ドラマ『厨房のありす』はさまざまな要素がうまく融合された、まさに″ハートフル・ミステリー″でした
ドラマ『厨房のありす』最終回。うたい文句だった”新時代のハートフル・ミステリー”がようやく完結しましたね。
ありすの実の母親が誰なのか?どんな風に亡くなったのか?永瀬廉演じる謎めいた青年・倖生の正体は?など秘密が一つ一つ明らかにされていくにつれて、五條製薬で起きた放火事件を起こし、倖生の父・晃生を死に追いやった犯人がいったい誰なのか?が最終回に向けての大きな最後の謎であり焦点でもありました。
それにしても、なんとも悲しく後味の悪い犯人でした。ありすの実の父親・五條誠士だったとは…。自分が五條製薬のトップにのぼりつめるために、研究チームの仲間たちを利用し裏切り、罪をなすりつけ…。
なんと言ってもありすの実の母親である美知子を放火によって殺し、その研究を横取りした上に美知子の姉の薪子と結婚。すべては五條道隆にとり入るため。しかも自らもやけどを負いながら、火事から美知子を助け出すという”悲劇のヒーロー”を演じたというおまけつき。まさに”悪のオンパレード”でした。
さらに誠士は倖生の父親であり、心護の恋人だった晃生を脅して横領の罪を着せ…。
「誰も幸せにしない真実なんて必要だと思うか?」
この殺し文句を胸に納めたまま、自ら命を絶たざるを得なかった晃生が倖生に充てた手紙。最後の一行が泣けました。
最終回前半は怒涛の展開で、これまでのストーリーとのギャップが激しすぎました。
あまりにも″悪人″すぎて、萩原聖人演じる誠士が憎たらしくて憎たらしくて…。この手の”裏の顔”のある役をやらせると、萩原聖人の演技力が一層際立ちますよね。そんな誠士にありすが投げかけた言葉には胸を打たれました。
ありすを見つめながら、静かに涙を流す心護の姿が忘れられません。
ありすが施設に預けられそうになったのを知って、ありすが家族を失ったまま生きていくことになるのが忍びなくて自分が引き取ったという心護。
ありすは自閉症で、世の中から普通とは違うと言われるだろう…ゲイである自分もいつもそうやって言われてきたから。だからありすを放っておけなかった…。ありすとなら、痛みを″はんぶんこ″しながら寄り添って生きていけるんじゃないかと思ったと告げた心護の優しさが心に染みました。
ありすは複雑な環境で育ち「自閉スペクトラム症(ASD)」という発達障がいを抱えながらも、ひたむきに料理と向き合うとてもチャーミングな主人公でした。
毎回早口で″化学記号″を含めた大量のセリフをたたみかけるこの難役は、門脇麦のあの演技力が無ければ成立していなかったと思います。
やりすぎればきっとわざとらしく見えてしまうし、その″さじ加減″は門脇麦の計算され尽くした演技力のたまものとしか言えません。”門脇麦劇場”堪能させていただきました。
さまざまな出来事を経て心護や周りの人たちとの関係性もより深まり、なにより倖生に恋をして女性としても成長していくありすを見守っている時間は幸せでした。
自分の実の父親が倖生の父親を自殺に追いやった事実を知ったありすが、倖生に出ていってもらっていいと言ったときの二人の会話。お互いを想い合っている気持ちが伝わってきてほっこりしました。
そのあと”食べ合わせ”の悪い食べ物の組み合わせと、それを打ち消す方法をいつもの早口で倖生にまくし立てるありす。二人が「一緒にいてもいい」ということを、ありすなりに化学で理解しようとするのがかわいらしくて、思わず抱きしめたくなりました(笑)。
これまで料理と化学以外では自信の持てなかったありすが、恋愛までしてひと回りもふた回りも人間としてたくましく成長していく姿に勇気をもらいました。
ありすと、倖生と、心護と…そしてありすの周りの大事な人たちの行く末も観てみたくなりました。もちろんありすと倖生の未来も…。
心温まる素敵なドラマをありがとうございました。
追伸:今回、これまで苦手だった前田敦子が少し好きになりました(笑)。あの男気溢れる和紗は最高に頼りがいがあったし、いい演技していたと思います。