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【読書感想文】ヤジと公安警察(青木理・竹信航介・ヤジポイの会)
2019年参院選時、札幌市内において当時の安倍晋三首相の応援演説に対して、政権に批判的なヤジを飛ばしたり、プラカードを掲げようとした市民が、北海道警察によって強制的にその場から排除された「道警ヤジ排除問題」が発生しました。警察によって排除された当事者が北海道に対して国家賠償請求訴訟を起こした裁判闘争は、本年8月19日付で最高裁が道側の上告を退け、表現の自由を侵害したとして道側に55万円の賠償を命じました。しかし、同様の賠償を求めたもう1人の訴えについては、道に賠償を命じた一審判決を取り消し、警察官の対応が適法とされました。
本書は判決が確定する前の昨年9月、ジャーナリストの青木理さんとヤジ排除当事者、弁護士らが開催したシンポジウムの内容をまとめたものです。シンポジウムでは公安警察とは何か、ヤジ排除問題の背景に何があったか、安倍政権と警察官僚の関係はどのようなものか、市民は権力とどう向き合っていくべきか、などの議論が展開されました。
この事件の問題点は、公安警察という「国家権力」が市民の声を奪った「言論・表現の自由の侵害」であり、多くの聴衆やメディアの前で排除が行われ、政権に批判的な意見を封じ込め民主主義そのものを委縮させたことにあります。シンポジウムでは治安機関や権力機関が大きな力を持ち、ヤジの排除などが重ねられた先には表現の自由が排除された息苦しい社会が待っていると訴えています。
一方では、SNSを中心に「ヤジなんて飛ばす奴は排除されて当然」「政権を批判したり警察に逆らうような人間は危険」というコメントも多数見られます。また、最終的に敗訴が確定したもう1人の原告について、当初、第一審で33万の支払いが道側に命じられましたが、二審では事件発生当時に現場に居合わせた「自民党の支援者」とされる人物が、ヤジを飛ばしていた原告を「力づくで黙らせるため暴行を働こうとしていた」という本人の証言が「新証拠」として警察から提出されました。警察はこのことからヤジを飛ばした原告を排除したことは「危険な事態」を避けるための保護であると主張し、これが裁判で認められました。
本書の中では、韓国で長きにわたって軍事独裁政権下で民主化運動をたたかった経験を持つ金大中元大統領の言葉として「日本は素晴らしい民主主義国家であるが、日本の人達が自力で民主主義を勝ち取ったことがないのが心配」という言葉が紹介され、日本人が言論の自由や報道の自由を本当の意味で血肉化できていないのでないかと話されていました。
私は本書の中で話された「ヤジすら飛ばせない社会でいったいどんな表現の自由があるのか」という言葉が非常に印象に残りました。職場でも「おかしいと思っていても、まわりの目が恐くて自分の意見が言えない」「ハラスメントも受け入れてやり過ごすのが大人の態度」という雰囲気が蔓延していることを感じます。しかし、本当にそのままでは息苦しくなるばかりですし、そうした息苦しさが社会全体を覆っている今の日本では転職して職場を変えてもまた新たなガマンがはじまるだけではないでしょうか。
今回勝訴した原告は大学卒業後に労働組合の専従として働いています。毎日のように労働相談を受け、会社と交渉をしながら感じることとして次のように話しています。「労働組合運動は、職場の民主化運動です。職場を変えられれば、社会も変えられるという希望を少しは持てるようになると思います。そして、そういう希望を持った人が増えれば社会を変えられるのではないか。悪くなるばかりに思えるこの国の状況を変える一つの鍵は、労働運動だと私は思っています」