見出し画像

嘘をつくべきだったのか

「これは選考とは関係なく、面接に来られたすべての方にお伺いしているんですけど…」

こういう前振りはたいてい、聞きにくいことを聞こうとしている時に出るものです。嫌な予感がするという人は私だけではないでしょう。

「はい」

「治療中のご病気ですとか、継続的に服用されているお薬とかはございますでしょうか」

「あ、抗うつ薬を飲んでます」

間髪を置かずに私は答えました。なるべく平然としていようと咄嗟に思ったからですが、先方は私の表情の変化を感じ取ったかもしれません。

こういう質問は非常に困ります。選考とは関係ないと言っていても、それが本当かどうかは応募者にはわかりません。不利になる可能性はあっても、有利になる可能性はないでしょう。もし私と同等のキャリアを有するライバルがいたら、心の病気が合否を分けることだって十分に考えられます。

数日後、エージェントを通じて選考結果の連絡が届きました。案の定、次のステップには進めませんでした。理由は「より条件に合致する候補者が他におられたため」で、その後に「詳細の確認をいたしましたが、詳細はお伝えいただけない企業様でした」と記されていました。

このような通知を受け取ることはよくありますが、やはり釈然としません。なぜ1次面接の段階で病気について聞いたのでしょうか。もし選考に関係ないのであれば面接に進んだ応募者全員に聞く必要はなく、内定後に入社手続きの段階で聞けば良いのです。ゆえに「選考とは関係ない」という言葉に説得力はありません。

では、私はあのとき嘘をつくべきだったのでしょうか。過去に心の病気を患った人間はミスマッチのリスクが高いから要らないのでしょうか。自分の不利になりそうなことを堂々と言う人間は、ビジネスの世界ではバカ正直すぎてやっていけないのでしょうか。

同年代の営業マンたちの顔が浮かびました。彼らなら何のためらいもなく「ありません」と答えるでしょう。そのほうが有利なのはわかりきったことです。

しかし、過去の自分を偽ることには抵抗があります。私はどこまでも理想主義者であり、そんな自分を受け入れてくれる会社を探すしかないのでしょう。

いいなと思ったら応援しよう!