シニアライフ、小説に学ぶ豊かな老後 ・・・ 第10弾は 「喫茶おじさん」 原田ひ香
定年後はどうするか?このような未経験の事を考えるときは情報収集?勉強?シニアライフ老後参考書としては定年・還暦・高齢者をテーマにした小説も見逃せません。
日常生活の喜怒哀楽を描き、私たちにいろんなことを考えさせてくれる参考書であり楽しい娯楽作品です。前回、第9弾小説に学ぶ「定年オヤジ改造計画」に続き、原田ひ香さんの「喫茶おじさん」のご紹介です。
「喫茶おじさん」 原田ひ香
著者の原田さんは「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。著書に「三千円の使いかた」「喫茶おじさん」「そのマンション、終の住処でいいですか?」「彼女の家計簿」「東京ロンダリング」などがあります。
今回ご紹介する「喫茶おじさん」は食に関する著書も多い原田さんの2023年の小説。純喫茶店好きの早期退職した57歳のおじさん、松尾純一郎の物語。喫茶店めぐりが好きなシニアの私には大変興味深く、また老後生活の勉強にもなるこの作品。
実名は伏せてありますが、実在する有名な喫茶店や名物メニューが詳しく紹介されているところも魅力。知ってる店があると2倍楽しめます。(最後に私の見解でお店を並べてみました)
早期退職金で始めた喫茶店は失敗、バツイチ、バツ2にリーチ状態、こんな、どこかさみし気な無趣味だった主人公の純一郎。彼が巡る純喫茶でコーヒーやこだわりのサンドウィッチ、スイーツを一人で楽しむ姿、原田さんの素晴らしい描写にぐいぐい引き込まれます。
今回もネタバレにならない程度に、シニライフの参考となる心に残った名言の数々、名場面を切り取って、過去の振り返り、これからの人生について考えてみたいと思います。
趣味がなかった 一月 正午の東銀座
銀座の喫茶店でコーヒーを飲みながら純一郎が過去を振り返り、純喫茶巡りを趣味にしようと決めるシーン。ゴルフは仕事の付き合いが絡んでいるしスポーツは苦手、囲碁将棋は下手で賭け事は嫌い、「勝ちたい」と思ったことがないという描写、こんなサラリーマン沢山いるんですよね、リアリティーがあります。
仕事と家庭の問題をクリアして、自分の好きな時間を楽しんできたビジネスマンはどれくらいいるのでしょう?私もなんとなく生きてきたわけではないけれど、改めて自分を主語にして考えたとき、本当に楽しめた付き合いの時間は少ないかもしれません。同調圧力が常にあったのかも。
夢中になって打ち込めた趣味と言えるもの、何もない自分がここにもいます。考える時間と気持ちの余裕がなかったと言えば、言い訳になりますが・・・。色々やってはみたものの、どれも中途半端な結果に。私も、喫茶店巡りでも始めて見るか、居酒屋巡りより財布にも身体にも優しそうですし。
再就職の面接 二月 午後二時の新橋
友達に再就職を頼む。これは経験した方じゃないとわからないと思いますが小説にはリアルに描かれています。面接での会話、期待されている内容、甘くない現実、打ち砕かれるプライド。私は、まだこのような経験はありませんが、想像に難くありません。
主人公はニュー新橋ビルの喫茶店で自分の状況を考え少々ブルーに。サラリーマンの聖地として親しまれたこのビル、私もランチ、飲み会と大変お世話になった思い出深き場所。再就職の苦労話が身近に感じられます。
このビル、築50年は越えていますが、まだまだ現役で頑張っています。小説に紹介されている喫茶店もよく知っているお店。久しぶりに訪ねて、サラリーマン人生を振り返ってみたくなります。ガッツリお腹を満たしてくれるお得でおいしいランチのお店もたくさんありますし。
職安で 三月 午後三時の学芸大学
職安で希望を述べて、担当の若い女性から「そんな求人は一つもないと思ってください」と返されます。さらに、歳の問題だけじゃなく、若い人でも同様にないと言われます。そして、やっと見つかった会社には応募が100人以上という厳しい絶望的な現実。思いは叶いません。
売り手市場と言われますが、条件等考えると現実は厳しいんですね。雇用形態が変わったとはいえ正規と非正規の間には大きな壁があるのは事実、同一労働同一賃金が推進されていますが、この問題は時間がかかりそうです。
定年後の再就職については、再雇用や新たな職場、独立など様々な選択肢がありますが、小説の主人公は喫茶店経営を始めてあっという間に失敗。独立して失敗したり、投資に失敗して退職金を溶かしてしまった話は私も聞いたことがあります。人それぞれだと思いますが、難しい問題です。
私は現在再雇用ですが、これはこれで人には言えない苦労が多々あります。普通が一番難しいと言いますからね。会社には失礼な話かもしれませんが、健康のために働いているんだと自分を慰めることにしています。給料も年金も驚くほど安いのが現実なんですよ。
そろそろ再雇用期間も終了する私。ハローワークへ行くのも時間の問題、どうなることやら心配です。
自分を振り返る 十月 夜十時の池袋
ここは新宿三丁目の24時間営業の喫茶店、お店にはいろんな人がいる。そんな人たちをウオッチしながら自分の過去に思いを馳せ、自分を見つめなおす大切な時間を過ごすシーン。
私が若いころは終電が無くなり帰れなくなると、歌舞伎町の深夜喫茶にお世話になったものです。学生にはタクシー代金を払う余裕もなく、泣く泣く高いコーヒー代(タクシー代より格段に安いですが)を払って始発まで粘ったものでした。
うれしいのはコーヒーに、なぜかトーストが付いてきたことを覚えています。漫画喫茶やネットカフェ、そしてスマホもない時代、思えば良き時代でした。
小説に書かれている通り、年も仕事も格好も色々な人が独特の雰囲気を醸し出して一つの空間を共有しているという、不思議な世界がそこにあります。
深夜喫茶、自分と向き合うには最適な場所かもしれません、人も時間も気にしなくていい特別な場所です。始発に乗って帰るときの、気だるい感覚も懐かしい。
喫茶店を舞台に繰り広げられる純一郎の人生模様。自分事として考えられる事も多く、今一度立ち止まって、これからの自分を見つめなおすきっかけを与えていただきました。自宅ではなく喫茶店というオアシスで。
登場する魅力あふれる喫茶店24店舗
この小説には多くの喫茶店が登場し、お店の様子や名物メニューが素晴らしい描写で描かれています。私の独断なので違うかもしれませんが、描かれている内容から「たぶんここだろう」と思う店をあげてみます。
こうして並べてみると素敵なお店ばかり。何件か行ったことがありますが、すべて巡ってみたくなりました。お店を訪問して別の機会に紹介できればと思います。これは価値ありです。
・銀座 「喫茶アメリカン」 タマゴサンド p11
・東銀座 「カフェ パウリスタ」 キッシュとケーキセット p18
・新橋 「喫茶 フジ」 クリームソーダ(ブルーハワイ) p28
・学芸大学 「平均律」 クロックムッシュ フレンチトースト p56
・学芸大学 「マッターホーン」 ミルフィーユ p59
・・・他、blogでは私が思う全24店舗を紹介しています。
☆☆☆ 詳しくは、ブログ⇩⇩をご覧いただければ幸いです。
・趣味がなかった 一月 正午の東銀座
・再就職の面接 二月 午後二時の新橋
・職安で 三月 午後三時の学芸大学
・老後の不安 八月 午後一時の新橋
・同僚との比較 十月 夜十時の池袋
・自分を振り返る 十月 夜十時の池袋
・登場する魅力あふれる喫茶店24店舗