#6「自然の循環の中で、米づくり、酒づくり」(後編)
リセット、そして脱ケミカル
薄井 歴史を見ていくと、日本が敗戦国になってしまったのが致し方ないのかもしれませんけれど、GHQが介入して、アメリカの傘下、アメリカの言いなりになって、高度経済成長を築き、今がある。けれども、やはり豊かさ・便利さの裏にある、極めて危険な大量にものを作るっていう・・・それの反動が来ますね。いま、小麦大国じゃないですか日本って。
杉山 そうですね。大量の化学窒素を畑に入れると、できた小麦のグルテンの含有量が増えて。極端に入ってなければそんなに影響ないと思うんですけども・・・過剰摂取は、ベロメーターも変えてしまいますから。「ここのラーメン美味しいんだよ、1週間も経たないうちにまた食べたくなってきちゃうんだよね」・・・などというのは間違いなくグルテンの中毒症状を起こしてますね。
薄井 ケミカルな果物も。 今もう果物界のスーパースターみたいなシャインマスカット。あれはもうケミカルの極みじゃないですか。ぶどうで種がないのはちょっとおかしいと思いませんか? 甘いイチゴにしても甘いぶどうにしても、物凄い人為的に加工されてつくられているケミカルな食だったりしますからね。
杉山 うちでもシャインマスカットを育ててます。ただし農薬も化学肥料も何もやってない、見た目やや小粒で種ありで、あの、種を一緒にガリっとかじってあの苦味、あれこそがぶどう本来の味じゃないかと!
便利、簡単、の裏に潜むもの
薄井 稲の話をしたときに、朝日を浴びて、お昼になるまで光合成するって事でしたが、それでいくと朝採り野菜ってのも・・・
杉山 実は朝日が出る直前っていうのは、植物体内の硝酸態窒素の濃度が
一番高い時間帯で・・・一番美味しくいただけるのは、午後の3時から6時です。植物体内の糖度が一番上がる時期なので。
薄井 ということは、朝採り野菜よりも夕採り野菜を食べるべきですね。響きは確かに、朝採りの方が新鮮なイメージですけど・・・
杉山 流通は大変ですけれども、健康にいいものをいただきたいんでしたら、夕方収穫したもの。見た目、シャキッとしてないんですね、でも必ずその夕方の収穫の野菜っていうのが、人間の健康に寄与してくるという風に考えていただいて間違いないです。
(参照:及川紀久雄著「データが語る 美味しい野菜の健康力」)
薄井 ところで、杉山さんの有機栽培、具体的にどんな特徴がありますか? 自然循環に関することなどで・・・
杉山 私のところで今やってる有機の代かきって、「深水代かき」っていうんですが・・・
薄井 通常の代かきとどう違うんですか?
杉山 通常の代かきは稲藁や雑草を除去する作業ですが、私たちがやっているのは逆に雑草の種を一番発芽しやすいようにして、芽がそろったところで、水を多めに入れてガッと掻くとみんな浮いちゃうんですね。それが、田んぼの肥料に変わるので。これを上手くやるとほとんど草が生えないで、「これ除草剤使ったんじゃない」みたいな・・・そのくらい綺麗な田んぼになることもあります。そこの立役者っていうのは、イトミミズとかユスリカとか、田んぼの中にいる小さな生き物たちなので、彼らをいかに守ってあげられるかっていうのもね、1つのポイントになります。
薄井 放っておいても、みんなが働いてくれてますね。そして、水も大切ですよね。
杉山 尚仁沢湧水という湧水の出るところが塩谷町にありまして、それが荒川に流れ込むんで、田んぼに引いてますが、水質検査で、湧水に比べてやや硬度が下がったくらいで、ほぼほぼ同じ水がここに流れ込んできてることがわかりました。少し柔らかくなっただけで、質の良い水が田んぼに入ってきているんです。
薄井 ケミカルということでは、日本酒も進化していると見せかけて、ケミカルな造り方になってるんです。実は失うものも大変多かったから、今の仙禽のお酒造りって江戸スタイルって僕ら言ってて、まさに杉山さんの亀の尾で江戸時代にタイムスリップしたような造り方をしてるんです。
結局、安心や安全、そして本質は自身で身極めること
杉山 いかにして私たちは元に戻していくか、ちゃんとした食べ物は、求めれば、今なら求めて手に入る時代だと思いますし、そういう食を日本人として取り戻していかないといけない時代に入ってきたのかなという風に私なんかは思ってるんですね。
薄井 江戸の食ですね。有機農業が世界の中ではまだまだ遅れているのですが、昔に戻すとこの大切さを、杉山さんのお米で造る日本酒で、示していきたいと思います。
杉山 世界中の方が和食の素晴らしさを言ってくださる。健康と命を守るための食って和食なんだよねって。そこに日本が本当にそれに対応できるだけのきちっとしたその食を提供できるかどうかにかかってますのでね。
※#7に続く