
カフネ 読了
購入から10日感。満足の10日感。
ポルトガル語で「愛する人の髪にそっと指をとおすしぐさ」「頭をなでて眠りにつかせる」という意味です。
昨今の伏線に対する一意見
私は昨今の伏線回収への賛辞に対して、違和感を覚えることがままあります。それは何故かというと、作品の素晴らしさを語るのではなく、作者の技術が凄いという形容詞になっているからです。
無論物語には紡ぎ手がいて、素晴らしい作品には素晴らしい作家先生がいるのは承知しています。それでも伏線というものは表現技法の1つでしかなく、私は本来作品が褒められるべきだと思うのです。
週刊連載漫画の後付けが伏線と言われるのも面白い現象ですよね。でも週刊連載は週刊連載で苦しみがあると思うので、私は悪いことだと思いません。
話を戻して本作カフネは、その伏線の貼られ方が柔らかい。そして回収が優しい。表現が正しいかは分からないが、私はそのように感じた。
本作は、主人公薫子の最愛の弟である春彦が亡くなったことに端を発して物語がはじまる。
その春彦の死の真相は物語の最後の最後まで不明なままだ。その謎がひとつひとつ紐解かれていくうちに、様々な人間関係が形成され彩られていく。
家事は生きる上で欠かせない営み
私達日本人の多くは、衣食住のうちそのどれもが欠けた人生を歩む人は稀だと思う。いないとは言わない。
カフネでも、そうした困窮者は頻繁に描かれる。カフネとはこの作品中では会社名となっており、家事代行サービスを請け負う会社と、そこで働いたりボランティアをする人間たちのドラマが描かれる。
短絡的に『シングルだから』とか『貧乏だから』という理由だけで陥ることではない。育児と仕事に追われどうしても片付けを後回しにせざるを得ない状況。親の介護で自分のことは後回しにする人。真面目な人ほど他人の手を借りるのを渋る。自分がだらしないだけだからを自分を責める。そのうちに動けなくなって、家事が行えない精神状態に陥る。
そのように描かれていく。
確かに私の中のイメージでも、家事代行サービスというのは金持ちか生活困窮者が使うものと決めつけていた。しかし、作中でカフネを立ち上げた創業者常磐斗貴子の言葉で気付かされたことがある。
家事は待ったなしで生きていくうえに必要なこと。でも疲れ切っちゃってそれが出来なくなる人がいる。そんな人たちに息をつく時間を、猶予を渡せるように家事のできる人たちを集めてやっています。私達の仕事はそういう事なのだと思う、と。
なるほどこれは盲点でした。
言葉はキツいのに暖かみを感じる表現
本作の登場人物の多くは、言葉が強い人が多い。ぶっきらぼうでつっけんどんな物言いをするせつなや、すぐ喧嘩を買う薫子。
口論もしばしば。でも何故かそこに冷たさは感じず、むしろ感じるのは温もり。
それはどの登場人物も、心の底に持つものが優しさだからだと思うのです。カフネ。愛する人の髪にそっと指を通すしぐさ。
読者の髪を梳いてくれるような作品に出会えて幸せな10日間でした。
原作者の阿部暁子先生、ありがとうございました。