“新時代の学び”に向かう乗組員を大募集!探究科や創造コースの新設で教育改革の海を進む追手門学院中・高等学校
既存の「学校」の概念を取っ払い、学び手である子どもたちが自分で学びをデザインできる新しい校舎。 国語や数学などと並ぶ1つの教科として「探究科」を設置し、オリジナルの探究プロジェクト型授業をデザインする専任の教員チーム。 探究プロジェクト型の授業で全教科を横断的に学べる「創造コース」。
これら斬新な取り組みで新しい時代の教育に取り組んでいるのが、大阪府茨木市にある追手門学院中・高等学校だ。
学校を最もクリエイティブな場にすることで、学びを最大化し、生徒と教員、皆で一緒に未来を考えデザインしていくことを目指している。
生徒のみならず、教育関係者からの注目度も急上昇中の同校では、現在、新しい時代の教育を一緒に創造してくれる教職員を募集中だ。追手門学院中・高等学校が取り組む新しい時代の教育とはどのようなものなのか?どのような人材を募集しているのか?
自らもこれまでの授業スタイルに問題意識を抱き、教育改革を推進してきた同校教頭の辻本義広さんに話を聞いた。
いつでもどこでも学べる、全く新しい学習空間
JR総持寺駅から徒歩15分程の距離に、茨木市による官民一体の再開発プロジェクトによって生まれた街がある。
大型商業施設や中高層住宅、公園や病院、最新技術を備えたエネルギーセンターなどが集まる、環境配慮型の新しいコンパクトシティ。広々とした敷地や緑に包まれたこのエリアの一角に、曲線が美しい、まるで船のような白い大きな建物がある。
私立中高一貫教育を行っている追手門学院中・高等学校の校舎だ。創立130周年記念事業の一環として、2019年4月に新キャンパスとしてこの地に移転開校した。
「Smart Palette(スマートパレット)」と呼ばれるこの新しい校舎は、「いつでも、どこでも学べる」をテーマに、これまでの学校のイメージを抜本的に見直した学びの空間となっている。
見た目の通り、船がモチーフとなっており、校舎中心部として機能する図書スペース「Port(ポート:港)」と、従来型の教室の概念を取っ払い、新たな学び方に応じて教室の形を自由にアレンジできる学習スペース「Canal(キャナル:運河)」から成る、学習環境一体型のキャンパスだ。
どんな教育理念に基づいて、このキャンパスがデザインされたのだろうか。
移転が決まった当時、学習領域の統括をする立場にあり、新校舎設計プロジェクトメンバーにも入っていた教頭の辻本さんによると、まずプロジェクトメンバーで、どのような教育をしたいのか、どのような生徒を育てたいのか、生徒たちにどのような力を育みたいのか、そのためにはどのようなカリキュラムが必要で、どのような授業が必要なのか、それを叶えるためにはどのような校舎がであったらいいのか、といった順番で考えて、教育コンセプトから設計コンセプトに落とし込んでいったそうだ。
「そこから、今度は全教員で同じ問いに対して議論し、理想の教育や校舎を話し合う際には『何のために学ぶのか』というところから議論を始めました。その際に、『進学実績のためだけに教育しているわけではない。これから社会に出ていく生徒たちにとって大事なのは、個別型学習・協働型学習・プロジェクト型学習(探究学習)の3つの学びとその融合だ』ということで、目線が一致したんです」
「アクティブラーニング型の授業や探究型の授業を中心とした、“新しい時代の教育”を始めようとすると、教室のコンセプトも自ずと変わってきます。今までの『教師の話を一方的に聞く場』としての教室ではなく、『子どもたちが主体となった双方向の活動の場』としての教室にしたかった。今までの教育とは違うやり方をするのだから、校舎そのものの当たり前も疑って見てみようと、そもそも教室の壁はいるのか、黒板はいるのか、図書室はいるのか、机や椅子はいるのか、いっそのこと、ビーズソファのyogiboではダメなのか。そんなところまで議論しました。いわゆる、我々教員がアンラーンする機会になりました。さすがにyogibo案は却下されましたが(笑)。これまで自分たちが当たり前に使っていたツールの必要有無から議論を重ね、結果的にこの校舎が出来上がりました」
新校舎「スマートパレット」は、生徒の多様な個性が混じり合う仕掛けに満ちている。教室と呼ばれる部屋は、一部の壁を可動式にする形で仕切りを取り外した。少人数によるグループワークの際は、教室の隣にある学習スペースとつなげるなど、生徒たちが自らやりやすいように教室の形を自由にアレンジできる。
また、従来型の図書室をなくす代わりに、1階から4階の各フロアに、フロアごとのテーマに沿った書籍や映像などを取り揃えた図書スペース「ポート」を設けた。生徒の身近に本を置くことで、学びに応じて活用できることを狙ったという。
もはや学校全体が図書館になっているようなイメージで、教室の中だけでなく、いつでも、どこでも学ぶことができる、全く新しい学習空間として整備されている。
知識注入型から「自ら学び得た知識を活用し、他者と協働して学ぶ」教育へ
「いつでも、どこでも学べる」新しいキャンパスで、一体どんな“新時代の教育”が実践されているのだろうか。
同校では、「独立自彊・社会有為」を教育理念に掲げている。主体性・社会性を身につけ、自らの可能性を広げ、社会に貢献できる高い志を持った生徒を育てることを目指した教育理念である。
この教育理念の下、2019年より教育改革の舵を切り、現在は「個別型学習」「協働型学習」「プロジェクト型学習(探究学習)」の3つの学び方と、リフレクション学習による4つの学びの融合に焦点が絞られている。
とりわけ特徴的なのが、2020年から教科化した「探究科」の設置だ。中高の6年間を見通したオリジナルの探究プログラムを作る「探究科」専任の教員チームも作り、教員も探究学習に集中し、コミットできる体制を構築している。
さらに、2022年には探究学習の土台となる経験・振り返り・気づきのサイクルを学習全体に展開し、プロジェクト型の授業でさらに学ぶ経験を積み上げていくために、高校の既存3コースに加えて「創造コース」を新設した。
そもそもなぜ、探究学習を中心とした新しい教育を始めることになったのだろうか?
辻本さんがまだ管理職になる以前、最後の担任を持った2015年頃までは、追手門学院中・高等学校はゴリゴリの受験教育を施す学校だった。有名国公立大学への進学実績を出すために、いかに知識を詰め込むか、偏差値を上げるかという、生徒に発破をかけるような指導体制だったという。
当時、進路指導部長も兼任していた辻本さんは、テストや課題を与え続けて強制的に学ばせる一方通行型の教育スタイルに違和感を覚え始めていた。心なしか不登校生徒の増加や「落ちこぼれ」や「吹きこぼれ」も起こり始めたのは、こうした指導スタイルも原因の一つにあるのではないかという気がしてならなかった。
「学びが苦行化されているような印象を抱いていたんです。子どもたちがどんどん疲弊していくような教育が本当にいいのかどうか?この問いに対する解を求めて、東北や九州の学校まで視察に足を運んだり、専門家に話を聞いたりと、右往左往しました。今でも財産になっている、いただいた「ご縁」と「つながり」の中で、『同じ内容を同じペースで、同じやり方で教えるベルトコンベアー式の工業的な教育ではなくて、もう少し農業的な教育に変えていかないといけない』というお話を聞いて、自分の中のモヤモヤがバチっと言語化されたような感覚を得ました。ではどうしたらいいのかと考え始めた時に出会ったのが、学びの個別化と協働化とプロジェクト化という『3つの学び』と、それらを融合するという発想でした。これだ!と思いました」
こうして同校は、「知識注入型」から「自ら学び得た知識を活用し、他者と協働して学ぶ」教育へと舵を切った。まずは「協働的な学び」と「プロジェクト型の学び」を融合することから始めようと、2019年から探究の授業を組み込み、その翌年には国語や数学などと並ぶ1つの教科として「探究科」が新設されたというわけだ。
先生たちの「やりたい」を叶える環境を
同校の探究の授業は、「探究科」を専門で担う教員のチームが、完全オリジナルのカリキュラムを開発し、実践している。このチームを統率しているのが、探究科主任の池谷陽平さんだ。池谷さんは、同校からのオファーを受ける形で2019年に転職してきた。
「探究科」として進めてきた当初、池谷さんをはじめとする探究科の先生方と一緒に授業を受け持っていた辻本さんは、探究科の先生方のファシリテーション能力の高さや生徒たちの導き方、語りかけ方、授業デザインにおける発想力などにおいて「一生敵わん」と思ったという。
池谷さんに探究科主任を任せたことにより、同校における探究教育の推進が一気に加速した。やがて、池谷さんの熱量に引き寄せられるように、探究科の取り組みに感銘を受けた人材が一人また一人と「探究科」チームに入りたいと言ってやってきた。
近年では新卒採用された先生も加わり、ユニークでカラフルな個性を持つメンバーが「探究科」をドライブしている。
ちなみに、2022年に新設された「創造コース」は、池谷さんが立ち上げた「探究科」のオウンドメディア「O-DRIVE」に衝撃を受けて転職してきた牛込紘太さんが担っている。
「今の探究科をドライブしてくれている先生方の、ゼロからイチを作るところの発想力には、とにかく尊敬の念しかありません。好き勝手やる、暴れ馬ばっかりですけどね」と、辻本さんは笑う。
暴れ馬とは言い換えると、自由に好きなように活動しているということだ。ともすれば、学校組織では、自由すぎる動き方はいろいろと制限されてしまいがちだが、どうやら同校は硬直化された組織とは無縁のようだ。なぜなら、辻本さんのような管理職が、新しい時代の教育を創る若手教員のアクションを上からしっかり支える役割を担っているからだ。
「彼らはまだまだプレイヤーですが、プレイヤーだけでは組織全体は動かせません。そう考えると、組織の上のレイヤーに意思決定ができる人間がいないと、彼らが思うように動けないと思ったんです。池谷と出会った時期は、ちょうど自分自身が管理職の打診を受けていたタイミングでもありました。こんなに発想力豊かに探究科を動かしていってくれるメンバーが揃ったのであれば、現場は熱量のある先生方に任せて、自分は探究科のムーブメントを学校全体に広げていけるように、必要な意思決定をする役割に回ろうと思ったんです」
そう考えて、辻本さんは教頭になることを決意したのだという。
3つの学びを、一気に融合させることは難しい。まずは「協働的な学び」と「プロジェクト型の学び」を融合することから始め、特にハードルが高そうな「学びの個別化」はまだまだこれからだそうだ。校長を含む管理職メンバー4人で、今後10年、15年かかってもいいから、ボトムアップ(底上げ)とトップダウン(上からの牽引)の二刀流で、3つの学びを融合させていく方針だ。
軸を持っている人、そして軸を崩せる人と働きたい
2018年に新卒で数学科教諭として入職した佐藤佑平さんにも話を聞いてみた。大学院時代に数学者か教員かの2択の進路で迷った末に、教員になる道を選んだという佐藤さん。入職して5年、今何を感じているのだろうか。
「雰囲気はめっちゃいい。働きやすいです。ここしか知らないので比較はできないんですけど、 他の学校の先生の話を聞くと、自由にやらせてもらえていることを実感します。あと、尊敬できる人が多いです。一緒に何かやりたいと思える人が多くて、学ばせていただいています」
数学者を目指していた佐藤さんは、数学のおもしろさを伝えたくて先生の道を選んだそうだ。でも今は、少し考え方が変わってきているという。
「今は数学を教えたいとはあんまり思ってなくて。僕はハマったけど、 それを無理に押しつけるのは違うなって思うことが結構あって、 僕でいう数学みたいなものを見つけてほしいなと思うようになりました。何か夢中になれるものとか、没頭できるものを見つけるサポートをしたい。今は、生徒の成長の瞬間に立ち会えるのが、やりがいにつながっています」
3年前に突如探究科のメンバーとして声がかかり、現在は創造コースの担任を受け持つ佐藤さん。探究科のメンバーになったことがターニングポイントになったという。
「探究の授業なんて受けたこともないし、自分がやったことのないことだったので、ゼロから形にしていくワクワク感がありました。根底のおもしろさは、教員側の想像を生徒たちが超えてくることです。数学の授業では、どうしても知識を知っている人と知らない人という主従関係も生まれてしまうし、こちら側の想像を超えるようなことって1回も起きたことがなくて。でも探究では、生徒と教員がフラットな関係性の中で、一緒におもしろがることができます。そして、想像もしていなかったことが次々と起こる。それはすごいおもしろいなって思ってます」
5年間の教員生活の中で、苦しいことがあってもフラットに相談できる先輩たちの存在のおかげで、悩みすぎず日々挑戦できているという佐藤さんに、追手門学院中・高を一言で表現するならどのような学校か、を尋ねてみると、即答で「安心」という答えが返ってきた。その心は?
「生徒たちを見てて、すごく感じます。担任をしている生徒たちはもちろんそうなんですけど、いろんな学年、クラスも見ていますが、すごい安心感を感じながら過ごしているんだなと思います。それはやっぱり、働いてる先生たちの子どもたちに向ける愛情を子どもたちが感じ取ってくれているからじゃないかと思ってて。それぞれ大事にしてることは違うので、いろいろ合う・合わないはもちろんあるんですけど、 根底にあるのは、やっぱり子どもが好きという気持ち。そこは強い思いを持った人たちが多いと思います」
最後に、佐藤さんはどんな人と一緒に働きたいと思っているのか、どんな人が同校で働くのに合っていそうかを聞いてみた。
「何でもいいんですけど、軸となってるものを持っている人。あとはその軸を崩せる人。軸を固定化してしまうと、探究科や創造コースが大切にしているアンラーンと合わないと思いますし、教員がアンラーンできる状態じゃないと、生徒にも伝わらないなって。軸を外そうとする人と一緒に働きたいですね」
オープンで風通しの良い職員室、進む働き方改革
自由に、やりたいことを形にしている同校の先生方だが、辻本さん曰く、常日頃からお願いしていることがあるのだという。それは、教員と生徒が上下関係になるのではなく、対等な関係であってほしい、ということだ。
実際に、追手門学院では先生と生徒の距離はとても近い。職員室がガラス張りで中が見えるような設計になっていたり、職員室とはまた別に、ナースステーションから着想を得たティーチャーステーションという壁のないスペースがフロアに設けられており、生徒たちは気軽に先生に声をかけられる。中には、先生をあだ名で呼ぶ生徒もいるそうだ。
ただ、対等な関係といっても、なあなあになるということではない、と辻本さんは釘を刺す。
「先生をあだ名で呼ぶ距離感でもいいと私は思っていますが、教育者として、どうしても叱ったり指導したりしないといけない場面はあります。ですので、時には上下になることも当然ありますが、先生だから偉いという感覚は違う。基本は対等であるというスタンスを大事にしてほしいと思っています」
先生方の働く環境についてはどうだろうか。
実は変形労働時間制を敷いたことにより、この10年で教員の働き方は随分変わったという。何よりも大きいのは、土曜日が休日であることだ。もちろん、何かイベントが予定されていれば出勤は必要だが、基本的には土曜日は休日になる。
また、放課後の補習はなく、部活動も2023年度から外部のNPO法人に委託して講師を派遣してもらう形としたため、先生方が部活動を受け持つ必要もなくなった。もしどうしても部活動を受け持ちたい場合には、委託先であるNPO法人に自ら登録し、副業という形で派遣される形になるそうだ。放課後の時間も含めて、先生方の働きやすさが向上していることは間違いない。
「ただ、働きやすさが向上した分、新たに生み出された時間で、探究的な学びやプロジェクト型の学び、協働的な学びのスキルを上げる自己研鑽の時間に使ってほしいということはお願いしています」
自分の言葉を持ち、楽しみながら授業をする人と働きたい
同校が目指す「3つの学び」が融合された新時代の学びの海に向かって、「スマートパレット」という船の航海はまだまだ続く。生徒数も増加しており、2025年にはもう1つ新しい校舎が敷地内に完成予定だという同校では、現在新たに乗組員を募集中だ。
「『探究科』や『創造コース』を設置するような学校なので、やはり探究的・協働的な学びに興味関心があり、そうした学びにまずはチャレンジしてみたいという意欲を持つ方と出会いたいと思っています。できるか、できないかは問いません。問うのは、教員免許の有無のみです」
とは言え、もちろん教員としての必要最低限の資質は必要だ。協働的な学びが基本型であるなら、当然ながら生徒とのコミュニケーションは日常的に多い。また、教員同士チームでカリキュラムを創り上げていく場面が多いことは理解しておく必要がある。
それゆえに、生徒や他の先生方も含めたコミュニケーション力や協調性、生徒から質問を受けた時に対応できる知識量といった3点は、教員であるなら備えていてほしいところだ。
具体的に、辻本さんはどんな人と一緒に働きたいと思っているのだろうか。
生徒のことを一番に考え、コミュニケーションを密にとることができることは勿論のこと、その他に大きく3つあるという。
「まずは何よりも、授業を楽しんでやってくれる方。生徒が楽しく学ぶことに加えて、生徒たちの前に立つ人間が、やはり一番楽しんで授業をしてくれないと生徒たちには受け入れられません。特に探究の授業や、創造コースの生徒たちを前にするなら尚更です。生徒たちの前に立つ以上は、高圧的・強制的な授業ではなくて、楽しんでやってくれる先生だといいですね。
2つ目は、伝書鳩のように原稿通りにしゃべるだけの授業やロングホームルーム、朝終礼をするのではなく、ちゃんとご自身の言葉で語れる方。
そして3つ目が、協調性を持ってチームで授業デザインに挑戦してみようという気概がある方。追手門の先生方には、個人商店ではなく、チームで授業をしてほしいと思っているので、教員のチームづくりにはこだわっています」
同校の教育理念に賛同し、池谷さんたちのような開拓者が積み重ねてきた実践を継承しながらも、アレンジを加えてより新しい形に発展させてくれる人材。そんな新風を待っている。
「私たちの取り組みに少しでも興味を持っていただけたり、賛同していただけたり、もっとこんな取り組みをやってみたいとか、こんなことにチャレンジしてみたいと思われた方は、ぜひ一度、当校に足を運んでいただけたらなと思います」
もし追手門学院中学校・高等学校の航海に少しでも興味を惹かれた方は、一度コンタクトしてみてはいかがだろうか。
追手門学院中・高等学校の探究の様子を、もっと知りたい方はこちらをご覧ください。