ハイテックハイでの留学、長期のフリーター生活を経て、教育の道へ。教育に多様な大人が関われば、生徒にも先生にもプラスになる!
高校在学中に、アメリカ・サンディエゴにあるプロジェクト型学習に特化した高校・ハイテックハイに留学した経験を持つ岡 佑夏さん。
現在は、日本全国をキャンパスに地域を旅して学ぶ大学・さとのば大学で、高校と大学をつなぐのコミュニティ運営や、一般社団法人STEAM JAPANで、探究のカリキュラムデザインを担当している。
教員ではない立場から教育に携わる岡さんに、キャリアヒストリーと教育への思いを聞いた。
多様な人の得意や好きが生きるプロジェクト型学習
——岡さんは現在どのようなお仕事をされているのでしょうか?
今は複数の団体で、探究の授業やカリキュラムをつくる仕事をしています。
地域に暮らしながらプロジェクト学習の実践を軸とする新しいタイプの市民大学・さとのば大学では、高大連携を担当していて、全国約20校の探究学習や学校改革を先進的に行っている学校のコミュニティをつくっています。
科学・技術・工学・芸術・数学の五つの領域を横断的に学ぶSTEAM教育の普及をしているSTEAM JAPANでは、さまざまな企画に携わっています。
昨年はメディアリテラシーや、宇宙をテーマにしたカリキュラム開発や、PBL授業の作り方をテーマにした教員研修を担当しました。
——どちらのお仕事も、探究を主軸にされているのですね。なぜ岡さんは、探究の授業やカリキュラムづくりなど、教育分野に関わるようになったのでしょうか?
私が教育、特に探究に関心を持った一つのきっかけが、アメリカ・サンディエゴにある公立高校・ハイテックハイでの留学経験です。
この学校は、全ての教科をプロジェクト型学習で学ぶというチャータースクールで、私は2005年から1年間在籍していました。クラスの中では、常に複数のプロジェクトが並行で進められていて、毎日がとても刺激的でした。
プロジェクト型学習では、一つのプロジェクトを完成させるために、さまざまな役割を果たしてくれる人が必要となります。そのため、多様な生徒が活躍できます。
例えば、雑誌を作るプロジェクトだとしたら、インタビューが得意な人はインタビュー、まとめるのが得意な人は記事執筆など。留学した当時の私は、ほぼ英語が話せませんでした。
そのため「私はこのプロジェクトの役に立てるのだろうか?」とずっと考えていました。そのとき、あるプロジェクトに音楽をつけるという役割の人を探していました。私は小さいときから音楽をしていて、「それなら役に立てる!」と思い、積極的に関わりました。そうしたら、仲間たちがすごく私のことを褒めてくれたんですね。その体験がずっと印象に残っています。
先生の輝く姿が、生徒のロールモデル
——素敵なエピソードですね。岡さんは、プロジェクト型学習のような探究的な学びをどのように捉えていらっしゃるのでしょうか?
よく先生方から、「探究って難しいものなんでしょ?」という声が聞こえてきます。でも私は、探究って全然難しいものではないと思っていて。
というのも、例えば幼稚園のとき、どうしたら硬い泥団子が作れるかを考えた経験はありませんか?実はこれも、探究なんです。さかなクンみたいに魚のことが好きで、夢中になって調べている姿も、探究と言えるんですよね。
探究は、一人ひとりが思わず夢中になってしまうこと、好きなこと、おもしろいと思って進めていけるものと関係が深いと思っています。
——なるほど。ハイテックハイでも、生徒たちは夢中になって探究を楽しんでいましたか?
生徒たちももちろん楽しんでいました。でもハイテックハイでは、誰よりも先生たちが探究を楽しんでいたと私は思っています。ハイテックハイの一番の魅力は、先生の存在だと思っているんです。
一人ひとりの先生が強みを活かして働いているので、先生たちが生徒以上に目をキラキラさせていて、子どもみたいだったんですよ。次はどんなプロジェクトをやろうかな?みたいなことを、とても楽しそうに考えている姿を私も見てきました。
それと同時に、先生同士もお互いのことをリスペクトし合っている様子がありました。「隣にいる先生を誇りに思える」関係性が、先生同士の間で築かれていたように感じています。
そんなキラキラと輝く先生たちの存在そのものが、実は生徒たちにとってのロールモデルになっていて。留学時代の同級生には、教員になった子がたくさんいます。
——岡さんも現在は、教育に関わる仕事に携わられている方のお一人ですよね。
そうですね。でも私、実はハイテックハイを卒業した20歳ぐらいのときは、小さい頃から音楽をしていたこともあって、舞台俳優を目指していたんです。でも怪我をしてしまい、その道を諦めてしまいました。
怪我をきっかけに、私の長期に渡るフリーター生活が始まります。20代の大半を長野県で過ごして、ホテルのコンシェルジュをしたり、海外の人が働くアウトドアツアー会社でインターナショナルスクールの野外実習の受け入れなど、いろいろな仕事を経験してきました。
2017年には1年間カナダに滞在して、オーロラツアーを提供する会社でも働きました。
カナダ滞在中にはファームステイも経験したんですが、お世話になったホストファミリーのお父さんに「君は日本に帰ったら何をやるんだい?」と聞かれて。私は何気なく「お給料のいいIT系の企業で働こうと思う」と伝えたら、「君はお金で仕事を選ぶのかい?」と真顔で言われて。私はその言葉に大きなショックを受けました。
その言葉をきっかけに「私の本当にやりたいことってなんだっけ?」と考えたとき、日本で新しい学校をつくるという情報がSNSに流れてきて、思わず飛びつきました。
SNSを通じて学校にジョブオファーを送る際に、その学校で働きたい旨と、私が思う「良い学校」についての提案を3つほど添えました。そのオファーが通り、30歳にして初めて、東京で学校づくりに関わることになったのが、私が教育分野に関わることになったスタートでした。
実は私のバイブルは『窓際のトットちゃん』なのですが、これを読んで「こんな学校あったらいいな」と感じた原体験も、教育に携わろうという思いを持ったきっかけにもつながっています。
——なるほど。ハイテックハイで学んだ経験は、今の仕事につながっていると感じますか?
ハイテックハイの先生方の関係性は、私にとってもすごく素敵に見えていました。だから、日本の教育現場の先生方と関わるときは、当時のことをイメージしながら関わっていますね。
私は今、サポートの立場で学校に関わっています。学校の伴走に入らせていただくときは、リスペクトを持って、まず先生方の願いをしっかり聞きます。そして、よりよい授業づくりや学校づくりに向けて、その思いをどのように共有したらいいのか?どうしたら先生方が余裕を持って楽しく働けるようになるのかを一緒に考えるようにしています。
個人で頑張らず、手を取り合える教育現場に
——日本の教育現場とハイテックハイでは、どのような点が違うと思いますか?
ハイテックハイでは、現場の先生の意見が最優先というところが、日本の教育現場と大きく異なると感じています。コロナ禍のオンライン対応をどうするかというときも、ハイテックハイでは現場の先生の意見を元に意思決定をしたそうです。
そのようなことからもハイテックハイの先生方は、教育委員会や管理職が自分が困ったときに助けてくれる存在と現場の先生が認識しているようです。一方でそのような意識が日本の学校現場にどのくらいあるのかと考えたときに、ちょっと逆転しているのではないかと思うところがあります。
そして、業務量の多さも違います。日本では、40人の生徒に対して1人の先生の配置であったり、1人の先生が教科も進路指導もして、さらには部活も見ている。1クラスの人数を調整したり、進路指導の専門の先生を置いたりしたら、もっと余裕が生まれ、先生が一日に少しでも研究の時間が取れるのではないでしょうか。
これまでお話したように、現状に課題はありつつも、日本の先生方の中にも時間を上手に使われている方もいらっしゃるので、参考にし合えればいいですよね。
——そういった時間のやりくりを上手にされている先生は、どのような工夫をされているのでしょうか?
いい意味で、言われた通りにしていないのではないでしょうか?
そのような先生や学校は、業務の簡略化が上手だと思いますし、デジタル化されているように感じます。対話を通して不要な業務を削ることができた先生たちは、やはり余裕があるように思います。
横を見ればいろいろなことを試している学校があって、おもしろい学校や先生がたくさんいます。そういった人たちとつながりながら、良いところをどんどん共有していけば、学校が楽しくストレスのない方向に変わっていくのではないかと思います。
これからは個人で頑張る時代ではなく、横でつながって情報共有をするなど、手を取り合って一緒にやっていけたらいいですよね。
——そうですね。昨今は先生という立場以外の方が、教育現場と関われる機会も増えていますが、これから教育に関わりたいと考えている方に向けてメッセージをいただけますか?
おっしゃる通り、現在は本当にいろいろな形で教育現場に関わることができます。実際に私の周りには、地域おこし協力隊で学校に入っている方もたくさんいます。
必ずしも教育を学んだバックグラウンドがなくても、教育に携わることができる仕事はたくさんあります。ですから教育に興味をお持ちの方は、教員になる・ならないということだけではなく、皆さんが関われるところから、教育と関わってみるのはどうでしょうか?
いろいろな人が教育に関わるのは、先生にも生徒にとっても大きなプラスにつながります。 学校もこれからどんどん開く方向に動いているので、社会人の方にも授業に入ってもらいたいと思う学校も増えています。
ぜひ積極的に、教育業界に関わっていただきたいです。