病
胃が痛む。
横隔膜の少し下の辺り、誰かに細い棒でつつかれているような鋭い痛み。
最初にこの痛みに襲われたのは19歳の時。ささいな理由でアルバイトに行くのが嫌になって、出勤したりズル休みしたりを繰り返していた。
とうとう社員から私に対しての嫌悪感が言葉にせずとも感じ取れるようになってきて、生きづらさから目を背けていた頃に突然胃が痛み始めた。あまりの痛さに耐えられず椅子に座るも姿勢を保っていられない、諦めてベッドに横になっても痛い、寝返りをうっても、仰向けでも、うつ伏せでも痛みがついて回ってくる。
暑い時期でもなかったため食あたりとは考えにくいし、胃の痛み以外特に不調はない。今までに感じたことのない痛みだったため、両親に連れられ幼い頃からお世話になっている医師に診てもらうことになった。
たった十数分の待ち時間もその時は一時間くらいに感じた。意識が遠のいていきそうになった瞬間、私の名前が呼ばれる。
「久しぶりだね。」と言われながら胃の痛みについて詳しく診てもらう。
最近の食事、今までの生活で変わったことはないか聞かれる。
触診で痛みが出る部分を確認してもらい、その結果
「考えられるとしたらストレスだね。」
とさらっと告げられた。
その言葉を聞いた瞬間、自分ひとりの中で抑えていた感情が溢れ出そうになる。
自分の個人的な嫌悪や些細なことに対して嫌だと思う感情を周りに見せるわけにはいかない、隠しておけるのならこのままでいようと思っていた黒い部分がひとりじゃどうにも出来ないくらいに大きくなっていたことに今まで気付かなかったのだ。気付かないふりをしていたのだ。
この時にようやく自分の我慢するキャパシティにも限界があって、自分が自分を潰していることを知った。それが体の不調となって、痛みとして現れたのだ。
正直、痛みとして症状が出たことに少し安心する。ほんとに潰れる前に、悲鳴を上げてくれてよかったとさえ思っている自分がいた。
一応お薬出しておくから飲んで効かなかったらまた来てね、と7分位で帰される。
吐き気は無いが何を食べても胃が痛むのでゼリーで食事を済ます。薬が効いたおかげで数日後には痛みもなくなった。
今でも時々胃が悲鳴をあげることがある。そうなるまで自分を痛めつけていることに気付かないふりをするのは相変わらずで、そろそろ自分軸で生きていくことを大事にしないといけないなと思いながら、また自分を犠牲にして日々を過ごしている。
もはや治しようのない性格という病なのかも知れない。
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