見出し画像

これからの時代に必要なクリエイティビティを考える 【山内佑輔の「余白」をつくる#1】

これからの時代に必要なクリエイティビティとは?

「余白」をキーワードに、これからの時代に必要なクリエイティビティを読者の皆さんと共に考える、新渡戸文化学園の山内佑輔さんによる連載第1弾です。

山内 佑輔(やまうち ゆうすけ)
新渡戸文化小学校 プロジェクトデザイナー/VIVISTOP NITOBEチーフクルー/SOZO.Ed副代表/Microsoft Innovative Educator Expert

実社会と学びを繋ぐ授業をデザイン。ワークショップの手法をもちいて、子供たちのクリエイティビティを育む環境をつくりだす。
学校内では様々なアーティストや専門家、企業と連携した授業を実践。2020年4月から新渡戸文化学園へ移り、VIVITA株式会社と連携しVIVISTOP NITOBEを開設。「教室や教科、学年などの枠をなくし、教師も生徒も共につくり、共に学ぶ」を掲げ、新しい学びのあり方を模索したり、放課後の子どもたちの活動を拡張中。
学校外ではTechnology×Creative×Artをキーワードに各地でワークショップやイベントを展開。キッズワークショップアワード優秀賞を受賞。出張図工室プロジェクト「山と水の図工室」の活動では東京新聞教育賞を受賞。その他にも、地域と連動した創造型プロジェクトに複数携わる。二児の父。

徹底的な「余白」設計がもたらすもの


みなさん、「THE FIRST TAKE」という企画をご存知ですか?

ミュージシャンによる一発撮りのパフォーマンスを映像にした企画で、YouTubeチャンネルが注目され、ラジオレギュラー番組「THE FIRST TAKE MUSIC」も始まり、現在人気急上昇。

僕もそのファンのひとりです。

出典:THE F1RST TAKE HPより

音楽はもちろんのこと、このYouTubeの映像の美しさにも魅力があります。

この企画のクリエイティブ・ディレクションを手掛けたアートディレクターの清水恵介さんは、

「映像は、高画質・高音質にこだわりながら余計な演出を一切排除することで余白を作り出し、“体感としての音楽の解像度”が上がるように設計しています。」

https://www.tbwahakuhodo.co.jp/news/200425-tft/

と語っています。

この企画においては「余白」がとても大切にされており、映像における「白」さえも出演するアーティストのイメージに合わせて調整し、その人だけの「白」をつくりだしているそうです。

徹底的な「余白」の設計によって音楽そのものを届けているのです。

さて、唐突に音楽の話から始めてしまいましたが、最近僕はこの「余白」がとても気になっています。

建築における余白、デザインにおける余白。
様々な場面で余白という言葉を耳にします。

そしてコロナ禍では教育関係でも、「余白」について耳にすることが多くなったと感じています。

教育における「余白」とは?


余白。


教育における、学びにおける余白とは一体なんなのでしょうか。
僕のこれまでとこれからを振り返りながら、この「余白」を考えていきたいと思います。僕は2014〜2020年までの6年間、東京都公立小学校の図画工作専科教員として勤務しました。教員になる前は、9年間大学職員として勤務していました。

在職中に教員を志し、小学校教員免許を取得。担任の先生になるものだと思っていたのですが、採用はまさかの図画工作専科。

中学教員免許は社会、高校教員免許も地理歴史公民の僕がなぜに図工の先生だったのか。その理由は今も謎のままですが、大学職員時代に子ども向けワークショップの企画運営をしていた経験があったからかもしれません。突然の図工の先生のキャリアスタートにドキドキしながら、1番最初に行った授業は紙コップ10,000個でつくる授業でした。

これは深沢アート研究所にアイデアをお借りして実施しました。
ペンはない(描けない)ハサミもない(切ったり、やぶったりできない)中で、紙コップで何をしよう?と子どもたちに問いかけました。

「つまらなそう・・・」という子どもたちの表情を受け止めた後、「1万個用意したんだけど・・・」と紙コップを披露すると、子どもたちの表情は一転し、その後は止まることなく、積極的に何度も作り変えたり、つくり続けていました。

2014年4月の授業の様子

今この授業を振り返ると、子どもたちの「余白」が溢れている授業であると感じます。

予め敷かれたレールを進むわけではなく、階段を登っていくように学習を進めていくわけでもない。90分という時間の中で、思いついたことに挑戦し、ダメだったら何度でもやり直す。友達と取り組んでもいいし、一人でもくもく取り組んでもいい。

この授業において、僕が教えたことはありません。
子どもたちは自分たちで取り組み、学びを獲得していきます。

これであれば僕も図工の先生を続けられるかもしれない。そう思うことのできた最初の一歩でした。

「余白」はデザインするもの

この授業は学習指導要領(図画工作科編)における「造形あそび」に該当します。

児童は,材料に働きかけ,自分の感覚や行為などを通して形や色などを捉え,そこから生まれる自分なりのイメージを基に,思いのままに発想や構想を繰り返し,手や体全体の感覚などを働かせながら技能などを発揮していく。これは遊びのもつ能動的で創造的な性格を学習として取り入れた材料などを基にした活動。

小学校学習指導要領(平成29年告示)解説より

「学びにおける余白」を「自分で選択し、決断し、主体的に取り組む時間」と捉えると、造形あそび以外であっても、図画工作科は授業の中でその余白をしっかりつくることができます。

そのことによって、図画工作科の教科の目標である「表現及び鑑賞の活動を通して,造形的な見方・考え方を働かせ,生活や社会 の中の形や色などと豊かに関わる資質・能力」を育成するのです。(図画工作科の目標はものをつくること、絵を書くことでも、その技術向上でもありません)

THE FIRST TAKEでは制作者が「余白」をデザインすることで、視聴者の体感としての音楽の解像度が上がるというように、授業では教員が「余白」をデザインすることで、子どもたちも体感としての学びの質が上がるのではないでしょうか。

「余白」をデザインする、と敢えて書いたのは、「余白」は意図せずにつくられたものではないからです。制作側がしっかり考えて作られている、デザインされている余白だからこそ効果があるのです。

授業におけるデザインされていない「余白」は、「放任」「無責任」という言葉に置き換えてもいいかもしれません。

授業における「余白」のデザイン

授業における余白のデザインで大事なのは、時間・環境・問いの設計だと考えています。

例えば「○分間で」「この材料・道具で」という条件と、子どもたちが主体的に取り組める「問い」を投げることで、学びはスタートします。僕が6年間で実施した授業はどれも、一生懸命この余白をデザインしていたと、今なら言うことができそうです。

昨年の秋には前任校で6年生と学校の敷地内にあった森を再生させるプロジェクト型の授業を実施しました。

何十年も手付かずだった学校の中にある誰も入ることのなかった場所(これも学校の中の余白ですね)を、専門家の手を借りながら、自分たちの力で森を開き、土壌を改善し、遊びを通じて必要だと考えたものを手作りしていきました。

参考記事:教育新聞

世界初という新しい挑戦

2020年4月から赴任した新渡戸文化学園で、僕は今VIVISTOP NITOBEの立ち上げを任せてもらっています。

自分たちで自律的に生きていくためのアートやサイエンス、テクノロジーを身に付けることで、ライフスキルやマインドセットが醸成される。自分たちでエネルギーをつくったり、食料をつくったり、服を作ったり、衣食住遊に必要なものをなんでも自分たちで作れるコミュニテイ

そんなコンセプトを掲げるVIVITA株式会社とともに、学校の中の環境としては世界初のVIVISTOPの運営です。

VIVISTOP NITOBE

この仕事自体がまさに余白をどうデザインするのかという仕事だと感じています。また、余白をつくり出す場所でもあると思っています。この取り組みについては、今後ご紹介します。

学校外でも僕はこれまでにいくつかのプロジェクトを立ち上げ取り組んできました。

SOZO.Ed
「ICT」「Creative」「Education 」をキーワードに、 都内の小学校から高校教員を中心に結成したProfessional Learning Community。

山と水の図工室
出張図工室プロジェクト。2019年東京新聞教育賞を受賞。

こども本屋「まる:そ」
家族で挑戦する息子が店長を勤める本屋さんの取り組み。

ぼうけんアトリエ つくりびととあそびびと
吉祥寺ブックマンションではじめる、まちを冒険・探検する拠点。

オンラインあそびのじっけん
あそびはオンラインでもできるのか?の実験。 

これらの活動ひとつひとつを学びと余白のデザインをキーワードに見ていくと、今まで気が付かなかった共通点や、価値や意味が見出せるのではないかと思っています。

この連載を通じて、これまでの活動やこれからを改めて考えていきます。
どうぞよろしくお願いします。