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”イッセー尾形劇場”に涙させられたドラマ『宙わたる教室』第4話

毎話感動しかないドラマ『宙わたる教室』。第4話は、イッセー尾形演じる70代の長嶺に焦点が当てられました。

三人揃ったので、藤竹の望む通り科学部発足というところまでようやくこぎつけました。この科学部での実験シーンも、毎話の楽しみになっています。

第4話ではクレーターの形成実験をやりました。金属の球を隕石に見立てて、砂に落とすという単純明快なもの。もっと大きな球を使う、もっと高いところから落とす…。クレーターを大きくするアイデアをあれこれ考える科学部員たち。

一週間ほど授業を休んでいた長嶺は、藤竹に会うために科学部の部室へ。クレーター実験の話を長嶺にすると、

「いやー、実験というか、ただの砂遊びというか…」
「砂遊びですよ。その中に一片の法則を見出だそうとするのが科学です。これで分かるのは、鉄球を大きくすればするほどクレーターもおっきくなるということです。それにプラス…」
「速度を上げれば大きくなるよ」
「その通りです。鉄球の運動エネルギーとクレーターの直径は比例関係にあります。”スケーリング則”って言うんです?これ」

ドラマ『宙わたる教室』第4話より

こんなやり取りをした後に、藤竹は長嶺を科学部に誘います。

「長嶺さんが加わってくれれば、実験の幅もグッと広がると思うんです」
「科学なんぞ私には…」
「科学って聞くと、頭でっかちなイメージ持たれがちなんですけどねぇ。実際は、手を動かしてアイデアを形にする”モノ作り”的要素が必要不可欠なんですよ」

もっと安全に衝突速度を上げられる、”発射装置”みたいなものが作れないかという藤竹。いいアイデアはないかと長嶺に問いかけると「申し訳ないが、手伝えないね」と断られてしまいます。

久しぶりに授業に出席した長嶺。定時制高校に通う人たちは、年齢も抱えている事情も環境もそれぞれ違います。なにかしらの原因で、不登校だった生徒たちが増えているのも現状だと思います。

いつも一番前の席で先生に積極的に質問しては授業を中断させる長嶺のことを、岳人は疎ましく感じていました。そんな二人は何かにつけ、ぶつかり合っていました。

授業に出席していてもタブレットを眺めてイヤホンをして、ろくにノートもとらない岳人(これはディスレクシア対策のためですが)、ずっと寝ていたり、スマホばかりいじっているやる気のなさそうな生徒たち…。

そういう子たちに対して熱心な長嶺が苛立ちを覚えるのも、当然のことなのかもしれません。自分のペースで頑張っていると主張する麻衣の言葉に対して、反論する長嶺と生徒たちの会話。

「今の子は気楽なもんだね。もう、考えられない。せっかくこの場にいるのにボーッと座ってるだけで、なんにも学ぼうとしない。時間潰しに来てんのか!なんか意見はないのか!意見もなければ感想もないんだお前ら。どうなんだ?何考えてるか分かんねぇ。社会に出てくんだよこれから!」
「自分じゃどうしようもできねぇことだってあんだよ」
「そうだよ。好きで今の自分、選んだわけじゃないし」
「へへっ。そうやって周りのせいにするのが得意だね。君たち」
「笑ってんじゃねぇ!」
「甘ったれんなよ!貴様たちは、はい上がってやろうという気概がないのか!だったらこの場にいることはないだろう!出てけっ!出てけよっ!」

ドラマ『宙わたる教室』第4話より

こう長嶺に言われて教室から出ていった生徒たちは、長嶺が授業に出るなら授業には出ないとボイコット。

藤竹と英語教師の木内は、世代間の問題は定時制高校では起こりがちだと長嶺に説きます。長嶺は福島出身で父親が10歳のときに亡くなり、母親は子どもたちを育てるために必死になって働いていた。自分は高校進学なんて考えられなかったと。地元に就職口がないから、集団就職で中学卒業後すぐに上京したという身の上話をします。

「今の若者を見ていると、もったいないと思う。自分たちがどれだけ恵まれているか気づいていない」長嶺の言うことはもっともかもしれません。

藤竹は、衝突の原因はお互いが生きてきた時代を知らないからでは?と、クラスのみんなに長嶺自身の話をしてみるよう提案します。

入院中の奥さんに、クラスの若者たちとぶつかってボイコットされていることを話す長嶺。奥さんは”親ガチャ”の話をします。どんな親の元に生まれるかは運次第で、それで人生が決まってしまう…。

今の若者たちはキラキラしたものをいっぱい目にしているから、自分の引いたカプセルがもしも”ハズレ”だったらやりきれないのでは?と言います。その奥さんの言葉で印象的だったものがありました。

「今は私たちの時代みたいにこれからどんどん良くなっていく時代じゃないもの。一回カプセルを引いたら、そこで人生決まりって思っちゃうのも仕方ない気がする。なにも約束されてない今の若い子たちに、甘いだの、頑張れだの言うのはもしかすると的はずれなことかもしれない」

ドラマ『宙わたる教室』第4話より

確かに未来が今より良くなる保証は、今の令和の時代にはない気もします。夢を見ることすら憚れるところもあるようですし、実際とても現実的な若者が多いのも事実だと思います。

ある日、長嶺は岳人があるビルに入っていく姿を見かけます。岳人はディスレクシアのためのトレーニングを受けていて、岳人がいつもタブレットを見ながら授業を受けている意味を知り、長嶺は愕然とします。

こうして長嶺は、クラスメイトの前で自分の話をする決意をします。集団就職という言葉も知らない生徒たちに、長嶺は自身の体験を語り出しました。

高校進学が決まっている友だちたちに見送られて「お前たちには絶対負けん」、心の中でそう叫びながら上京。自分の原動力は怒り。働いて働いて自分の工場を持った。学歴なんかなくても十分成功できる。あえて高校に行く必要はない。

…とここから、長嶺は奥さんの話を始めます。奥さんは青森の寂れた漁村で生まれ、家族を養うために中学卒業後、集団就職で上京。就職先は蒲田のタイル工場。タイル製造で一番キツいのは、粉まみれになること。一日働くと頭の先からつま先まで真っ白に。人の嫌がる持ち場を進んで選んで働いていた、責任感の強い奥さん。

勉強が好きで、本当は高校に行きたくて仕方がなかった。当時蒲田は働きながら定時制高校に通う人たちが多くて、お昼を食べながら教科書を見ている人たちがうらやましかったと。

いずれは定時制高校に通える職場にと思っていたけれど、25歳で長嶺と結婚。工場の切り盛りや子育てに追われ、一生懸命働くだけ。やっと高校に通えると思ったら、今度は体調が悪くなってしまい…。ちょっと歩くと息切れがして、咳が止まらない。診察を受けると”じん肺”とのこと。塵やホコリを吸い込むことで、肺の組織がかたく繊維化する病気。タイル工場で粉じんまみれになっていたことが大きな原因でした。

その後入退院を繰り返し、二年経ったら”在宅酸素療法”。鼻にチューブをつけて、どこへ行くにも”酸素凝縮器”を持って運ばなければならない。

今は入院していて、いつ退院できるか分からない。ヘビースモーカーだった自分が、奥さんの肺をダメにした原因の一つだった。若い頃の怒りは外に向かっていたけれど、今は自分に向かっている。自分が許せない。なぜ自分ではなく、妻なんだ…。

なぜ長嶺が必死になって授業に臨むのか?の理由がこれで明らかになりました。

定時制高校に来たかったのは、奥さんでした。説明できるように先生にたくさん質問したり、熱心にノートを取ったり。長嶺の一生懸命さはそのためだったと誰もが理解しました。

クラスメイトたちは長嶺の話に拍手を送り(岳人以外)、【長嶺VS若い生徒たち】の衝突は無事に解決しました。

長丁場の長嶺の話は、まるでイッセー尾形の一人芝居の劇を観ているかのようでした。話す間といい、話し方といい、教室で生徒たちと一緒に聞いているかのような臨場感があってどんどん引き込まれてしまいました。圧巻の”イッセー尾形劇場”に涙しました。

実は藤竹が岳人に渡したのは、長嶺の書いた”発射装置”の設計図でした。奥さんがノートに挟まれた”発射装置”の設計図を見つけて、密かに藤竹を病室に呼び出していました。長嶺を科学部に入れてほしい…もっと高校生活を楽しんでほしいと伝えていました。あの人も本当はずっと学校に行きたいと思ってたんだからと。

「策士ですね。奥様」と藤竹は長嶺に言いました。

「そうだ。奥様言ってましたよ。長嶺さんは地球や宇宙にそこまで興味はないかもしれない。でも何か作ってくれって頼まれたら、お金にならない仕事でも腕まくりしてやっちゃう人なんだって」
「あんた、最初からそう思ってたの?」
「えっ?なんでですか?」
「この程度の装置、あんたが思いつかないとは思えん。あんた食えんなぁ。妻より、食えん」

ドラマ『宙わたる教室』第4話より

ニヤリと笑う藤竹の姿に、こちらも思わずニヤリとしてしまいました。

タバコを吸おうとして、長嶺の言葉を思い出して吸うのをやめる岳人。ひらがなで書いたメモでいっぱいの、岳人の『物理学講義』の本を岳人に渡しながら「これを見て分かるのは、中身を知りたい。なんとしてでも理解したいという君の情熱だけだよ」と告げる長嶺。

二人は少しだけ距離が近づいたようでした。

「天体の衝突は、ときにさまざまな生物の絶滅の原因になる。しかし同時に、新しい別の何かの始まりでもある」

今回は、まさにそんな始まりを予感させる回でした。

長嶺も加わり、科学部は正式に発足!どうせなら目標を立てる方がいいという藤竹。”学会発表”という大きな目標に向かって、科学部はこれから走り出します!

ワクワクに加速度がついたドラマ『宙わたる教室』。勉強にもなって、楽しめて、最高のドラマです!

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