【書評】 ネットでおなじみ伝説の狙撃手シモ・ヘイヘの物語 『白い死神』
ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。77冊目。
フィンランドと聞いて浮かぶもの。
まっとうな人生を歩む方々なら、NOKIAやイッタラ、マリメッコなどが浮かぶのであろう。
かわいいワンピースを着て、ツブツブのついたおしゃれなガラスのお皿でトナカイの肉を食べながらカウリスマキ兄弟の映画を見ているような。
だが、私のようなインターネットからしか世界をみてこなかった人間には違うフィンランドが見えている。
フィンランドとは「Linux」を作ったリーヌスが生まれた国であり、日本人も大活躍する「エアギター」選手権の聖地であり、フィンランド人もイマイチ納得しきれない「奥様運び競争」が行われる国だ。ちょっと変わってる。
そして、伝説の超人スナイパー「シモ・ヘイヘ」が生まれた国である。
「シモ・ヘイヘ」とは第二次世界大戦中のフィンランドとソ連間で戦われた冬戦争で活躍したフィンランドの兵士で、ネットでは伝説中の伝説として語られている。
「ウラー」と叫びながら突撃してくるソ連兵その数100万、対するフィンランド兵25万。兵力も火力も圧倒的に違う。フィンランドにとって圧倒的に不利な戦況の冬戦争において、最も激しい戦いの地となったコッラー川の戦場で、確認戦果にして505人のソ連兵を狙撃するという超人的な活躍をした狙撃手が「シモ・ヘイヘ」だ。
当然ながらソ連側からは恐怖の対象となり、いつしか「白い死神」と呼ばれ恐れられるようになった。
「シモ・ヘイヘ」の伝説は、検索をすればいくらでもまとめサイトが出てくるが、どれもが荒唐無稽な内容だ。
4000人のソ連兵を32人で撃退した
300メートル以内であれば1発で頭を打ちぬいた
シモ・ヘイヘの居る林に入り込んだ小隊が1時間で全滅した
150メートルの距離から1分間に16発の射撃をしすべて命中させた
信じられないような話が並んでいるが、当の本人は存命にも関わらず一切メディアには登場していなかったので、それを確かめる手段も無かった。
だが、とうとう、60年を経てインタービューに成功したのが本書だ。
そして、本書を読むとわかるが、実際のシモ・ヘイヘは、ネット上の言い伝えなんぞ生ぬるいほどの怪物だった。
紹介されるシモ・ヘイヘの仕事っぷりは、まさに寡黙な職人といった風情だ。真っ白な外套にスコープのついていないライフル。じっと雪の中に潜み、ターゲットが現れると一撃必殺で仕留めていく。
本書では、そんなシモヘイヘからみた冬戦争におけるコッラー川での戦闘の流れが、シモヘイヘの活躍が、上官たちとのやりとりが、淡々と語られる。とにかく淡々と語られる。それは、一人の英雄から見た冬戦争の現場の記録であり、戦場の雰囲気を知ることができる資料でもある。
フィンランド人の気質といったものが垣間見えるので、その点でも興味深く読めた。シモヘイヘ以外の登場人物にも傑物が多く、戦争で人が死ぬ話なんであれだけど、とても面白いのだ。
ちなみに、頭から最後まで超人エピソードが続くドキドキワクワクな英雄物語というわけではない。なので、派手な内容を期待するとがっかりするかもしれない。
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