フラクタル 5
現実の世界では秋も深まり少し、郷愁を帯びた風が路地裏を吹き抜けていた。気候的には快適と言えるのであろう。肉体的コンディションは絶好調といった快適な眠りの矢先であった。
私は予想通りにあの爆発のシーンに立ち会っていた。何の先入観もなくただ遥か彼方、前方から爆発音。目の前にタブレットが落下する。
もちろん私はそんなガラクタには興味はなかった。ただひたすら爆心地では何が起きているのかを探ることに集中した。
5km、10km先が限界であろうか。何かが動いている。銀髪の女であるが、これは今回はターゲットではないはずだ。さらにその先。
私は爆心地目掛けて走った。2km、3km進んだであろうか。何よりも視界を確保する事に専念した。
稲妻と衝撃音。金属の焼ける匂い。
そこまでしか分からないのは、前回と何も変わりがない。今まで私は何をしてきたというのだ。この謎を解明するためにスカウトされたのか、自ら首を突っ込んだのかは分からないが、あまりにも不甲斐のない自分にもどかしさを感じていた。今回も答えを得られないのであろうか。
「諦めるな。まだ先へ行け。もう一度爆発はある!」
銀髪の女が叫んだ。おお、言葉を喋れるのか?しかも力強いが女性の声だ。
もう一度爆発するだと?近付いて大丈夫なのか。何が攻撃されている?何が攻撃している?
私は恐怖より好奇心が優先したのであろうか。瓦礫の散乱する広場の一角を、ゴーグルでも十分に追える距離まで近付くことに成功し、そこで身を隠した。
このゴーグルのスカウターで奴らの正体を暴いてやろうという意気込みで、私はひたすら息を殺し、倒れた鉄パイプ隙間から再びそれが現れるのを待った。
時空を引き裂き現れるという表現がふさわしいのであろうか?それとも元からそこに存在していたものを我々が初めて認知できたという事なのか。
それは突然と現れた。メカニカルな電子の閃光で型造られたドロイド。型造ると言っても型があるわけではなく幽体。
そのメカニカルな閃光は、私の目の前で形を変え、仕様を変えいく通りかのパターンを示し、暫くしてまた虚空の中へと消えていってしまった。
敵か味方なのか?目的は何なのか?何も分からないままであるが、閃光を放つメカニカルな幽体は私のゴーグルに記憶され仲間には共有されたはずだ。そもそも仲間ではなく私は捕虜なのかも知れないのであるが、格上げに見合った仕事をしたという自負はあった。
仲間と思われる銀色の髪の女の所に私は向かっていた。ゴーグルには『サキ→』と表記が出ている。やはり仲間で合っていたか。まさかもう撃たれる心配はあるまい。私はまずはサキおじさんへ挨拶をした。
「そのおじさんというのは辞めてくれないか。ゴーグルに表示がされる。」
「これは失礼した。この装置は思考を読み取るのか?少し厄介だな?」
私はゴーグルを外してサキおじさんと対峙した。
「だからそのおじさんというのは…」
「受信のみでも解析か…」
サキもゴーグルを外してくれた。
「あれをどうするのだ?君たちの組織は?」
「今回のような至近距離で捕捉できたのは恐らく初めて。取り敢えず私達は彼らの監視が任務。それ以上は分からない。」
安堵と共に私は深い眠りについていた。秋の夜長に私はこの夢の事をしばらく思い出せずにいた。心地良い達成感だけは夏のほのかな思い出のように記憶の片隅に残されており、精神的にはとても充実していたのであった。