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ドラマ『放課後カルテ』は、後からじんわり心に沁みてくる「保健室ヒューマンドラマ」です!
いつもの爽やかさは封印。主役の松下洸平が、これまで見たことのないようなボサボサ頭の仏頂面で牧野という小児科医を演じるドラマ『放課後カルテ』。松下くんの新境地といったところでしょうか。
小児科医といっても、学校における専門医の試験配置のモデル第一号。いわゆる保健室の先生。
学童の生活環境の調査、健康状態の把握をするのがメインの仕事で、医療行為は診察と応急処置だけ。それ以外の治療は病院に任せるということで、不満が隠せない牧野の苛立ちが伝わってきました。
「保健室にはなるべくこないでもらいたい」
と、保健室の先生とは思えない挨拶に生徒たちも先生たちも唖然…。
文句ばかりでぶっきらぼう。愛想のない牧野ではありますが、愛情がないわけではなさそうな雰囲気です。
第1話のストーリーの中心は、授業中に居眠りしてばかりの野崎ゆき。保健室で寝る時間だけが心のオアシスだったのに、牧野に「勝手に寝るな」と言われてしまい…。
友だちに話しかけられている最中にも居眠りして、友だちを怒らせてしまいます。友だちと一緒に映画に観に行く約束も、家で居眠りしてすっぽかしてしまいます。
もう一人はなぜかダルそうなやんちゃ坊主・笹本拓真。拓真は夏休み中に、裏山の立ち入り禁止区域で秘密基地を見つけました。興味を持った友だち二人を引き連れて再び裏山に行きますが、藪の中で突然倒れてしまいます。
担任の篠谷と一緒に慌てて現場に向かった牧野。牧野は拓真の症状と体を診て、病名を絞り込みます。おそらく「ツツガムシ病」。重傷になれば、肺炎や脳炎症状をきたすこともある…。
牧野は、拓真と一緒に行った生徒たちに「秘密基地は見たのか?」と聞きます。「ありましたよ。すっげぇカッコいいやつ。みんなも見れば良かったのに。アイツら信じなくて損したな。ありがとうね、笹本くん」
その言葉を聞いた拓真は牧野の腕を強く握りしめて、泣きながら「信じてもらえないのはキツかった」と。拓真に頼られて、まんざらでもない表情の牧野の姿が印象に残っています。
その後「ツツガムシ病」の恐ろしさを、生徒たちに喚起するための「保健だより」を作らされるハメになった牧野。詳しい医療知識が仇になるという展開には、クスッと笑えました。
ゆきは、給食の時間にも居眠りをしてしまいます。担任の篠谷はゆきと話をしようとしますが、ゆきは何も言いませんでした。
動画なんか観てないし、9時にはベッドに入るようにしてます。頑張ってるの。みんなと映画、ホントに行きたかったんだよ。私の気持ちなんて、誰にもわかんないよ。どれだけ我慢しても知らないうちに眠ってて。起きたらみんないなくなってて…。私のこと待ってる人なんて誰もいないんだよ。私だって、私のことがわからないんだよ!!
ゆきの、この心の叫びが痛かったです。
篠谷は思いきって牧野に相談に行きます。ゆきが心を閉じてしまい、本心が分からないと篠谷は吐露します。
「子どもたちが出しているサインを見逃さないように、必死で向き合って、声をかけているつもりなのに…。それでも分かりません。みんながみんな、本心を見せてくれるわけじゃないんです。上手く表現できない子もいれば、隠す子もいます。苦しくても苦しいって言えない子、先生だって会ったことあるでしょ?そんなに簡単に分かるなんて言わないでくださいよ」
その矢先に、ゆきが倒れてしまいます。
牧野は保健室にゆきを連れて行き話をしようとしますが、なかなか質問に答えようとしません。牧野は、この前の拓真の「信じてもらえないのはキツかった」という言葉をふと思い出します。もしや、ゆきも同じなのでは?と。
「信じてもらえなければ、話す気力もなくなるだろうな。でもな、俺は医師だ。お前が困ってるなら、その原因を見つけてそれを取り除くのが俺の仕事だ」
「信じてくれるの?」
「少なくとも、最初から疑ってかかるようなことはしない」
ゆきは、自分の苦しみをしゃべり出しました。牧野はゆきに寄り添い、優しく問いかけます。その中で、キーワードとして出てきたのが「金縛り」。
~体を動かそうとしても動かないし、しゃべろうとしてもしゃべれない~
教室に戻ったゆきは、クラスメイトたちからさんざん責められ「私だってこんな自分嫌いだよ。私だって!」そう言うと、再び倒れかけました。
そのとき牧野が教室に飛び込んで来て、倒れるゆきを受け止めました。
「情動性脱力発作と呼ばれる、一時的に筋力が麻痺する発作だ。感情のたかぶりによって起こり、ひどければこうして突然倒れるんだ。顎の筋力も抜けるから、発作直後は声も出しにくくなる。数分で脱力は治るが。過眠症の一つ”ナルコレプシー”だ。日中状況を問わず、突然激しい眠気に襲われ眠り込む。眠気は数分から数十分。一日に何度も繰り返し起こる。周囲からはただの居眠りのように見える」
「病気?」
「そんな都合のいい病気あるか?」
「こらっ!」
「周囲の人間が病気を知らないことで、知らず知らずに当人を追いつめる。今、お前たちがやってることがそうだよ。どれだけひどいことをしたか、自覚しろ!」
「先生…子どもにそんな言い方したら」
「子どもだからなんだ!野崎が倒れたのは、病気のせいだけか?彼女を追いつめたコイツらに責任がないと言えるか?」
「治れば私は変われるの?誰も困らせない、いい子になれるの?そんなのわかんないよね」
「そうだな。周りのことはわからない。でも、お前自身は変われるんじゃないか?」
「じゃあ、私頑張って治すから。ここにいてもいい?」
「当たり前だ」
実は私自身、実際にこういう子に出逢った経験があります。最初に目の当たりにしたときにはもちろん驚きましたが、まずはこういう病気が存在するということを理解するのが何より大事だと感じました。
「この病気は、周りの理解と協力が必要不可欠だ」
この牧野の言葉に、クラスメイトたちもゆきの母親も、これまでキツイ言葉を投げかけてきたことを謝りました。
「ちょっと変わってるけど、私を初めて見つけてくれた先生だよ!」
牧野が怖くないのかと友だちに聞かれたゆきは、こう言いました。ゆきの笑顔は輝いていました。牧野は一見ぶっきらぼうだけれど、病気を見つける観察眼に優れた優秀な医師なんだと思います。
「牧野先生って患者を殺したらしいよ」
転校生の冴島啓のつぶやきが、どうやら牧野が学校医に飛ばされた理由と関係していそうですね。
生徒たちと触れ合いながら、牧野が人として変化していく姿が描かれていくと想像しています。牧野に”言葉にできないSOS”を見抜いてもらえた生徒たちは、苦しみから解き放たれて前を向く力をもらえるんだと思います。
まさに、ありそうでなかった「保健室ヒューマンドラマ」ですね。
学校という舞台設定ではありますが、大人とか子どもとか先生とか生徒とか関係なく、人間同士として真剣に向き合うことの大切さを感じさせてくれそうなドラマ『放課後カルテ』。今後の展開に期待しています。