本当の戦争を描いた漫画からも学べることは多い
戦争を題材にした漫画は数多くありますが、戦争の本当の側面を史実や体験に沿って描いた漫画もいくつもあります。現在では入手しにくいものもありますが、当方の蔵書から、参考にしてもらいたく紹介します。
1985年初版ですが、発行部数が少ないので、見つけたらすぐ入手するのをお勧めします。1,2巻は入営した新兵の一年で、営内における当時の軍隊の制裁も心遣いも細かく描かれています。こちらは比較的気軽に読めますが、3,4巻は中国戦線が舞台。激しい戦闘や中国人への日本兵の行為、お互いの化かし合いなど、戦争の裏表が描かれています。中国戦線の漫画をリアルに描けたのは、実際に従軍した方が執筆されたものだからで、現代では貴重です。
戦場の体験者として挙げられる有名な方では、水木しげる氏がおられます。「戦記ドキュメンタリー」と題した「総員玉砕せよ!」は、実際の玉砕戦と生き残りの兵を再度玉砕させる実際になった話を題材としています。1991年初版発行ですが、比較的入手しやすいものです。太平洋戦争のニューギニアが舞台です。
そして、水木氏の自伝的漫画「ボクの一生はゲゲゲの楽園だ」(講談社・2001年)は、幼少期から青年に、ニューギニアに出征し腕を失う戦闘、その後の敗戦、帰国から戦後の苦労、ニューギニア再訪といった内容が全6巻にまとまっています。戦争だけに限らない、戦前戦後から現代までの社会の雰囲気も伝わるものです。貸本漫画時代、紙芝居原画書き時代と、凄まじい戦後の話も興味深く読めます。
同じ南方で、やはり玉砕の島として知られるも、一部の生き残りの兵が敗戦後も長く持久戦を続行した史実を描いた武田一義氏「ペリリュー 楽園のゲルニカ」。白泉社、2016年より刊行。孤島に兵隊をばらまいただけでその後の増援や補給なしという無謀な南方の戦闘、そして最後まで戦意を失わせなかった当時の教育というものを感じさせられます。凄惨な話ですが、武田一義氏の絵柄がそれを和らげてくれています。
そして太平洋戦争下、追い詰められた日本軍が生み出した、爆弾を抱かせたままの飛行機で目標に体当たりさせる「必死」の策、特攻隊を描いた「不死身の特攻兵」。原作は鴻上尚史氏、漫画は東直樹氏。2018年より初版刊行、全10巻。体当たりを命じられながらも「死ななくてもいいと思います。死ぬまで何度でも行って、爆弾を命中させます」と9回の特攻出撃を命じられた佐々木友次氏を主役に、その理不尽さ、上官のずるさなど、余すところなく描かれています。これを読むと、特攻隊は美化してはならないと、強く感じるものがあります。
合わせて、原作本もお読みいただければ、理解も深まるかと思います。
太平洋戦争の緒戦を緻密に描いた作品として、主に独ソ戦の劇画で知られる小林源文氏の「ZERO太平洋戦記『開戦編』『ミッドウェー編』」(ゴマブックス株式会社、2018年初版)があります。続編があれば入手したいと思って居ますが、緒戦だけでも日本軍の敗北要因が解説され、理解しやすいものです。
次に国内の戦争を主に描いた作品を紹介します。漫画あおきてつお氏、監修藤原彰氏の「赤い靴はいた」(初版1995年、収蔵品は2005年の8刷。草土文化)は、疎開と東京大空襲、対馬丸事件と沖縄戦、そして広島への原爆投下の、3つの題材の漫画をまとめています。特に沖縄戦では、日本軍の沖縄住民への不信感が描かれており、沖縄言葉を使っただけでスパイ扱いといった史実を織り込んでいます。
そして最後に、中沢啓治氏の「はだしのゲン」。戦時下の国内における権力者の姿を描き、原爆の惨状を描き、それに懲りずに弱肉強食の道を進むような戦後の日本社会と、幅広い範囲を描いたものです。蔵書は1995年初版、1999年3刷のほるぷ出版「中沢啓治 平和マンガ作品集」のものです。
この「平和マンガ作品集」には、ほかにも東京大空襲を扱ったもの、自身の実際の体験を描写したもの、権力者に徹底的に反抗する若者の話など、いずれも味わいがある作品群ですので、まとめて入手することをお勧めします。
漫画ならではの表現で、また戦争の側面を知ることも大切なことと思います。証言や当時のモノだけではうまく伝わらない、生きた生活、戦時体制の社会というものを、こういうところから入って知ってみるのも良いのではないでしょうか。