2020/09の読書記録
今月は不動産テックに関する書籍と憲法に関する書籍。
それと文章術と処世術の4冊です。
読書の秋の書籍にお悩みの方、少しでも参考になれば幸いです。
デジタル化を秘めた最後の鉱脈
近年目にする不動産テックにはどのようなものがあり、世の中がどのように便利になっていくのか興味があったので、こちらの書籍を手に取りました。それにしても破壊者とは不穏なタイトルですね。
データの整備
歴史を遡ると、まず不動産情報をネットで見れるようになったことが最初の衝撃でした。今では当たり前ですが、インターネットで物件情報が閲覧できることは画期的な進歩でした。
アメリカでは物件情報のみならず、物件の過去の成約価格や周辺相場やその物件の行政データや資産価値などの情報もネットで見れるようになっています。日本でもこれに追従するような、不動産にまつわる情報をネット上でデータ整備する会社が出てくるでしょう。
つまりこれからは単なる不動産取引以上のメリットを提示して、どのような付加価値を提供するのかが肝となっていくようです。そういった企業に投資マネーや優秀な人材が流れ込むようです。
付加価値
不動産取引におけるメリットの一例として書籍内では、Amazonの事例が挙げられていました。不動産仲介(エージェント)を介して物件を購入する際に、Amazonのエージェントを使うことで物件の購入額に応じたAmazonギフト券が付与されたり、スマート家電がセットで手に入るそうです。想像がつきにくい場合は、「新聞購読すると洗剤つけます!」の豪華バージョンだと思ってください。
なぜAmazonがそこまで太っ腹なのかというと、当然戦略があります。GoogleやLINEも展開しているスマートスピーカーは家庭内でのデータ収集に使われると聞いたことがある方も多いと思います。
新たに家を買う人へAmazonのスマート家電を丸々プレゼントしてしまえば、データ収集が容易になります。さらにエージェントを通じて不動産の購入に関するデータも溜まっていきます。どんな家を買った人間がどんな生活をしているのかがまとまってデータ収集できることは、これからの不動産販売の布石となって行くでしょう。
美人投票
先述した不動産企業Amazonも面白いですが、一方で不動産購入をする側面でもAmazonは革命を起こしました。Amazonが新たなオフィスを設立することを発表すると同時に、設立場所のオークションを全米で行ったのです。各自治体が大量の雇用と納税が生まれる新オフィスを自分の街に設立してもらうために、様々なアピールを行いました。
Amazonは、税制度や立地や学力などの数々の項目から品定めをしました。自治体は、節税制度や金利を安くするなど多くの優遇を申し出ました。 企業は、とうとう自治体を選ぶ時代になったのです。
不動産テックと地方自治体
書籍を読んでいて、日本の不動産や自治体事情に関することが頭をかすめました。
これからは人口が減って行く自治体を筆頭に、空き家問題をはじめとした様々なリスクが浮き彫りになります。一般的に、人口の減少とともに納税金額も減少していきます。納税者が少ない自治体には、公共インフラが整備できなくなり、人口が減れば企業も去り、雇用もなくなります。雇用がなくなると、若者は職を求めて故郷を去っていきます。
都市への一極集中は、地方自治体にとって大きな問題ですが、解決法は地方自治体が編み出すことも出来ると思います。不動産テック企業が整備して行く不動産情報には自治体の行政情報も多く含まれ、これまで以上に市民や企業は多くのことを簡単に比較出来るようになっていきます。
自分の街は選ばれる街なのか、立ち去りたい街なのか。
公平で残酷な選別はこれから始まります。
最高法規の限界と民主主義のあり方
先月(2020/08読書記録)からの引き続きとなりますが、憲法に関する書籍です。中学生の頃に学んだ違憲立法審査権が、実際にはどのように運用されているのか、興味を抱いて購入しました。
頭を悩ます一票の較差
内容は元最高裁判所判事が「国政選挙における一票の較差」や「公務員の政治的行為がどれほどの意味を持つのか」などの事例を通して、最高裁判所がどのような悩みを持ってどのような判断を下しているのか、赤裸々に語っています。日頃のニュースでも一票の較差に関してはしばし耳にしますが、どう言った問題なのかを深く考えたことはありませんでした。
しかし実際に解決する方法が非常に悩ましい問題なのです。なぜなら問題となる公職選挙法を法改正する国会議員は、議員資格を有してるとみなして良いのか、という事態に陥ります。
つまり国政選挙の選挙結果が一票の較差を生じた無効選挙となる場合に、原因となっている公職選挙法を改正する議員は本来議員資格が無効ではないか?という矛盾があります。さらに一票の較差は「一部の選挙区の問題」ではなく、「全国の選挙区の票配分の問題」なので、違憲判決が出る際にはもれなくその選挙で当選した全ての議員が違憲状態で当選した議員になるわけです。
司法部と立法府のキャッチボール
これだけ聞くと、民主主義の限界のように感じますが、書籍の中では現実的な解決策がいくつか描かれています。
しかしどのような解決であろうとも裁判所が違憲状態と判決した時に、立法府はその判決をまず真摯に受けとめる必要があります。著者はこれを司法部と立法府のキャッチボールと形容しています。
司法部の判決が強すぎても立法府が拒絶をしてしまえば無意味ですし、かといって「全ての選挙は違憲なので無効」と暴走するのも司法崩壊となるため、選挙のたびに絶妙なバランス感覚で判決を下しているところに、民主主義の冗長さと奥深さを覚えます。
憲法を通して民主主義の価値を問う
他にも興味深いと感じた点は、憲法判断の参考文献や類似事例に関する記述です。
憲法は国内において唯一無二のものであるため、判決にあたって先行事例等を調べる際には、過去の判例や他国の判決を拠り所としています。各国それぞれ憲法の成り立ちや政府機関の違いも多いなかで、参考とするのは大変であると思いました。
一方で互いの判決を参考としながら、平等とは何か、民主主義とは何か、人権とは何かと言った、「深遠な問い」に対して人類普遍的な価値を求めて、全世界で試行錯誤していく姿には尊さすら感じました。
三権分立や憲法の最高法規は規定されているから、その効用を発揮するのではなく、適切な運用がなされることで保たれているものだと改めて感じました。
「権利の上に眠るものは、法の保護に値せず」なのだから。
起業家精神と処世術
いま手元に5ドルあります。2時間で出来るだけ増やせと言われたら皆さんはどうしますか?
この一説から始まる本書籍の内容は、起業家精神に関する内容です。スタンフォードで起業家精神を教えてる教授が、10のエピソードを通してさまざまな側面から人生や成功について教えてくれます。
こちらの書籍はTwitterで見つけました。内容に興味を覚えて購入いたしました。下記にTwiiterからの引用を埋め込みました。
優勝者は、手元の5ドルを利用すらしなかったことに衝撃を覚えました。起業家精神は、このような経験から学ぶことができると思います。
足首の骨折からスノーシューズ
どんな課題でもその辺に転がっています。身近な課題をアイデアで解決することだけが、起業家に求められる能力なのです。
例として、スノーシューズの市場を作った男性が紹介されています。彼はスキーが好きでしたが足首を骨折してしまったそうです。しかしスキーの1シーズンを無駄にしたくなかったため、スノーシューズで冬を楽しもうと考えましたが、当時のスノーシューズは使い物にはなりませんでした。
そこで彼はスノーシューズのデザインをはじめました。スキーはできないけれど、雪山を楽しみたい人向けのスノーシューズでした。さまざまな紆余曲折を経て彼は、今まで存在しなかったスノーシューズの市場を作り上げました。
人生はニャンとかなる
知的好奇心を持って周りを見渡せば、事業の種たくさんあります。成功者にと自分との違いを探して落ち込むよりも、成功者と自分の共通点を探して可能性を信じることが大切です。
有名な話ですが、水が半分入ったコップを見てどのように感じるかはその人次第です。「まだ半分残っている」のか「あと半分しかない」のか。
結局は自分に与えられたものを、人生にどのように生かすのかが大切です。
本書を読むことで、人脈や金銭や常識と言ったものはすべて思い込みであって、成功への十分条件とはなり得ないことを教えてくれています。
一方で、この本で語られることはまだ自分には実感が少ないことばかりでした。頭では理解できますし、さまざまな先輩方から教わったエッセンスに近いことも多かったです。しかし経験して学ぶことも多いと思います。
人生の処世術を盗み見た気分です、これからの人生で本書の内容を自分の糧とできるよう、日々挑戦していこうと思います。
文章を書く力を身に着ける。
社会人になって、人に伝えることの重要性を感じました。加えて今年は感染症が流行し、リモートワークが増えました。オンラインでのやりとりは口頭でなく文章で伝えることが多くなり、文章の書き方を学ぼうと思いこちらの書籍を購入しました。
話し言葉と書き言葉
まずはじめに、生まれてからずっと日本語を話し続けてきているのに、読みづらい文章しか書くことができないのは、話し言葉と書き言葉には異なるスキルが必要だからです。
話し言葉には、表情や身振り手振りなど非言語な部分で感情を理解することできます。しかし文字でのコミュニケーションにおいては、全ての非言語な部分が、除外されてしまうため工夫が必要です。
話し言葉のまま文章を書くと、全く意味が理解できないと思います。話し言葉から非言語な部分を取り除くと、論理が破綻していることが多いからです。他者へ理解してもらえる文章を書くには、論理性が大切です。
文章は何のために書くのか。
一方でいくらしっかりとした文章であっても、学術論文ばかり読みたくないのが正直な心情です。自分含めて誰しも文字だらけの文章は読みたくはないものなので、いかにして興味を持ってもらうのかが大切です。つまり人に読んでもらうためには、読まれやすい工夫が必要です。
文章に限らずどの分野でも工夫をしています。映画は本編を見てもらうために、予告という手法を開発しました。漫画は、読ませたい部分をきわだたせるために、背景などの細部を繊細に描く必要があります。文章にも本筋の主張だけでなく息抜きみたいな部分も必要です。例え話を用いたり、言いたいことは一度だけなく、言葉を変えて何度も主張したりします。
そうして文章を書く目的は、何故でしょうか。ひとえに何かを伝えたいからです。しかし論理が破綻していると読みづらい文章となってしまいます。かと言って論理だけがしっかりしてる文章もまた読みづらいものです。論理は土台で、その上に主張を展開していく。たまに息抜きさせるような文章もまた大切です。
文章を書くことと論じること。
本書を読んでいると、客観性を持った文章を書く時に意識することは、論文を書く時に助教授に指摘されたことと似ていました。先行事例や類似事例などから引用することで、自分の主張を思いつきではなく、論理の飛躍がないことを証明する必要があります。
研究者の方の本が読みやすいのは、きちんと文章を書く訓練を受けているからなのだとしみじみと感じました。以前読んだ安宅さんの書籍「シン・ニホン」も主張が明確になっていて、読みやすかったことを思い出しました。
後書き
自分は、憲法を取り巻く民主主義を成立させる運用手順であったり、不動産へ新たな価値を生み出す仕組み作りといった「システム設計」に強い関心があります。
どのような運用や仕組みによって、民主主義や資本主義がこれからも存続してゆくのか、令和に生きる一市民である自分もきちんと考えていかないといけないと思います。
これからも学んだことをこのように発信していきます。ここまでお読みいただきましてありがとうございました。