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子ども食堂だいちのめぐみ #9

第九話:新たなる挑戦 – 地元のクラフトビール作り

第一部:子ども食堂の現実

陽一は「だいちのめぐみ」で働く中で、昼の部である子ども食堂の厳しい現状について、めぐみから多くを学んできました。めぐみは、物価高騰にも関わらず、食材の質を落とさず子どもたちに安心して食事を提供するため、毎晩居酒屋として営業し、収益を赤字補填に当てているということを彼に打ち明けました。

「最初はやはり、子ども食堂でお酒を出すことに反発もあったわ。でも、子どもたちに安心して食べてもらうためには、何かしらの手段が必要だった。だから、地元のお酒やクラフトビールを提供しているの。アルコールの売り上げが、昼間の赤字を補ってくれているのよ。」めぐみは、子どもたちのためならどんな批判も受け入れると力強く話しました。

陽一はその言葉に胸を打たれ、彼自身も「だいちのめぐみ」の一員として、自分ができることを見つけたいと思うようになりました。
そして、ある日、彼はめぐみと、常連客の佐藤、更には中川市長にも提案を持ちかけました。
陽一は自分でも驚くほど、行動的になっているのが分かった。

「実は、商店街に醸造所を作って、地元でこだわりのクラフトビールを作りたいと考えています。それを通じて、街を盛り上げたいんです。」陽一は夢を語り始めました。

第二部:構想と協力

佐藤は陽一の提案に興味を示し、「陽一さん、商店街でのクラフトビール作りは素晴らしいアイデアだ。若者たちにも、観光客にも、地元産のビールは必ず注目される。支援を惜しむつもりはないよ。」と熱心に賛同してくれました。

また、めぐみも、「新しいクラフトビールをここ『だいちのめぐみ』でも取り扱うことができるわね。私も楽しみだわ。」と、陽一の計画を温かく支持しました。

そして中川市長もこの計画に巻き込まれ、地元の発展の一環としてプロジェクトをバックアップすることを表明しました。「陽一さんがこの町にいてくれることを、心から嬉しく思っているよ。町おこしは私の信念でもあるから、陽一さんの計画を全力で応援したい。君を見ていると僕がこの上越に来て、米作りを始めた頃のことを思い出すよ。」
陽一は驚いた表情をして聞き返した。「え?中川市長が米作りを?」中川市長は笑みを浮かべながら「そうだよ。僕だって最初から上越市役所にいたわけじゃない。僕はまちおこしが好きでね。地域に入って、まず一人一人の声を聞くんだ。困っていることはみんな違う。そしてみんな好き勝手に言う。ボロクソにね。でもそれでいいんだ。町おこしはきれいごとだけじゃ上手くいかない。理想だけでもね。まあ、僕はやる気のある人、リーダーになる人を応援するよ。」
中川市長に肩を叩かれて驚く陽一。「え?僕がリーダー?」
「そうだよ、君らのような若い人たちがこれからのまちを引っ張っていくんだ。でも何も気負うことはない。みんながみんな目の前のやりたいことをやればいい。誰かさんのようにね。」
中川市長はめぐみを横目にネクタイを緩めながら笑顔で語った。

陽一は、彼らの協力に感謝しつつ、「僕も皆さんの期待に応えたいです。地元の材料を使った、ここだけの味を作りたいと思っています。」と誓いました。

第三部:商店街の空き家での作業

陽一は空き家となっている古い店舗を借り、醸造所の準備に取り掛かりました。めぐみは「だいちのめぐみ」での営業が終わると、手伝いに駆けつけてくれました。スタッフの大澤や沙織、桃子も手を貸してくれ、みんなで設備を整え、居心地の良い醸造所を作り上げるために一丸となりました。

「この店で、おいしいクラフトビールを作れるように頑張ります!」と、陽一は新しい場所に立って意気込みを語り、みんなで乾杯をしました。

日々の作業は大変でしたが、陽一は地元の人々の協力を得ながら、自分の夢を実現させていく喜びに満たされていました。地元の農家を訪れ、最高の原材料を探し、商店街の酒蔵にも足を運んで、ビール作りに関する知識を一つずつ吸収していきました。

第四部 クラフトビール完成 – みんなのバーの誕生

数ヶ月後、ついに陽一は自らの手で醸造したクラフトビールを完成させました。第一号のビールは、地元産の材料を使用し、香り豊かで飲み応えのある一杯となりました。彼はそのビールを「だいちのめぐみ」の夜の部でも提供し、地元の人々に披露しました。

「おいしい!これが陽一さんの作ったビールなのね。」と、めぐみは驚きと喜びの表情を浮かべていました。

「そうなんです、めぐみさん。このビールを、ここでみんなで楽しんでもらえるなんて、本当に嬉しいです。」陽一は胸を張り、皆に自分の成果を見せることができたことに達成感を覚えました。

商店街の人々も興味を持ち、陽一の醸造所「みんなのバー」には多くの地元の常連客が訪れるようになりました。そして、観光客もこの地元特産のクラフトビールを求めて足を運ぶようになり、醸造所と「だいちのめぐみ」はさらに注目される存在となっていきました。

第五部:地域の未来を見据えて

陽一の醸造所は、商店街の賑わいを取り戻す一助となり、地元の人々にとっても新たな憩いの場として愛される場所になりました。また、夜の部の売上がさらに増えたことで、「だいちのめぐみ」の子ども食堂としての活動もより充実させることができるようになり、めぐみもますます意欲的に子どもたちに栄養豊富な食事を提供することができました。

陽一は、彼の夢であった「みんなのバー」を通じて、この街の活気を取り戻すことができたと確信しました。そして、彼はめぐみや商店街の人々と共に、この街を次の世代にも引き継いでいけるような場所にするために努力し続ける決意を固めていました。

「だいちのめぐみ」での陽一の新たな挑戦は、彼自身の成長とともに街の成長をも促し、そしてそれは、めぐみや地元の人々の支えによって形を成していったのです。

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