世主メンバーを探す彼の手持ちのスカウターは私を、「非対象、女性、排除せよ」と表示していた。私は男だ。なのになぜ「女性」と表示される?メンバーに相応しく無いはのは分かるが、排除せよだと?少なくとも私はこの世界の良心的な住民なはずである。 そもそもこの数名の部隊は何者なのだ。装備は電子銃らしきものとスカウターと通信機。排除される理由を知りたい。私は彼に詰め寄った。 「これはどういう意味か
無数に張り巡らされた堀に魚の群れがあった。一尺になるかならないかの立派なヘラブナである。釣り師達はこの魚を求めて止まない。水中に酸素が満たされていないのか、群れは水面に顔を出して盛んに呼吸をしている。 魚はエラで呼吸するのでは無かったのか?それなのになぜ、口で水面の空気を吸いに来る?それとも単に水面のエサを食べているだけなのか? Wikipediaなるものでその真理を探ることもできる時代ではあるが、そんな野暮なことをする時間はない。彼らは水面でエサを食べる振りをしながら
私は運河が好きだ。運河をどう定義するかは敢えて曖昧にするが、私の中の運河のイメージは、低い土地を流れる堤防に囲まれた川であり、水の色は黒であり、水量が豊富であるということが大前提にある。 私が釣り好きなのは、過去タイトルより読み取られてしまっているかも知れないが、運河の魅力はやはり魚の存在である。 深くゆったりと流れる黒い水底には、悠々と泳ぐ大魚の群れの気配がなくてはならない。 夜の川縁のオレンジ色の電灯が水面に映る。 ボラの群れであってはならない。ボラは釣れない魚
かつてこの国は、言霊に溢れていた。言霊とは言葉。いにしえの太古の時代。大和が国を治める遥か以前では、心の声ですら言霊として聴こえていた。 人間同士はもちろん、動物までも言霊を発しており、四つ足と呼ばれる、鹿や猪、猿、狐、狸などあらゆる種類の動物達は、人々と同じように言葉を話し野山を駆け回っていた。 鳥や魚においても、分かる者にはその言葉が聞こえていたという。生きとし生けるもの全てが言葉を話していたというのだ。 先人たちはそのことが当たり前すぎて、語り継ぐことすら忘れて
行き交う人々の好奇心を刺激する異国の香辛料の匂い。聴きなれない言葉や唄が聴こえる。何故かどこか懐かしい旋律。米の粉であろうか。蒸されている異国の食べ物に私の心は揺らいだ。そんな折に雑踏より私を呼び止める声があった。 「そちらのモノノフの方よ。こちらへ来られよ。強飯を摂られよ。」 白髪の老婆の勧めるがまま、私は飯を食べた。異国の言葉の食物であったが味は深みがありひとつ、ふたつと食は進んだ。 「そなたは変わっている。わしは人を見ればその者のかつての行いが見える巫女。今まで多く
雨…。曇り空。寒い…。街へ出ると雨は雪だったと気付いた。都会の道にはなぜこんなにも人が溢れているのか。知らない人ばかりが忙しそうにしている午後に、誰も立ち止まる人はいない。 半地下の喫茶店で珈琲を飲みながら、新聞記事に目を通す。待ち合わせの時間は過ぎているが、いつになっても彼女は現れない。またすっぽかされるのであろうか。煙草を吸いながらこれからの予定を立ててみる。1人でレコードショップを覗いて、そのまま書店か。 1時間経過。家の電話は留守電のまま。 もう終わりか…。こ